第137話 津軽海峡……②
タウさんとカンさんが俺の目の前まで移動して来ていた。
「え、あ、ええと、船を風で押して動かしてもらった。そんであの、すんません。俺、船の乗客らが中に入っていったんで誰も居ないと思ってたら若干名に見られちゃって……」
「別に構いませんよ。それにもう今となっては魔植物や魔犬もいますし私達も能力をある程度オープンにしています。隠しておけるほど平和な世の中ではありませんから」
あ、いいんだ。てかもっと早くに言い出せばよかった。ビクビクしてた自分が情けない。
「それで話が戻るけど、津軽海峡を越えたとこにブックマークがあるんだよ。いや、精霊のおかげで異様な速さで船が進んでさ、それで船を着けられる港を見つけたのがそこだったんだ」
「ちょっと待ってください、カオるん? 海峡を越えたと言いましたか? 津軽海峡を越えた?」
「ああ、船員がそんな事を言ってたから、ブックマークを津軽海峡の冬景色にした。その……絶対津軽海峡かと聞かれたら自信はないけど。あ、精霊に聞いてみるか? うちの精霊、地図が読めるみたいなんだ」
俺が照れながら言うとタウさんとカンさんは驚愕していた。あれ?マルクとキヨカが何か微妙な顔になっている?
「海峡越えたって、タウさん、そこは北海道じゃねぇかよ。カオるん北海道に上陸してたんかよ!早く言えよ!」
「すまん……」
ミレさんに怒られた。
「まぁまぁ、ミレさん、早くに報告されていても、次から次へと起こった事に忙殺されていましたから、結局北海道への上陸は今くらいになったと思いますよ」
「それよりこのタイミングでー、北海道のブックマークがあったって事でしょ?カオるん、グッジョブじゃん?」
アネに褒められた気がするが素直に喜べない。もっと早くにゆうごを迎えにいけたはずだからな。すまん、ゆうご。本当にすまん。
「悪りぃ、カオるん。八つ当たりだ。ゆうごは出来る事は自分でやる主義だ。そのゆうごがヘルプを出した今、ブックマークがある事を喜ぶべきだったな。」
「ただ問題はカオるんのブックマークが本当に北海道かどうかですよね。どうやって確認しますか? とりあえず飛んでみますか?」
「そうですね、どちらにしてもこの7人で北海道へ救援に向かう予定でした。拠点に残る者達への引き継ぎをしっかりしてしまいましょう」
「あの、その精霊殿は地図が読めるのですよね? 今ここに呼び出す事は可能でしょうか? この地図で上陸場所を示してもらうのはどうでしょう」
いつもは静かに後ろに控えているキヨカが珍しくタウさんへ意見した。
一旦解散の雰囲気になっていた皆が踵を返して俺の近くへと戻ってきた。
「そうですね、カオるん、精霊を出せますか?」
「あぁ、うん」
呪文……何だっけ、呪文あったか?まぁいいや。
「風の大精霊さん、出てきておくれ」
ボフンと俺の隣に白い半透明の精霊が現れた。精霊を召喚してからステータスのセカンドキャラのカオリーンにチェンジするのを忘れたのを思い出した。
何だ、カオリーンでなくても精霊は出せるのか。
誰も口を開かずに俺の精霊を見ていた。タウさんもカンさんも持ってるだろうに。
「大精霊さん、あの日は船を運んでくれてありがとな。ええと、この地図であの日船を停めた場所を教えてくれるか?」
俺が精霊にそう話しかけると精霊は軽く頷き、テーブルの上の地図にスススっと近づいて行った。
そして地図の1箇所を指差す。タウさんらが地図を覗き込んだ。
「
「
「
ああ、そうだ!そんな名前だった。トマト麻衣みたいな名前だったわ。ブックマークの時に思い出せなかったんだよな。看板も読めなかった、何こまき?なにこまきだ?周りが口にした名前もイマイチ聞き取れなくて、面倒くさくなって津軽海峡…にしたんだ。
「
「津軽海峡を越えたと言っていたから、もしかすると函館に上陸したかと期待していたのですが、上手くはいきませんね」
カンさんとタウさんが地図を指しながら話す。精霊はもうしまっていいか聞きたいが口を挟んでいいか悩む。
ふと精霊を見ると何故かマルクとキヨカと握手をしていた。何で!?いや、精霊の手って掴めるんか?
タウさん達にミレさんも加わった。
「でもさ、こっちから行く事を考えたらだいぶ近づいたぜ、函館に」
「そうですね、
「いえ、陸上よりもこの際ですから
「それにカオるん、確かフェリーや他の船も持っていましたよね。動かせないからしまってあると言ってました。操縦出来なくても精霊が動かしてくれるなら使えそうですね」
「一応念のため、海上保安庁の方で操船が出来る方も同行してもらいましょう」
何か話がとんとん拍子に進んで行く。それにさっきに比べて皆の顔が明るくなっていて良かった。
「その前にさー、タウさんもカンさんも精霊出してみてよー」
アネさんのひと言にそこに居た者皆が注目した。
タウさんもカンさんも、少し嬉しそうな楽しそうな表情だった。ゲーマーなら、そうなるか。
「火の大精霊よ、出よ」
「土の大精霊よ、出よ」
あ、ずっこい。(ズルい)
ふたりともカッコつけた言い方だ、さっきの俺が恥ずかしいじゃないかよ!
タウさんの火の大精霊は、赤い半透明で揺らぐ炎のような人型だ。
カンさんの土の大精霊は、黄色?かなり薄い茶色だろうか?それの半透明で、ガッシリとした感じの人型だ。
どちらも俺の精霊と似たようなサイズで人の2倍くらいだから3メールくらいか?洞窟の天井が高くて助かるな。
天井の低い日本家屋で出したら、天井を突き破りそうだ。いや、半透明だからそれは無いのかもしれない。頭だけ二階に出る?それはそれで怖いな。
タウさんらは自分の精霊と何かを話している、と思ったら驚愕の表情を浮かべていた。
「精霊で試したい事は沢山ありますが、まずはゆうごの元へ行きましょう」
皆が頷く。
「皆さん準備に1時間ほど時間を取ります。その間に引き継ぎや準備をお願いします。今、15時47分ですから17時にここに集合してください。カオるん、ライカン一体は返還してください、彼方へ連れていきます。それから犬も1匹は洞窟へ残して2匹を返還して北海道へ持って行ってください。では解散」
皆が散っていく。出発までに家族に知らせたりやるべき事をやりに行ったのだろう。
俺らはカンさんと一緒に翔太のところにいった。北海道でどのくらい時間を取られるかわからない。何もなければテレポートで行き来出来るが、魔物植物だのゾンビ犬だのが出現したいま、戻れない状況が発生する場合もある。
俺とカンさんは翔太らに状況を伝えて、カンさんの実家にテレポートした。
エント達に水と光を与えるためだ。それと少しの間、留守にするので村の事を頼んだ。
エントの餌やりは翔太と憲鷹に頼んだ。テレポートリングは持って行ってしまうので、2人にはテレポートスクロールを渡した。一応5日分で往復10枚かける2人分。それ以上長引きそうなら恐らく一度は帰還する事になるだろう。
それから『ライト』のスクロールを5枚。翔太らがスクロールを使用出来るのは確認済みだ。『ライト』魔法は一度かけると数時間は保つ。なので1日1回で十分だ。
エントにも、光が欲しいものはここに来るように伝えてある。
そして洞窟に戻り、カンさんは置いていく翔太に色々と渡していた。うん、わかるぞ、心配だよね。俺は今回マルクを同伴するので何も口を出せない。せいぜい持っているポーションやスクロールを渡すくらいだ。
俺が翔太と憲鷹に渡した物を見たカンさんは、絶対に無駄に使うなと言い渡していた。けれど必要な時は迷わず使え、とも言っていた。
うんうん、そうだな。そこは大事だ。ポーションを惜しんで命を失っては本末転倒だ。
それとステータスがある者は連絡も取れるので、何かあったらどんなに些細な事でも連絡をするようにと言っていた。
カンさんは良い父親だな。俺も見習わなければ。
俺はマルクとキヨカが同伴するので、留守を頼む者は居ない。キヨカに言われてギルド(ハロワ)にスマホを預けに言った。
俺は知られて困るようなスマホの付き合いが無いので、スマホを預けるのに問題を感じない。ロックもしていない。
現在はほぼ通信が不通になっているが、そんな時こそ届くメールに気を配るべきとキヨカに言われて、スマホ管理をギルドへ依頼した。
そして『重要』と判断されたメールはリアルステータスが使えるキヨカの父母経由で、キヨカに使える手筈にしてもらった。
そうこうしているうちに集合の時間が近づいてきたので、少し早いが俺らはさっきの本部へと戻った。
早いと思ったが、既に皆が集まっていた。
タウさんとミレさんはパソコンで忙しそうに何かをしていた。地下通信を使い病院拠点やLAF、それと洞窟内へと色々な指示を出している。
アネはナイトの剣を磨いていた。そうか、今日はゾンビ犬を斬ったからな。どうみても腐ってたあの肉。
そう言えば異世界でだが、フォーススタッフでゴブリンを殴り殺した後、血まみれ(ゴブリンの血は青かった)のスタッフをそのままアイテムボックスにしまい、次に出した時は綺麗になっていた。
アイテムボックスは自動洗浄機能とかが付いているのだろうか?アネは知らないのかな?
そう思ってアネに伝えたら、知っているけど使ったあとはお礼の気持ちを込めて磨く事にしているのだそうだ。
アネよ、剣士の鏡だな。……うん、俺もたまには杖を磨こう。
ミレさんとタウさんがこちらに来た。
「出発しましょう。北海道へ」
「はい」
「おう、北海道へ」
「はーい」
「はい!」
「はい」
「じゃあ飛ぶぞ、津軽海峡のふ…」
「カオるん、ブックマーク名を変更してください。北海道苫小牧に」
はい。わかりました。俺は慌ててブックマーク名の変更をした。『北海道とまこまい』に。
「じゃ、飛ぶぞ。とまこまいに!」
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