第94話 さすが自衛隊だ?①

 -------------(自衛隊・濱家はまいえ視点)-------------



 自分達だけでなく、血盟に加入する事でステータスが表示されるというのなら血盟員を増やすべきだ。マップやアイテムボックスなど自衛隊にとって今後の活動に必要な機能が大きい。


 やはり話を上に持っていくのは必須だ。

 実は少し前にステータスの話を上官にした事があった。しかし「何を巫山戯ふざけた事を行っているのだ」と却下、3日間の謹慎処分になった。災害時と言う事もあり、謹慎は24時間でとかれたが。



 血盟員はMAX50名まで増やせる。ステータス表示される者は多いほどよい。一度表示されれば脱退しても大丈夫だった。これは今後の活動に絶対に必要になる。ステータス表示された者を脱退させて次の者を加入させる、そうしてひとりでも多くのステータス持ちの隊員を作る。


 とは言え、すぐにステータスが表示されるわけではない。どのくらい待てば良いのか?

 それとどうやってゲームログインに導くか。


 証拠を見せられる状態でないと説得は難しい。ゲーム好き、ラノベ好きの上官がいれば話は通りやすいかもしれない。その辺りをまず探ってみるか。


 それと『陸自の砂漠』に入っているフジとサンバを脱退させて血盟を立ち上げさせる。3血盟あった方がいい。そうすればMAX150人のステータス持ちを作れる。

 さっそくフジ達に話をした。




「3人がそれぞれ血盟を立ち上げれば150名のステータス保持者が出来る」


「そうですね、わかりました! 陸自りくじの砂漠があるから自分は空自くうじの砂漠にいたします!」


「では自分は海自かいじの砂漠にします! 陸自りくじですけど……」


「それを言ったら自分も陸自だぞ」


「…………怒られますかね、海自の人に……」


「うわぁ、空自は絶対怒る、気がする……。奴らプライド高いからなぁ」


「まぁそのうち海空にも広げていくのだから大丈夫だ。…………多分、大丈夫だ」



 タウロさんからの情報で、ステータス表示が無い血盟員にもゲームをさせるだけでなく、装備やアイテムに触れさせた方が良いと言われた。


 しかし、俺らはそれほどアイテムを持っていない。

 彼方あちらの世界でもギリギリで生きてきたからだ。


 異世界での女神像倉庫の話を聞いた時は心の底から知らなかった事を後悔した。


 彼方あちらで倉庫の中のアイテムが使えたらどんなに便利だった事か。

 あのゲームはキャラが持てる容量に制限があった。そのせいで異世界に転移した時にアイテムボックスには最低限の物しかは入っていなかった。


 ゲームキャラが着ていた装備とアクセサリー、持っていた武器、それと最低限のポーションやスクロール。


 最初の1年でポーションやスクロールを使い切った。


 現地での入手は皆無だった。それどころか街に近づくのも命懸けだ。タウロさんの話を聞けば聞くほど、何故俺達はエルアルシアに落ちなかったのだと怒りを覚えたくらいだ。


 守ってくれる国、栄えた街、転移者に優しい女神像やクエスト、そしてダンジョン。本当に羨ましい限りだ。

 知っていたら何としても海を渡って彼方あちらの大陸へと渡っていたのに


 俺達は落ちた大陸の森で木の根を齧って飢えを凌いだ事もあった。あまりにハードな異世界転移だった。

 俺たち自衛官でもそう思ったのだ、他の転移者は悲惨の一途を辿った事だろう。


 生き延びる中、入ってくる転移者の話。捕まり飼われている者はまだマシなほうで、魔物の餌にされたり、転移者同士で闘わされたりもしていた。『チキュウジン狩り』は地球人によって行われていたのだ。いや、やらされて、いたのだ。


 最初の頃は他の転移者を助けようとした。

 しかし続け様に裏切りにあい、いつからか俺たちは自分達以外を信じないようになっていた。生きるのをやめようかと思った事も何度もあった。

だがその度に、お互いが止めあった。


 帰るのが無理なのは最初からわかっていた。片道切符の異世界転移であろうと。転移前の地球は、上層部が激しく動いていて隕石落下の情報も隠しきれなくなっていたからだ。


 異世界で5年くらい経った頃だろうか、俺たちは偶然にも沿岸部に近い辺りの森へと辿り着いていた。

 森で助けた現地人の情報で、海を渡った先にある『他国』の話を聞いた。


 まるで嘘のような、それこそ小説のような話だった。それが嘘であっても、これ以上酷い状態にはならないだろうと『そこ』へ渡る決意をした。

 しかし船に乗るには沿岸の国に入るしかない。沿岸部は入国が厳しく、入り込めそうな地域を探して森を彷徨う日々が何年も続いた。


 海を渡る夢を見て過ごす毎日、そんな時にあの夢を見たのだ。『戻るか否か』。


 目覚めて3人で抱き合って号泣した。諦めずに生きてきて良かったと。

 例え大災害が待っていようとも、3人とも『帰る』事に異存は無かった。



 あの日、あの時間に戻った瞬間、俺達はまた訓練場で抱き合ってまた涙を流した。



 そして、今に至る。


 戻っても暫くは眠れなかった。寝ている時に殺される、魔物に襲われるかもしれないと、物音ひとつにびくついていた。


 誰も彼もが自分達を騙しているように見えてしまう、違うとわかっていても10年間に身についてしまった習性は中々戻す事は出来なかった。


 そうだ、10年も経っていたのだ。最初の数年は数えていたが途中からもう数えなくなっていた。


 ランニング中だったのでスマホや手帳なども持っていない軽装のまま転移したからな。

 アイテムボックスに武器装備が無ければとっくに死んでいたな。


 こちらに戻って直ぐに隕石落下が始まった。大混乱だった。

倒壊した瓦礫を片手でヒョイっと退かす事ができたのには驚いた。


 それでステータスの存在に気がついた。



 今回は、とりあえず上官に話を持っていく前に仲間を増やす事にした。タウロさんの考察どおり、時間が経てば俺らの血盟でもステータス表示が起こるのかどうか、それとどのくらいの時間で表示されるのかをまず検証する事にした。


 ゲームやラノベに興味がある者を数名誘い、LAFへ連れて行きゲームIDを取得させる。そう考えていた。



 それと、タウロさんとは今後も定期的に連絡を取っていきたい。

 これは3人で話したのだが、もしもこの先『国』や『隊』と対立する事になったら、俺は迷わず除隊してタウロさんの元へ行くつもりだ。

 それはフジもサンバも同じ気持ちだった。


 『信じるモノは自分の勘で選べ』と、彼方あちらでの10年が俺たちにそう学ばせた。

 短い時間であったが、国よりも彼らの方が『選ぶ』に値すると俺の勘がそう訴えていた。生き抜くのにそれが最善だと。


 勿論、今はまだ自衛官なので国に尽くすが…………、国とは何なのだろう。






-------------(カオ視点)-------------



 戻ってきたタウさんからシェルターとLAFサーバーの話を聞いた。概ねミレさんが念話で教えてくれてた通りだ。

 しかし、こんな近場にLAFジャパンがあったとは!何というラッキー。



 タウさんに言われて、まず以前シェルター探しに行った時にブックマークしたうちのひとつに飛んだ。タウさん、ミレさんの3人でだ。

 そこから歩いて5分ほどのどっかの企業の通用門を入る。

 この前、閉まっていた門だ。



「どうする?タウさん、地上じゃなくて直接LAFジャパンの廊下辺りをカオるんにブックマークしてもらって、そこに皆を運ぶか?」


「そうですね、あそこで全員にブックマークしてもらい、今後通ってもらうようにしましょうか」



 タウさんとミレさんの話が決まるのを待ち、怪しい倉庫に連れて行かれた。そして怪しい階段を降りて、怪しい通路に出て、怪しいカート……いや、普通のカートに乗り込みミレさんの運転で暫く走る。


 到着した扉を、タウさんが社員証のようなカードでピッと開けた。



「あ、このマーク…」


「おう、カオるんも気がついたか。LAFジャパンのマークだよ」


「そう、そうだ、ソレだ」



 廊下を少し行った先にある扉を入り、さらにその先の扉へ。そこは会議室のような大きなテーブルがいくつか並び、机の上にはパソコンがズラリと並んでいた。


 パソコンは全て立ち上がっていて、画面にはLAFのゲームも開いている。ログインすれば直ぐに使えるっぽい。


 するとそこに若い男性が入ってきた。



桂木かつらぎさん、お邪魔します。今から仲間を連れてきますがよろしいでしょうか?」



 タウさんが挨拶を交わした。



「勿論っす。あ、この部屋はタウロさんの所で使ってください。入館証いくつ用意すればいいですか?」


「ここは私ども専用で使ってもよろしいのですか? でしたらここをブックマークさせて頂きますので、入館証は結構ですよ」


「あ、なるほど。テレポートですね。テレポートリングをお持ちなのですね。羨ましいなぁ。僕らはステータスが表示されてもアイテムボックスはカラでしたから」



 桂木かつらぎと呼ばれた青年がもの凄く羨ましそうな顔をしていた。そうか、異世界転移をしていない者はアイテムを持っていないんだよな。



「もしかするとテレポートとかもまだ未経験か?」

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