第148話 現実とゲームと①

 タウさんとカンさんは病院拠点のトンネル造りと、筑波山つくばさんの麓の洞窟造りをする。

 ミレさんは、LAFの社員達とサーバーの引越しが可能かの相談をする事になった。


 ゆうごはLAF地下でゲームのレベル上げだ。だいたい2週間くらいの予定を組んでいるみたいだが、俺らとアネは何をするんだ?



「私は何をするのー? 休暇?」


「いえ、残念ながらもう少し働いていただきたいと思っています。ブラックで申し訳ない」



 タウさんはアネから俺へと視線を移した。



「カオるんには、北海道でブックマークの作成をお願いします。アネさんには、カオるんの警護をお願いします。もちろんマルク君とキヨカさんもセットです」



 何かを言おうと腰を浮かしたマルクが安堵したように腰を下ろした。



「北海道のブックマーク?」


「はい、北海道は広すぎます。ですので今後の北海道遠征に向けて、まずある程度の場所へテレポートで行けるようにしたい。そのためにカオるんに先に北海道入りをしていただきたい」



 タウさんがキヨカ、マルク、アネに地図を渡した。いつの間に作成したのか、北海道の地図に赤ペンで印が付けられている。



「北海道の主要な場所を記してあります。災害の状態によっては無理な場所はその近辺でのブックマークで結構です」



 キヨカとマルクが地図に顔をしかめながら覗き込んだ。アネは興味を失くしたように地図をアイテムボックスへとしまってしまった。



「結構な数ですね」


「ええ、しかも北海道は広い、馬での移動もかなり時間がかかりそうですね」


「2週間で全部回れるでしょうか……」


「そうですねぇ……、ただブックマークをしながら走り回るだけなら何とか。でも……」



 何だ?タウさんとキヨカが俺をチラリと見た。マルクも釣られたように俺を見る。



「そうか。父さんだもんな」


「ええ、カオさんです」



 えっ、何? 俺ですが、何か問題でも?

 いや、馬に乗れないし迷子になるしで問題ありありかも知れんが……、俺、足手まとい?



「そうですね。カオるんですからね」



 タウさんまで、ソレ言うか?



「どうしますか? 途中で出会う要救助者、行く先々で救助をしていたらとても2週間では回れません」


「ふむ、困りましたね。本来はブックマークだけをお願いしたいのですが、カオるんですから、助けないわけがないですね」



 えっ?救助の話?



「父さんは絶対助けると言うと思う。放っておいたりしないから」


「そうですね……。では、こうしましょう。こちらで救助チームを幾つか作っておきます。要救助者を発見した時点で洞窟へ戻り、チームを連れて行ってください。救助はその者達に任せて、カオるん達は次のブックマークへと進んでください」



 どうやらマルクとキヨカは納得したらしく深く頷いてからこちらを見てニッコリと笑った。



「大丈夫、大丈夫。私はそこらにいる敵をバッサバッサと斬って、カオるんはキヨ姉にここと言われたとこをブックマークすればいいの。助けてぇって人が居たら、キヨ姉とマルクがどうするか決めるから、そしたらソレに従うのよ」



 お、おう。なるほど、アネよ、簡潔にありがとう。


 タウさんの説明が終わり、ゆうごやミレさんがサッサと部屋から出ていった。

 俺は大抵のものはアイテムボックスに入っているので特に用意はない。マルク達もだ。


 アネも直ぐに出発出来ると言う。タウさんがさっき言ってた救助チームが出来るまで待った方が良いのだろうか?

 タウさんに聞こうとしたところで、本部のドアがノックされて段ボールを抱えた女性らが入ってきた。



「今、あるのはこれくらいなんです。急募で人を増やして作ってます」


「ありがとうございます。お手数をおかけします」



 タウさんが受け取った段ボールから、エントの枝で作ったアクセサリーが見えた。

 と言う事は「手作り暮らし」の人達かぁ。ねえさん達ほどお歳を召していないので、『うれとま』ではなく、ええと……、



「未熟なトマトか……」


「いえ、私達は、食べ頃トマトです」


「未熟や青いトマトと一緒にしないでぇw うちら食べ頃よ」



 ええー……トマトがまた増えている。いや、ありがたいんだが名前が覚えられん……。


 彼女らはタウさんから洞窟コインを受け取って出ていった。(※洞窟コイン=洞窟内でお金の代わりに使えるコイン)



「キヨカさん、これを持って行ってください。どこで使うかの采配は貴方あなた方にお任せします。カオるん、ブックマークよろしくお願いします。いつもいつも大変な役目をお願いして申し訳ない」



 タウさんが真剣な眼差しで俺を見た。



「うん。大丈夫だ。俺に出来る事をやるさ。勿論、マルクとキヨカ、アネさんと一緒にな」


「うん!」

「はい、よろしくお願いします」

「カオるん、ヨロねぇー」


「じゃあ飛びますか。まずは、…………まずは、どこだ?」


「すみません、カオさん、まずは苫小牧とまこまいへお願いします」






 苫小牧港とまこまいこうへ来た。



「カオるん、この辺の灰もすっ飛ばしてーって精霊さんにお願いして」



 アネに言われて精霊を呼び出した。そうだ、サモンも出すように言われていたっけ。サモンはカスパーを出した。


 アンデッドの召喚獣……獣ではないか。黒尽くめのマントを被った闇の僧侶……みたいな?俺は詳しくは知らん。

 ただ、と遭遇した時に花粉攻撃に耐性がありそうなアンデッド系にした。しかもカスパーは地面を滑るように移動するので速い移動にもってこいなのだ。



 キヨカとマルクは地図を開いている。チラリと見ると地図には番号がふってあった。俺が見た事に気がついたキヨカが俺とアネに向かい説明をする。



「ここ苫小牧とまこまいから、時計回りに北海道の沿岸を回ります、そこから徐々に渦を巻くように内陸へと進みます」


「うん、それはキヨ姉に任せた。それで馬でいいの?」


「はい。私が莉緒りおの後ろに、カオさんはマルク君の後ろに。私達がまえを走りますのでマルク君は離れずに着いて来てください」


「わかったー」


「カオさん、精霊さんに少しお願いしたいと思います。伝えてもらえますか?」


「おう」



 キヨカは地図を精霊に見せて自分達が進む方向の灰を吹き飛ばしてほしいと頼んでいた。




 俺たちは北海道を進み始めた。


 北海道は広い、土地も広ければ、道も広い。精霊が灰を吹き飛ばしてくれたおかげで灰に悩まされずに進める。


 しかし、広い。行けども行けども景色が変わらない。進んでいないのではないかと思えてくる。

 そしてケツが痛い。馬での長時間の移動は厳しいな。



「もう!お尻痛あーい! カオるんカオるん、休憩しよー」



 前方でアネが叫んだ。激しく同意するぞ!

 馬から転げるように降りて、ガニ股でヨロヨロと歩く。



「ねぇねぇ、灰がないから馬車で良くない?」


「道路もひび割れていないし、車……で移動したいですね」


「俺、免許ないぞ」


「私あるけどペーパー!」



 勿論マルクはまだ12歳、無免許だ。

 3人がキヨカを見た。



「免許ありますが車がないです。カオさん持ってますか?」


「あー、どうだろう。津波で流されて来たやつばかりだから動かないんじゃないか?」


「エンジンが水を被ってたらダメですね」


「えぇー、カオるん、新品の車持ってないのー?絶対持ってるはずよ、だってカオるんだもん」



 いや、アネよ、その俺への変な信頼はどこから来てるんだ。



「父さん、壊れてない車で検索してみたら?」



 おお、我が息子よ、賢いな。

 俺は早速アイテムボックスの検索を利用して心の中で唱えた。


『壊れていない、新しい車ぁ〜』



 すると、アイテム一覧にズラリと名前が並んだ。

 免許無し、車に興味無しの俺なので、表示されている車の名前が今ひとつわからん。とりあえず1番上のやつを言ってみた。



「れ、レクサス?って言うのでいいか? これ4人乗れるのか?」


「レクサスだってー、いいんじゃない? キヨ姉運転出来る?」


「え、ええ。出来ると思いますが、キーあるのかしら。あとガソリンは入ってるかしら」


「カオるん、とりあえず出してみてー」



 出した。

 ツルピカの新品が出てきた。これは、流れてきたやつではなく、どこかのショップで適当に頂戴したやつだ。



「キーが無いですね。カオさん、このナンバーでキーがあるか検索してみてください」



 キヨカが車の前方のナンバープレートを指差した。アイテムボックスにそこまでの機能があるか?と思ったが、とりあえずやてみた。


 出た。一覧にひとつ。


 …………ああ、店舗の中の物も適当に収納していったからその中にあったのだろうか?

 アイテムボックスからそれを取り出してキヨカへ手渡した。



「父さん、凄い!」


「ほらね、カオるんなら持ってるって思ったんだー」



 俺たちは車に乗り込んだ。

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