第95話 さすが自衛隊だ?②
-------------(カオ視点)-------------
「もしかするとテレポートとかもまだ未経験か?」
俺がボソリと呟いた言葉に青年が鬼のような勢いで反応をした。
「テレポート? 今、テレポートと言いましたか? 勿論未経験ですとも!残念ながらリアルでは未経験なんです!スクロールもリングも持ってないので!ゲームで持っていても現実には持ち出せないんですよ、そもそも俺ELFなんで、エルフの精霊魔法には移動魔法無いんですよ!あれ?もしかして魔法をお持ちですか?WIZの
いや、迫る迫る、怖いし、顔が近い。チューする勢いだぞ?助けてタウさーん!
タウさん苦笑いである。ミレさんは大笑いである。何だよー。
「あの、もし良ければテレポートを経験されますか? うちのウィザードのエリアテレポートですけど」
「しますっ!!!あのっ、みんなを呼んでんきていいですか?ダメなら俺だけでっ!」
「ええ、いいですよ」
タウさんの「いいですよ」を聞き終える前に部屋から飛んで出て行った。飛んで、と言っても走ってと言う意味だが。
直ぐに5人が部屋に駆け込んできた。
「お待たせしましたっ!よろしくお願いしますっ!」
桂木さんが俺の目の前にピタリと付くと他の4人が俺を取り囲んだ。近い近い近い。オッサンを囲む若者5人。
え、これってカツアゲ?俺カツアゲされるの? いや、カツアゲでもこんなに密着しないよな。
「はい、じゃあイキマスヨー。エリアテレポート」
俺が棒読みになったのも仕方がないと思う。そんな俺とは正反対の大興奮の5人が居た。
さっきの扉の外の廊下に飛んだ。
「うっわ、テレポートってこんな感じだったんだ」
「一瞬だった、失敗した、目を瞑っちまったぁ」
「あの、もっかいお願いします!お願い、もう一度だけ」
「はいはいはいー」
何かうちの子供らより興奮してないか?
俺は呆れながらも何回か繰り返した。外のブックマークへ飛んだ時はさらに興奮していた。
しかし戻った時に社員さん達の足元に火山灰が少しついていたのをタウさんは見逃さなかった。ちょっとだけ怒られた。
「カオるん、外へ連れて行くなら火山灰対策をしないとダメだと言いましたよね。いくらこの辺りは綺麗でも、見えなくても火山灰は吸い込んだら大変なんですからね」
「はい……ごめんなさい」
「彼を怒らないでくださいっ!!!俺らは大満足ですっ!!」
「そうです!火山灰を吸い込んで死んでも悔いはないです!」
「俺は悔いアリアリです!もっとテレポートしたいぞおお」
庇ってくれてありがたいけど、熱量高っ!
タウさんは彼らにブックマークする事を伝えていた。
それからタウさんに言われて洞窟拠点のメンバーをエリアテレポートで連れてきた。皆にもブックマークをしてもらう。
タウさんは、ここで各自ゲームのレベル上げをする事を話した。勿論色々な作業はちゃんと行う。洞窟の作業はキチンとやらないとな。
「1時間に1回は休憩しろよー」
ミレさんからの注意だ。
「今日はここ泊まるの?」
「いえ、帰還はします。しかし1週間ほどパワーレベリングしましょうか。とりあえず7日間くらいを目処に。午前中は洞窟で作業を午後をゲームに時間を割きましょう」
「ええ、じゃあ泊まりたい。夜もここでやりたい」
「うん、こっちのが動きがいい!」
「うーん、どうする?タウさん、泊まりで一気にやるか」
「そうですね。何かあってもすぐ戻れますから」
「おーし、じゃあ今日から7日間のゲーム合宿だ。ちゃんと休憩も取って、メシも食って、風呂も…あ、ここって風呂あるんすか?」
聞けば狭い簡易シャワールームしかないそうだ。毎日、昼食後に風呂に入ってからここに来る事に決まった。
「睡眠もちゃんと取れよー」
「はーい」「おう」「わかったー」
「とりあえず全員レベル30は超えるように。あと15、30のクエストも必ずやってください」
そんな指示を横目に俺はタウさんと一緒に別室に連れて行かれた。
その部屋には自衛隊員が綺麗に並んでいた。長机が並び、その上にパソコンが一列に置かれていた。俺たちが居た部屋に比べると教室のような感じだった。
2〜3人でも居ればと思ったが、あっという間に20人以上が集まった。慌ててストップをかけたがまだまだいそうな勢いらしい。
そして異世界転移の話をした。タウさんから聞いた家族に打ち明けた時に装備を瞬時に装着してみせた話、それを実行したそうだ。
「に、20人の前でアレを実行したのですね……」
タウさんが少し引き攣っていた。
前に立っていた自衛隊員のひとりが顔を赤くしていた。
「ゴホンっ、えー、自分らはこちらの部屋を貸して頂ける事になりました。それでですね、ステータスは表示されていないのですが、テレポートを経験させてやりたいと思いまして、タウロさんにご相談出来ないかと思いまして。先程社員の方は経験されたようですね」
「自分らのリングを貸してみたのですがやはりテレポートは出来ないようでした」
「ブックマークはされましたか?」
「ええ、一応それっぽくはやってみたようです」
タウさんは少し考えた後に俺を見て頷いた。
「今日はうちのウィザードが一緒ですので特別と言う事で。カオるんここから廊下へ」
タウさんがそう言った途端にガチムチのオッサンに囲まれた。ガチムチのオッサンの押しくら饅頭。タウさんが目を逸らしていた。俺だって嫌だったよ!あ、女性隊員さんも数名いた。遠かったけど。
とりあえず廊下へエリアテレポート。
声を出さずにどよめくとは、流石は自衛隊のみなさん。そしてそのままさっきの部屋へとエリアテレポートで戻った。
声は出ていないけど、何か鼻息が荒かった。自衛隊って口から声を出してはいけない決まりとかあるんかね。あ、敵に気づかれるからか?迷彩服と同じで迷彩呼吸……。
だが俺のエリアテレポート後になんと、3人がステータスが出たと騒ぎだし、大騒ぎになった。
ガチムチのオッサンらが俺に詰めかけてオッサンの押しくら饅頭になった。俺のがオッサンだからいいけどざ、いや、やっぱやめてぇぇぇぇ。
タウさんに言われて何度かテレポートを繰り返した。
しかしそれ以上ステータスが現れる者はでなかった。MPが半分を切ったぞ。俺のMPと心のHPを返せ!(泣)
俺は部屋の隅で壁に向かって立ち、MPを回復する魔法を唱えた。もうそっとして置いて。
MPを回復をしている間に、タウさんは
「この先入手出来るか解らないアイテムなのでお渡しできるのはこれが限度です」とタウさんは怖い顔で言っていた。
うん、自衛隊とは言えクレクレ君にならないとも限らない、釘は刺して置くべきだ。
とは言え、ゲーム内でどんなにドロップしても、現実には持ち出せないからなー。増やす事は不可能なアイテムだ。
あちらの世界から持って帰れた俺たちは本当にラッキーだ。
タウさん曰く、渡した50枚は隊員には配られないかも知れません。上が搾取する可能性が高いですね、だそうだ。
実はミスリルセットも結構な数がある。ミスリルシャツとミスリルズボンだ。このふたつを服の下に装備すると防御力がかなり上がる。
いや、数字では見えないが、三階くらいの高さから落ちても怪我ひとつしない。頭から落ちても大丈夫だ。衝撃を受けた瞬間全身を謎のパワーで包まれるからだ。と、俺らの元からのステータスのおかげもあるかもか。
物資収集している時に瓦礫のテッペンから足を滑らせて落ちたのだ。頭からいったので死んだかと思ったが無事だった。あの時はヤバかった。そんな事があるから子供達には着せたいのだ。
自衛隊の装備の下にどうかと思い持ってきた(と言うかいつもアイテムボックスに入ってる)。
向こうにいた時に、暇な時にしょっちゅうクエスト材料を集めていたので、いつの間にか結構な数になっていた。(単なる趣味)
拠点の女子にはウケが悪い。特にミスリルズボン。
「スパッツっぽいけど、色が嫌」だそうだ。
そうだよな、鈍い銀色で光加減によってはももひきのようだ。あ、今どきは『ももひき』とは言わないのか?何だろう?ズボン下? ステテコ……は違うな。
「レギンスと変わらないじゃない!」と芽依さんが真琴を叱っていたが、レギンスとは何ぞや?何か強そうなイメージだぞ?
タウさんにミスリルセットを渡すか念話で相談したが、テレポートスクロールと一緒で結局上に搾取されるだろうと。
数着だけ出して取引に使いたいとの事だった。
はい。お任せします。
後にタウさんから聞いた話であるが、自衛隊員達も『地球の砂漠』に一旦加入すればリアルステータスが表示したかもしれない。
だが、それを頼まれる事はなかった。
何故それをしないのかとタウさんが濱家さんに聞いたそうだ。
「ひとつは、今回予定より多くの人数が集まってしまった。それにより上に漏れる危険性が高まり、田浦さんにご迷惑がかかるかもしれません」
「どの道、漏れるのは時間の問題でしょう?」
「はい。ですが少しでも時間を稼ぎたいと思っております。それともうひとつは、自分らでステータス表示の時間やキッカケなどを検証したいと思いました。勿論、随時情報は田浦さんへご提供させていただく所存であります」
「なるほど。こちらも敵対の意思はありません。友好な関係でいたいですね」
うぅむ、信じたいけど疑うのも必要のようで、俺には難しい問題だと思った。
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