第164話 基本はここから⑩
キヨカ達にちょっと断りを入れてサンバに念話をしてみた。
『サンちゃん、もう寝てるかー?』
『ん? 起きてるぞ? 珍しいな、カオさんから念話なんて』
『いや、今どこ? ワッカナイから戻った? 茨城のシェルター? それとも新潟に出発した?』
『あ、先日はどうもありがとございました。フジにテレポートスクロールを渡しました。こっちも内緒で行ったのであの後すぐに戻りましたよ。そんで今はシェルターで物資を手配してもらって、それ持って栃木に戻ったとこです』
『んん? 栃木なん? 広島に行くのに新潟へ向かうとか言ってなかったか?』
『はい。新潟から船で島根へ、そこから陸地を通り広島へ向かう予定です。船でぐるりと回れれば良かったんですけど、九州地方が今凄いらしくて……、回るのは無理らしいですね』
『うん?』
『あ、それで新潟に出るのに、茨城から栃木を越えて新潟へ出る予定ですが、部隊はまだ栃木で足止め食ってます。それで物資取りにテレポリングある俺が茨城へ戻りました。もう最初から物資出せってんだ。ケチケチするから戻るはめに…』
『新潟からは足っつーか船はあるん?』
『あー、ちょっと前までフジさんが持たされてた船は稚内で沈んじまったんだけど、新潟で海自の新潟基地があるから、そこで船を調達予定っす。ま、その前に新潟の新発田駐屯地に滞在になるかなぁ。
移動って本当に大変ですよね。空も海も陸も自由に行き来が出来てた頃が懐かしいっす。テレポートリングがあっても結局ブックマークがなければどうにもならない。自分の足だけが頼りか。あ、すんません。愚痴って。カオさんの用事って何すか?』
あー、地名が出て来過ぎて俺の記憶の限界点を超えている。俺、何が聞きたくて念話したんだ?
あ、そうだ。
クマの実家の新潟に行くなら、サンバが新潟へ行く話をしてたから一緒に連れて行けるか、とか、ちょっと思ったんだった。いや、ほんと、軽くちょっとだけ思った。
『あー、今ちょっとそこ抜け出せる? 洞窟の俺の部屋にこっそり来れる?』
『はい、大丈夫ですが……。あ、じゃあ飛びますね』
サンバとの念話が切れた直後にドアがノックされた。サンバはよく洞窟の俺の部屋へ遊びに来ていたので、ドア前のブックマークがある。
静かにドアが開いてサンバが入ってきた。
「夜分遅くにお邪魔しまーす」
入ってきたサンバを室内に居た皆に紹介、サンバにも血盟の仲間を紹介した。
そして、サンバが広島へ向かっている話と経路をサクッと話すと、キヨカ達は直ぐに理解したようで、地図を広げ始めた。
俺が持ち出した話だが、慌てて止めた。
「待ってくれ。その前にサンバに確認したい。広島へ向かう今回の仲間は信頼出来るのか?俺のブックマークで行けるとこまで送ってやりたいが、お前だけではダメなのか?」
サンバは押し黙った。
皆が見つめる中、結んでいた口をゆっくりと開く。
「仲間は信じられる。今回は何と上官が居ないんだ。いや、最初は居たんだが直ぐに引き返しちまった。普通はこんな事はありえない。
上のやつらは何に忙しいのかバラバラに動いているか、どっかのお偉いさんと閉じこもっていてこっちの指揮を取るやつがいねえ。
広島に行ったハマヤから連絡は入る。生きている。ハマヤの部隊の者達も生きている。ただ移動手段が無くてこのままだとジリ貧だそうだ。
どうしてもっと物資を持たせないんだ!陸海空が自由に移動出来た時とは違うんだ。アイテムボックスがあるのに中身がない!
広島へ立つ直前にハマヤが預かっていた金持ちどもの資産は別のボックス持ちの隊員に移された。
救援部隊にほんの少量の物資だけとか、クソ野郎クソ野郎クソ野郎!」
サンバが叫んでテーブルを叩いた。
そして顔を上げてマルクが居るのに気がつき慌てて詫びてきた。
「スマン。今の汚い言葉は悪い大人の見本だ。マルクは使うなよ」
うむ、マルクが汚い言葉を使うようになったら俺は泣くぞ?クソ親父とか言われたら絶対に泣くぞ?
マルクにちゃんと言って聞かさねば。
「そうだぞ。クソ野郎は下品な言い方だ。しかし頭にきてどうしても使いたい時は、丁寧な言い方にするんだ」
「丁寧な?」
「そうだ。クソ野郎…、クソは『う◯こ』で、野郎は『男』だ。だから、もしも言うなら、あくまでもしも、だぞ?その時は『う◯こ男!』だ」
「カオさん……」
「カオさん」
「わかったー!」
「いや、マルク、わかっちゃダメだろ」
「それでサンバさん、今一緒に居る人達の中にはう◯こ男は居ないの?」
「そうそう、そこが気になってた」
「……いませんよ。カオさん。少なくともう◯こ男は」
「しっかし地下シェルターも大概だな。自衛隊で下っ端、あ、すまん、下の者だけの行動って普通はありえんのだろ?」
「一応、俺がリーダー格みたいなもんなのかな。アイテムボックスあるしな。それに何とか広島に付ければハマヤンは士長だからな。俺はリーダーなんて性分じゃないから早く合流したいぜ」
「どう言う集まりの部隊なんだ?」
「ん?広島の?」
「いや、今サンバさんが率いてるのってさ」
「ああ、有志で救援名乗り出たやつ7人。信頼出来そうな上官も2名居たけどその人らが参加すると他からの横槍が激しくてさ、結局、変な上官が付いて出発したがすぐに俺らだけになった」
「そっか。実は俺らは明日、群馬、八王子、新潟方面へ行く予定なんだ。それでサンちゃんの事を思い出してさ」
キヨカが広げた地図を見せる。ブックマークの箇所は赤ペンで印が付いている。
「栃木のここまで来てもらえれば拾えますね。新潟は魚沼市か南魚沼市、ここに飛ぶ事になります」
「いや、これは有難い……、新発田駐屯地に行くのもラクだ」
「新潟のブックマークもしておいてもらえれば、何かあった時の中継点として落ちあえる。あ、マーク名は合わせておいてな」
「では明日は自衛隊の方々を先にお送りしてから、加瀬さん球磨さんのご実家へ?」
「うーん、サンちゃん達が栃木の待ち合わせ場所に来るまで時間がかかるだろうから、その間俺らは先に八王子に行こうか」
「はい。あ、でも明日は参拝ツアーがありますね」
「ああでも5時からだし、6時過ぎには連れて戻るから、そしたら出発しよう」
「洸太くんは参拝ツアーの後は留守番ですね」
「そうだなー、危険なとこは連れていけないからな」
「はい。ではタウさんには報告を入れておきますね」
「ああ、頼む。サンちゃん、食糧とか足りるのか?」
「まぁ今は何とかな。実はさ、学園都市地下シェルターは近々崩壊するかもしれない。こんな事、民間人に言っちゃいけないんだろうけど、俺の独り言な。
あの地下はさ、金持ち達に食糧も占領されているんだ。最近は俺たち自衛隊の下っ端まで回らなくなったのか、かなり少ない。それで離職希望者が増大している。
民間人の避難民は受け入れない、救助にも行かない、そして隊員の食事もままならない。『無い』のではなくて『出さない』んだよ、自分らの未来の分として取っておきたいのさ。だから地上の駐屯地を探して目指したいと言う者が出初めている」
「そっか」
俺はサンバの前に立ちトレード画面を開いた。そして自分が持っている食糧を適当にサンバの画面へと移していく。
「カオさ……ん」
サンバの目に涙が浮かび上がって目尻から流れ落ちていく。サンバは声を出さずに泣いた。
横に居たカセ達も目を赤くしている。
クイッと引っ張られて横を見るとマルクがタオルを差し出した。俺、もらい泣きしてた。あと鼻水も出てた。
「サンちゃん、戻る前にもう少し付き合ってくれ」
俺はブックマークの中から幾つかのショップをサンバを連れて訪れた。
「ブックマークをしておけば、時間がある時に取りにこれるぞ。まぁ、生物はないがな」
実はこれはタウさんからの提案だった。キヨカが知らせた後、タウさんから念話をもらった。
幾つかのブックマークを共有するように、と。
そうだ。ショップは俺たちだけのモノではない。(いや、元の持ち主は居る)
国民の誰でも取りにきていいのだ。(いや、元の……まぁいいか)
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