第109話 ファンタジーだけじゃない⑥

 -------------(カオ視点)-------------


『そうですねぇ。うちに入ってもらいたいですが、うちも人数が増えて来ています。……そうだ、一旦カオるのハケンに入ってもらい血盟欄がどうなるのか確認してもらえますか?』



 タウさんからの指示でうち『ハケンの砂漠』に加入してもらう事になった。

 棚橋ドクターらはパソコンに齧り付いてなんか楽しそうだ。最初に会った時の薄ら笑いと違い、心から楽しんでいる笑顔に見える。



「あ、なるほど。まずは職を選ぶのか。どれにしたらいいんだろう。伊藤くん、何にする? マッチョな奴?」


「う〜ん、やはりウィザードが気になりますね。まぁゲーム内の話だから何でもいいのかな? 棚橋先輩はどれにするんですか?」


「ウィザードかエルフか……ん?エルフだとさらに4種類あるのか。因みにカオさんは何にしたんですか?」


「えっ、あ、俺はウィザードだが……」


「そっか。じゃあ僕もウィザードにしようかな。カオさんと同じにして色々と教えてもらおう」


「では僕もウィザードにします」


「真似すんなよ?」


「いいじゃないですか。で、次はステータスの振り分け?」


「ああ、初期ポイントの振り分けか。ウィズなら、WISかINTに振った方がいい」


「WIS?」


「WISは魔力が増える、INTは智力が増える」


「ではINTだな」


「僕もINTですね。やはり賢くなくては」


「何か面白そうね」



 棚橋妻もパソコン画面を覗き込んできた。



「あ、奥さんもどうぞ。キヨカ、パソコンもう一台あったよな?」


「はい。じゃあ奥さんには私が説明しますね」


「頼む」


「次は名前か、このキャラクターに名前を付けるのか。何にしようか」


「あ、名前は本名にしてもらえますか?その方がわかりやすいので」


「ふむ」



 結果、

棚橋ドクター WIZ

伊藤ドクター WIZ

 が、完成した。


 どちらもINT型のウィザードだ。しかもINT全振り、びっくりだ。

 普通は、多少はSTR(力)やCON(体力)に振ったり、バランスを考えたりするのだが、まぁいいか。別にゲームで強くなるのを目指してるわけではないので。


 キャラを作成してゲーム内に入った時点で、リアルステータスを確認してもらった。

 今のところステータスは消えていないそうだ。



「あれっ?」



 棚橋が変な声を上げた。



「名前が変わってるぞ?」



 どうやらステータス画面に変化があったようだ。紙に書き出してもらいさっきと比べてみた。



名前 ドクトルタナー

年齢 36

職業 治癒師 DCT

スキル ウイルス関係


名前 棚橋ドクター

年齢 36

職業 WIZ DCT

スキル ウイルス関係


 名前が前のゲームの『ドクトルタナー』から『棚橋ドクター』に、職業の『治癒師』は『WIZ』へと変わっていた。



「スキルは変化無いな。って事はそのスキルはリアル職業の『DCT』に紐付いていたのか。良かったな、消えなくて」



「ふむ、ですけど、どうやって使うんですかね? ウイルス関係って何か曖昧な表現ですよね」


「ああ、そっか。そこを…あ、リアルステータス画面のスキル、そこをクリックすると詳細の画面に飛ぶぞ?」


「えっ……、あ、本当だ」


「ウイルス弱体化、ウイルス除去だって。……これ以上はクリック出来ないのか」


「先輩、僕は弱体化しかありません。先輩はふたつ表示されてるのかぁ。いいなぁ。でも実際どうやるんですかね?」


「カオさん、解ります?」


「えっ、いや、他人のスキルの使い方はちょっと解らないなぁ」


「ウイルス除去や弱体化とあるくらいですから、風邪とかインフルエンザのウイルスに効くんじゃないかしら」



 棚橋妻が口を挟んできた。そう言えば奥さんは異世界転移してない一般人だよな?リアルステータスは出たのか?



「棚橋奥さん、ステータスは表示されました?ゲームではなくリアルステータスですが」


「残念ながら何も出ないわね。因みにゲームではエルフにしてみたの。衣装が可愛いわよね。女の子のエルフ」



 棚橋ドクターが妻パソコン画面覗き込んで、妻に脇腹をつねられていた。



「イタタタっ、別に、ちょっとどんなものか気になったんだよ。君に似合いそうだな」


「やめてよ、こんなミニスカートが似合うわけないじゃ無い」



 何だろう、仲が良くていいんだが、どうでもいいよ、クソっ。


 それからうちの『ハケンの砂漠』に入ってもらった。その際に血盟念話なども説明したが、フレンド念話とほぼ一緒なので説明は楽だった。

 リアルステータスの血盟欄に『ハケンの砂漠』が表示されたのも確認済みだ。




『キヨカ、あと、何を聞くんだっけか?』


『一応全部聞きました。元のゲームは接続不能なので帰還後は触っていない。仲間もおふたり以外居ない、戻られなかった。と言っても棚橋さんが知ってる人達に限り、ですが』


『ふむふむ』


『タウさんにも逐一念話で報告をしています。それから、LAFにアカウントを作成、キャラを設定した時点でステータスに変更があった。やはりステータスは一度表示されると消えないようですね。それからDCTはリアル職業のようで、スキルも消えなかった』



 勿論、今の念話はグループ念話にしているので、タウさんにも聞こえている。



『出来れば、リアルスキルを使ってみて欲しいです』



 タウさんからの依頼だ。



「あの、リアルステータスのスキル『ウイルス関係』を使ってみてもらえないでしょうか」


「使ってみたい気は物凄くあるのですが、どうやって使えばいいのか……」


「とりあえず誰か風邪ひいたやついないか? 居たらそいつに向かって『ウイルス何ちゃら!』って唱えてみるか。俺が風邪をひいていれば俺で実験出来るんだが……」


「ここの患者さんか隣の避難所で風邪っぽい方はいらっしゃらないのですか?」


「あなた……、山路やまじのお婆ちゃん。昨日から咳が出てるのよ。微熱もあるから軽い風邪だろうって、避難所の個室に寝てもらってるんだけど」


山路やまじさんかぁ。でもなぁ。別な病気の可能性もある。ここではしっかり調べられない。それにかなりのご高齢だし僕のスキルでポックリ、なんて事になったら自分を許せないよ」


「そうですね。それに、先輩がウイルス除去を使っても成功したかどうか、確認する機材もありませんよ」

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