第108話 ファンタジーだけじゃない⑤

 -------------(カオ視点)-------------


「あの、俺もステータス出てますが、あんたとは別のゲームなんだ」


「ええっ、別のゲーム? 別のゲームも異世界転移したのか! じゃあ全てのゲームが? みどりさん、あなたも何かのゲームやっていたよね?」


「ただのスマホゲームですよ。パズルの。でも私は異世界には行っていないし、ステータスもありません」



 そうだ、忘れていた。

 地球に戻らなかった異世界仲間、山さんもあっちゃんもリドルくんもナオリンも、俺とは別のゲームだったじゃないか。


 他にも別ゲームの異世界転移者が居てもおかしくない。


 キヨカがここでの会話を逐一、タウさんに伝えていたらしい。



『そうでしたね。あちらの世界でもゲームはLAFだけではありませんでしたね。リドルも別のゲームでしたし、カオるんと同じ職場だった山さんやあつ子さんも異なるゲームでした』


『そうだ。向こうの世界ではそんな事は意識しないで生活していたから忘れていたぜ』


『ええ。それにエルアルシアはLAFが多かったですから。しかし他の国、他の大陸には別のゲーム経験者が大勢居ても不思議ではない。もしくは他の星にも。カオるん、異世界での国名を聞いてもらえますか?』



「異世界ではどこの国に転移したんだ?」


「国……、と言うか地域と言いましょうか、PPKS787地区、と言っていました。別のゲーム……会ったことないですが来ていたのかな」


「PPAP777?」


「PPKS787地区です」


「PPPP8787地区か」


「PPKS…紙に書きましょう」


「あ、すんません。早口言葉はどう苦手で」



 何故かこの部屋にいる全員(身内含む)から冷たい空気が漂ってきた。

 渡された紙を見たが、全く覚えがない住所だ。いやそもそもあの国って住所あったんか?


 『ムゥナの街』とか『王都の中央』とか『神殿横』とか『ダンジョン右』とかで全て通っていたよな。

 俺が知らないだけでもしかして住所あったんか?



「あの、俺が転移した所はエルアルシアと言う国だったんだ。こんなアルファベットと数字の住所は……無かったと思う。無かったよな?」


『タウさぁん、あの国って住所あったんか?』


『無いですね』



「エルアルシア? 聞いた事は無かったですね……」


「ラノベによく出てくる中世ヨーロッパみたいなファンタジーな国だったんだけど」


「らのべ?」


「ライトノベルです。ファンタジー系とかの」


「ファンタジー系……は、すみません。読んだ事はありませんでした。ライトな読み物でも医療系なら読んでいました。医療雑誌とか」


「医療雑誌……、すんません。それは俺の方が読んでいません」



 そうか、医者だもんな。俺とは別世界の人間か。転移先も別世界なのも頷ける。



「もしかすると転移した先も、その医療ゲームに似た世界だったのですか?」


「ええ、そうなんです。一緒にやってたやつらも転移しました」


「あら、その転移仲間さんは今もご一緒に?」



 キヨカが途中から会話を代わってくれて助かる。俺はどうも話が脱線気味になる。



「ええ、一緒に戻ったのですが、今は外へ診察に出ています。みどりさん、伊藤いとうくんは何時に戻る予定だっけ?」


伊藤いとうさんは夕方には戻る予定ですよ。それにしても驚いたわ」


『カオるん、キヨカさん、フレンド登録を試してください。彼方の世界で異なったゲームでもリドルや山さんとフレンド登録は出来ましたよね? それから今もそのゲームを続けているのか、仲間は何人居るのかも聞いてください』


『おう』

『わかりました』



「あの、フレンド登録しませんか?」



 俺はど直球に言った。



「フレンド登録? ええと、友達になろうと言う事かな?大人になると友達になりましょうではなく、登録しませんかになるのか」


「いえ、物理的な登録です!」



 いや、俺、何を言ってるの。物資的な友達登録って何?



「あぁ、LAINEの友達登録の事かな?」


「違います!LAINEじゃなくて、ステータス画面あるんですよね?右下に三角ボタンありますよね!」


「ん? 右下?…………あ、本当だ。気が付かなかった。これを押すと次のページか。おおう、何だこれ? フレンドは兎も角、マップ、アイテム、パーティ、クランって何だ?」



 この人、ステータスの1ページ目しか見てなかったのか。



「あの、ゲームで使ってなかったんですか?」


「私がやってたゲームのステータス画面と全く違っていましたから。次ページがあるのに気がつきませんでした」



 わぁわぁ言いながらステータス画面を触っているようで、手と目が空中を泳いでいる。

 少し治るまで待つか。


 KKKK PPPだったか?その世界でも使ってなかったのか。マップとかアイテムボックスとか。

 ひと通り弄り終わったようで静かになった。



「フレンド登録しませんか?」



 そう言って俺は棚橋たなはしドクターにフレンド申請を送った。



「おっ」


 と、少し嬉しそうな顔をしながら了承した様で、俺のフレンド一覧にドクトルタナーが加わった。

 その名前をクリックしてメールを送った。



「カオさんからメール? メールが来ました!」


「あ、俺がカオです。念話しますね」


『もしもーし。カオです 聞こえますか』


「聞こえます!」


「あ、心の中で返事をする、みたいな感じでやってみてください」


「あ、は…」

『……い。聞こえます。もしもしーもしもしーもしも』


『聞こえてますよー』


「と、こんな感じで、フレンド登録すると離れた友人と連絡が取れます。Wi-Fiが通じなくてもスマホを持ってなくても可能だし充電の必要もありません」


「何です!それ。便利ですね! ゲームにこんな機能は無かったです。ゲームの世界自体がとても進んだ世界でしたからね。基本、頭にチップが埋め込んでありましたね、あ、ゲームの話ですよ?」



 凄い世界観のゲームだな。まさかと思うが、地球に戻っても頭にチップがあったりしないよな?




「アイテムボックスに何か入っていますか?」



 空っぽだろうと思ったが一応聞いてみた。



「ん?いえ、何も入っていませんね」


「そうか。何かを手に持って『収納』と唱えるとボックスに収納される。出す時も『出す』と唱えれば出せる。大きい物も入るし、何より時間経過が止まるかかなり遅くなると思うので、食糧とか入れておけるぞ?」



 俺の言葉に、棚橋妻が部屋から飛び出したかと思うと、多少萎びた野菜の入った袋を持って戻ってきた。



創壱そういちさん!これ、入れてみて」


「あ、あぁ」



 少し引きながら、棚橋たはなしドクターが触れた野菜が消えた。アイテムボックスに入ったな。

 棚橋夫婦の顔が物凄い表情になった。恐怖漫画のような顔だな、と思った。背後に『ギョゥエエエエ』と言う文字が浮かんでいそうだ。


 それから勢いをつけて色々な物を収納しまくっていた。



「すみません、ちょっと診察室にっ!」



 と言い、棚橋ドクターは走り去った。



「薬を収納しに行ったんだと思います。薬にも使用期限がありますから」



 少し落ち着いた棚橋妻が説明してくれた。それからコーヒーのおかわりを入れてくれた。

 漸く戻ってきた棚橋ドクターに、マップとパーティの使い方をキヨカが説明した。


 クラン(血盟)の説明には時間がかかった。ゲームでの血盟の説明だけなら難しくないのだが、現在のリアルステータスに関係しているかもしれない謎、そのあたりの説明が難しい。キヨカはそのあたりは掻い摘んでサラっと説明していた。


 そこにちょうど伊藤いとうと言う男が帰ってきた。棚橋と一緒に異世界へ行き戻って来たという男だ。


 伊藤にも同じ説明をする事になった。伊藤も似たテンションで1階と2階を行き来した。



「アイテムボックスと言うものは凄いな。どうしてもっと早く気がつかなかったんだ」


「そうだよな、期限切れになった薬が勿体なかった」



「あの、おふたりが行った世界から戻られたのはおふたりだけなのですか?」



 キヨカがタウさんから依頼された話へと誘導するようだ。仲間が何人いるのか、今もゲームを続けているのか、だ。



「私達が知っていて戻って来たのは伊藤と自分だけですね」


「ええ、須藤らは残ると言ってましたね」


「あの世界の医療に魅了された者は多かったんじゃないかな。私と伊藤は妻子の元に戻りたかったので、戻るを選択をしました」


「妻子……お子さんも?」


「私は妻、みどりだけですが、伊藤は奥さんが妊娠中でして」



 なるほど、それなら戻る一択だな。伊藤くんの奥さんも看護師をしているらしい。さっき下で会った看護師さんらしい。看護師さん3、4人いたな。



「こちらに戻ってからゲームはされましたか?」


「やってません、それどころではありませんでしたから」



 まぁ、そうだよな。あの大災害中にゲームをやっている方が珍しいか。




「唐突ですが、今、ログインしてもらってもいいですか?」


「ええ、それはかまいませんが……」




 パソコン画面に立ち上がったゲームにログインをした。いや、しようとした。

 だが、ゲームは『現在メンテナンス中』の文字が中央にデカデカと表示されて、ログインは出来なかった。


 タウさんにそれを伝えると、タウさんからLAFの社員を通じて答えが戻って来た。

 どうやら、この大災害でそのゲーム自体が閉じられているのでは、と言う事だった。



『カオるん、デメリットを説明した上で、もしも本人が了承した場合ですが、LAFに誘ってみてください』


『デメリットとは?』


『別のゲームのステータスに上書きされて、現在のスキルが消える可能性があります。職業欄の『治癒師』『DCT』、DCTの方は現在の職業が反映された物でしょう。治癒師はゲームの反映っぽいですね。スキル欄の『ウイルス関係』は、どちらに紐ついているのか。LAFが上書きされた場合、そのスキルが消えるかもしれません』



『そ……れは、厳しいな。まぁ、言うだけ言ってみる』



 こちらのゲームをさらりと説明をした後に、LAFに誘ってみた。勿論デメリットも説明をした。

 悩むか断られると思いきや、実にあっさりと誘いに乗って来た。



「そんな簡単に返事をして良いのか? スキルが消えるかも知れないんだぞ?」


「別に構わない。そもそもこのスキルをこっちに戻ってから使った事はない。なっ?伊藤」


「そうだな、ゲームや彼方の世界と違って巨大ウイルスやボスウイルスなどこの地球にはいないからなぁ」


「ああ、だから別に消えても構わない」



 後で文句を言っても受け付けないぞ?

 まぁいいか。パソコンにLAFを立ち上げた。ふたりにアカウントを作ってもらいログインをしてもらった。勿論マスサバだ。



『タウさん、血盟はどうする? 新しく立ち上げか?それともチキサバ?』


『そうですねぇ。うちに入ってもらいたいですが、うちも人数が増えて来ています。……そうだ、一旦カオるのハケンに入ってもらい血盟欄がどうなるのか確認してもらえますか?』


『別ゲームの異世界転移の帰還者か。ゲームにログイン出来てもリアルステータスには全く反応しない場合もあるのか』


『ええ。まずは確認を』


『オッケー』

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