第149話 現実とゲームと②

 俺たちは車に乗り込んだ。


 運転席にキヨカ、助手席にアネが、後部座席に俺、マルク、カスパーだ。

 ……カスパーさん?何故に乗る?車内でモンスターと戦う事は無い、と思う。消そうと思ったがキヨカから念のため出しておいてくださいと言われた。


 運転手のキヨカには申し訳ないが、馬での移動に比べるとラクだ。隣でマルクがうとうとし始めた。



「いいぞ、寝ていなさい。何かあったら起こす」


「ううん」



 マルクは頑張って目を開けようとしていたが、とうとう負けて俺の肩に頭を乗せて寝た。

 車の揺れは気持ちがいいからな。


 だがしかし、俺は寝ないぞ。女性(キヨカ)に運転を任せて俺がグースカ寝るなんて事があってはならない。



「カオさんも寝てください。ブックマーク地点に着いたら起こしますね」


「いや、大丈夫だ」



 俺はアイテムボックスから、酸っぱい系の飴を探して口に入れた。


 すっぱー。

 よし、目が覚めたぞ。



「あ、キヨカもいるか?酸っぱキャンディー…?だそうだ」


「ありがとうございます」



 キヨカでなく、助手席のアネが手を出したので渡した。アネは袋から飴を取り出してキヨカへ渡していた。



「カオるん、マッツのアイスコーヒーある?ブラックでちょうだい。2個ね」


「おう」



 俺は検索でアイスコーヒーを探して取り出した。アネは運転席と助手席のドリンク置き(ドリンクホルダーと言うそうだ、後で聞いた)にそれぞれ置いていた。


 おっ、後部席にもあるのか。あとでマルクにも出してあげよう。


 途中でガソリンスタンドを見つけたようでキヨカは車をそこに入れた。店員は居なかったので勝手にガソリンを入れた。



「カオさん、ガソリンスタンドは後々来ることがあるかも知れません。ここを皆でブックマークしましょう」



 マルクも起きて店内を見て回っていたので、戻ってきたタイミングで4人ともブックマークをした。


 今どの辺まで進んだのか聞いたが、見せられた地図も番号『0』から『1』の半分も進んでなかった。

 北海道、広すぎだろ。



「カオさん、使えそうな車はここでガソリンを満タンにしておきましょうか。この先、使えるスタンドがあるかわかりません」



 キヨカにそう言われて、さっきの検索の車を上から20台くらい出して、キーを探した。

 1台はキーが見つからずアイテムボックスへとしまった。


 キヨカが忙しそうに車にガソリンを入れていく。どの車もガソリンはそれほど入っていないが、カラではなかった。



「店頭に置かれてた車ですよね。恐らく試し乗りのために多少は入れておいたのでしょうね」


「店頭に置かれてたって何でわかった?」


「ほら、フロントに値段の紙が置かれているでしょう」



 ああ、なるほど。免許も無いし車屋なんて行った事なかったからな。キヨカのガソリン給油に付き合いながら話をした。俺もやろうと思ったが「危ないので」と止められた。


 アネとマルクはトイレに行ってる。戻ってきたら俺も行こう。

 そう思ってたが、アネに引き留められた。



「ねぇねぇカオるん、普通の車以外も持ってる?」



 普通の車以外?トラックとかだろうか?



「車屋でトラックが並んでるのは見た記憶ないなぁ。持ってるトラックは津波で流れてきた壊れてるのだと思うぞ?」


「違う違う、トラックとかじゃないー。キャンピングカーとかよ。いま流行りだから販売店にも並んでるの見た事あるのよ。カオるん持っていそう。検索してみてー」



 アネに言われて検索してみると、これまた10台以上がズラリと一覧に名前が出てきた。



「ある。あったぞ?」



「出してー。キヨ姉、こっちもガソリンマックスにして欲しい。カオるんキャンピングカー持ってるの。あ、カオるん、あっちの車はしまっちゃってね」



 アネに言われてキャンピングカーを出した。勿論キーもだ。そしてガソリン満タンの車はアイテムボックスへと収納していく。

 トイレから戻ったマルクはキャンピングカーに興味津々だった。



「やっぱりねー。店頭に並んでたので中もそれなりにカスタマイズされてるって思ったんだー。あ、カオるん、トイレ行くならこれに水を汲んできてね」



 そう言いポリタンクを渡された。トイレを済ませた帰りに店舗の奥の給湯室でタンクに水を入れた。ここらは水道が止まっていないんだな。

 戻ると3人は車内であちこちを触っている。マルクもキヨカに説明を受けている。



「カオるん、これ、トイレも付いてるから便利ー。トイレットペーパー容れておいたー。タオルもね」


「バッテリーも使えそうですね。冷蔵庫もありましたが私達はアイテムボックスがあるから必要ないですね」


「でも冷やしたい時に使えて便利よー」


「父さん父さん!ベッドもあるよ!止まると天井にもベッドが出来るんだって」


「お、おう。そうだ、キヨカもトイレに行っておけよ」


「はい、そうですね、ここで時間をとりすぎました。私が戻ったら出発しますね」




 キヨカが戻り、キャンピングカーで出発となった。

 さっきとほぼ同じポジションだ。運転席にキヨカ、助手席にアネ、その後ろにあるソファーに俺とマルクが座る。カスパーは後部のベッドに腰掛けていた。



 暫く走ると目的地に着いたようだ。



小樽おたるです。皆さん『小樽駅おたるえき』でブックマークをお願いします」



 直ぐ前は港のようだが船はなかった。元から無かったのか津波で流されたのか、それはわからんが港はそれほど混乱しているようには見えなかった。


 ここまでの途中、景色の中に家々は見えるが、人は見えなかった。どこかに避難しているのか家に篭っているのかはわからない。

 今回はブックマークの旅なので、避難所や民家を訪ね歩いたりしない。救助が必要な人に出会った時は『救助チーム』を呼ぶ。



 ブックマークが終わるとすぐに車に戻り次のポイントへと向かう。

 運転手がキヨカだけと言うのはキヨカの負担が大きいと思う。俺は念話でタウさんへ相談した。


 タウさんは直ぐにドライバーを2名選出してくれた。救助チームは警視庁や警察庁、海上保安庁などの人で組まれていたが、その中から運転が得意な人を探したら全員が手を挙げたそうだ。


 後日交代する予定でとりあえず2名、俺がテレポートで迎えに行った。連れてきた2名はキャンピングカーの運転席であっという間に操作に馴染んでいた。



「欲しかったんですよねぇ。まぁ時間がなくて買えませんでしたが」



 そう言って嬉しそうに運転していた。助手席にはキヨカで、交代要員は、運転席の後ろから楽しそうに運転席を覗いていた。

 次のブックマークポイントでブックマークを済ますとキヨカは助手席ではなく後ろにやってきた。


 今回廻る先が記された地図を交代要員へ説明して渡してきたそうだ。



「お疲れさん、ありがとうな」


「いえ」


 俺とキヨカとマルクは、テーブルを挟んだソファーへと座った。アネは少し寝てくると、後部のベッドへ行った。


 テーブルの上には段ボールが置かれていた。『手作り暮らし』から渡されたエント製品だ。



「これをどう使うか……」


「そうですねぇ、北海道は広すぎます。道内でも街には避難所があるでしょうが、こうも家々がバラバラと点在していると、限られたエント製品を渡すのに悩みます。普通に配り歩いたらあっという間に無くなりますね」


「そうなんだよなぁ」


「でも父さん、魔物植物は結構居るよ」



 マルクが車窓から外を見て時々呟くんだ。「あ、」とか「カラツいる」とな。

 自然豊かな山波…としか、俺には見えないのだが、どうもそこそこ居るらしい。



「今回はブックマークが第一優先事項です。要救助者に出会った時に使いましょう」


「うん、でもいっぱいいるね、カラツや以外でも変な動きの木がいっぱい居る」



 ええ、何だよ、変な動きって。クネクネダンスとかか?あれっ?踊る木の人形とか昔流行ったよな?

 あんな感じなのか?俺はそこまで目が良くないから見えないぞ?近くで踊ってくれないと。



「そう言えばさ、函館山はこだてやまにエント居たよな。エントが居るのってあそこだけなのか?」


「どうでしょうね、あれはカオさんの精霊が火山灰を吹き飛ばしたので出てきたのですよね」


「じゃあさ、今進んでるとこも父さんの精霊さんに吹き飛ばしてもらってるじゃない?ここらにもエントさん達出てくるかな」


「うむ、出てきそうだが、今回はそれを確かめる時間がないからな」


「そうですね。あの、逆にさっさとブックマークを済ませたら、北海道で検証する時間がとれるのでは?」



 そこで運転席からこちらに声がかかった。



「では、スピードを上げますね。シートベルトは外さないでくださいね」



 そう言われて慌てた。シートベルトをしてなかった。見るとキヨカもマルクもソファーのベルトをちゃんとしていた。

 慌ててベルトをしようとしたが慣れていなくて上手く挿さらない。



「父さん、それ裏返しだと思う」



 マルクが俺のベルトをガチャリとはめてくれた。

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