第110話 ファンタジーだけじゃない⑦

 -------------(カオ視点)-------------


「そうですね。それに、先輩がウイルス除去を使っても成功したかどうか、確認する機材もありませんよ」



 皆が頭を抱えた。

 あー、面倒くさい。



「あのさ、俺は風邪ひいてないけど、とりあえず俺に向かってその『ウイルス除去』だっけ?それを唱えてみてくれないか、何が起こるのか、何か、起こるのかだけでもちょっと見てみようぜ」


「いいんですか? カオさん」


「おう、どんっとこい!」


『と、父さん……』


『カオさん!』


『大丈夫だ。ウイルス除去なんて名前のスキルだ。攻撃魔法じゃないだろ? 俺がウイルスだったら除去されるかもだが一応人間だしな。もし何かあったら、マルク、ヒールを頼む』



 キヨカがタウさんへ『カオさんは正真正銘、人間ですよね?』と言う謎の念話が送られた。いや、どう見てもおれは人間だろ。



 そして皆の見守る中、棚橋ドクターが俺に向かって人差し指を突き出して唱えた。


「ウイルス除去!」


 別に指からは何も出ていないように見えたが、指の真正面、俺の胸辺りにフワッと何かが当たったと思いきや、喉の辺りでくるくると渦巻く感じがした。


 皆も俺の喉の辺りを見ている。

 そして、その変な感じは数秒で収まった。…………あれ?今朝から若干感じていた喉のイガイガが無くなったような?



「どうです?」

「父さん、大丈夫?」

「なんともありませんか?」

「カオさん、もしかして風邪の初期症状ありました?」



 皆が一斉に聞いてきた。



「あー……、何となくだが、喉のイガイガが治ったような? それよりも、そっちからは何か見えたのか?」


「父さんの喉が少しだけ光った!」


「カオさん、具合が悪かったならちゃんと言ってもらわないと!」


「父さん、具合悪かったの? 病気?大丈夫なの?どうしよう……」



 キヨカには怒られてマルクには心配されてしまった。



「あ、いや、言うほどのことでは……。火山灰を吸い込んだのかと思ってた。風邪だったんか?」


「喉のイガイガ…、風邪のひき始めかもしれません。けど、治ったと言う事は僕のウイルス除去が効いたのかな」


「だとしたら凄いですよ、先輩! カオさんが問題ないなら山路やまじのお婆ちゃんにもやってみますか?」


「そうだな。カオさん、痛かったり苦しかったりは無かったんですよね?」


「ああ、なんか喉がほんわかしただけだ」


「ちょっとだけ喉、光ったよね?」



 ウイルスがいる場所が光るのか?

 一応、何かあった時のために、俺達も着いていく事になり、6人という大所帯で隣の避難所の山路さんの部屋へ向かった。


 寝ていた山路さんに棚橋ドクターがサクッとウイルス除去をかけた。

 棚橋妻看護師が婆さんの額に体温計を当てていた。



「あら、お熱も下がったわ。平熱」



 おお、凄いな。何のウイルスか解らんが、婆さんの身体から除去されたって事だな。



「俺の出番はなかったな」



 俺がボソリと呟いた言葉に伊藤ドクターが耳聡く反応した。



「カオさんの出番? カオさんもウイルス除去が出来るんですか?」


「いや、俺はそのスキルは無いって。俺のスキルは回復魔法……」


「「何ですっ、回復魔法とは!」」



 棚橋と伊藤が同時に俺を振り返る。



「シーっ、山路さんが起きちゃいますよ。あちらで話しましょう」



 棚橋妻に怒られて、俺らはさっきの部屋へと戻った。

 戻るやいなや、3人にジッと見られる。



「ええと、だから俺がやってたゲームはさっきのファンタジー系のやつで、異世界に転移して戻ったらステータスがゲームと似た感じで出ててだな」


「カオさん、ウィザードだからスキルに魔法をお持ちなんですね?」


「そうだ」


「それに回復魔法があると!俺たち医者よりも凄くないですか」


「凄いと言うかズルいよな。あの、このゲームをしたら僕らも魔法が使えるのですか?」


「いや、今のところそれは…無い、と思う。だが、ステータスの謎は俺らにもまだよく理解出来ていないからな、この先を期待して俺らはゲームを続けている」


「そうなんだ、そうなんですね……。そうか、うん」


「先輩、俺らも空いた時間にやり込みましょうよ。あの、カオさん、パソコンをお借りするわけには行きませんか?実はこの病院にあったやつはどうにも使えない状態でして……」


「あの、私もステータスが欲しいわ」


「あ、棚橋奥さんも続けてください。もしかすると……なんで」


「やるわ。ところでカオさんの回復魔法はどんな効果があるんですか?」


「え、えぇと? 怪我を治す、とかかな? あと腰痛とかも肩凝りも治せたよな?」


「うん、タウさんに定期的にやってるよね?」



「あらっ、そしたらみっちゃんを呼んで来てもいいかしら。最近腰に負担がって言ってたから」


「そうなんですか? みっちゃん、俺には何も言ってくれない」


「あ、みっちゃんって下でさっきお会いしたでしょう? お腹の大きかった看護師さん。伊藤さんの奥さんで伊藤美鶴いとうみつるさん、現在妊娠7ヶ月なのよ」



 棚橋妻は直ぐに、そのみっちゃんと言う看護師さんを連れて戻った。

 また一から説明するのかと少し面倒に思ったが、説明より先にまず魔法を使ってくれと言われたので、後ろを向いてもらい魔法をかけた。



「ヒール」



 うん、重症ではないからただのヒールで良いよな。



「あら? あらあらあら? 久しぶりの腰の軽さ。どうなってるのー?」



 コロコロと笑うみっちゃんさんへの説明は3人に任せる事にした。

 そうだ、俺は重要な使命を思い出した。陸緒りくお達の母ちゃんを迎えに来たんだった。


 そうだよな。陸緒の母ちゃんもヒールで骨折を治してから洞窟に連れて帰るか。

 どうせここの医者達には知られたし、今や同じ血盟だからな。その旨を告げると棚橋妻が、森市もりいちさん(陸緒母ちゃん)を連れて来てくれた。


 骨折……、足の脛と股関節の骨折だそうで、起き上がり自分で動けるようになったのもつい最近だそうだ。ただの『ヒール』では回復しないかもしれない。『グレートヒール』にしよう。

 面倒だから説明なしで、森市さんにグレートヒールかけた。


 何をされたのか解らないが突然痛みが引いて驚いていた。骨もくっついていると思う。それは下でレントゲンを撮るそうだ。

 そして何故か、森市さんの後ろに並んでいた3人。棚橋ドクター、棚橋妻、伊藤ドクター。



「あ、すみません。僕は肩凝りが酷くて。あと最近は眼精疲労もあるんです」


「私は肩凝りと腰痛持ちなんです」


「僕は背中から腰にかけて時々痛みがあって」


「足のむくみが酷くて」



 あれ?伊藤妻がまた並んでいる?さっき楽になったのは腰だけだった?はい。かしこまりました。




 一階のレントゲン室で、陸緒の母ちゃんの撮影をしたところ、骨はしっかりくっついていたそうだ。

 陸緒の母ちゃんを連れて一旦洞窟に戻る事にした。


 棚橋ドクターと伊藤ドクターとは、フレンド登録もしてあるし血盟も一緒なのでいつでも連絡が取れる。パソコンも4台置いて行く事にした。が、まぁ通信状態がイマイチなのは仕方がない。そのうち地下シェルターのLAFゲーム室に連れて行くかもしれない。


 一応四人には口止めした。何か行動をする時や仲間を増やしたい時はまずこちらに一報を入れて貰うようお願いした。




 洞窟に戻ると、陸緒りくお洋海ひろみが待っていた。3人は抱き合って大泣きをしていた。何しろあの災害からずっと会えなかったのだ。

 お互いが諦めてかけていたらしい。


 因みに父ちゃんはまだ寝ている。スマン……ミストスリープが効きすぎた。

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