第93話 おや?どちらの国から?⑧
-------------(タウロ視点)-------------
「でも俺らは無理強いされたら逃げるぜ? なぁ、タウさん」
ミレさんがいつものふざけた物言いではなく真顔で自衛隊員を見た。
「そうですね。人質や監禁などという事がない事を、祈ります。ただ自衛隊員にステータス表示が多数出られた
「だなぁ。俺らは民間人だから、あくまで『お手伝い』の立場だ」
「ええ、解っております」
彼ら三人だけならこちらに引き込む事も可能だったが、この災害時に自衛隊を辞める事は難しいだろう。
彼らが味方につかないなら、せめて敵にまわらないでほしい。
「あのっ、あの!すみません、お話を中断するようですが、俺も血盟加入申請しましたので、承認お願いします!」
私とミレさんvs三人の自衛官のピンと張った空気に割って入ったのは、LAFの社員さんのひとりだ。
ログインしていたパソコンを覗くと血盟加入の申請が来ていた。
「ええと、『したはか』さん?」
「そうです、火エルフです。どうでもいいかもしれませんが本名は高橋です。レベル38なんだけどいいかな。マースではこのキャラだけなんだよ」
「他のサバに、もっと高レベルキャラがいんのか?」
「そちらにした方が良いのでは? 今後、キャラのスキルがリアルで使えるようになったりするかもしれませんよ」
「た、確かに。……しかしなぁ。あっちのキャラはマーキュリーなんだよ。キュリサバはログイン数がほぼゼロで死に鯖なんだよなぁ。それなら38でもマースでやりこんだ方が先が明るい。それに!それにマースの地球の砂漠に加入すると、今ならリアルステータスが貰える!」
テレフォンショッピングのような事を言う。ミレさんが律儀にも念話で伝えたのか、カオるんがまたふざけた念話を挟んできた。
『今ならリアルステータスが貰えて、さらに新鮮なバナナも2本お付けします、』
『…………カオるん、バナナは付けませんよ』
念話でカオるんをあしらってから、したはかさんに確認を取った。
「…………絶対とは限りませんよ?」
「何言ってるんですか。ツルちゃんとジムには出たじゃないですか」
「ジムじゃねぇ!キング(ジム)だ!」
「
「面倒くせー。タウさん、もう承認しちまえ。えっと、したたかさん?」
「いえ、したはか です」
「出来れば、マーキュリーとビーナスサーバーでも血盟を立ち上げてほしかったですね」
「あ、俺、ビーナスでGMキャラ持ってます。血盟未加入だし、俺やってみましょうか?」
五人の社員のうちの一番静かな青年が名乗り出た。
「
「……えと、では。ナスサバで『金星の砂漠』を立ち上げました。ステータスオープン!ステータス! う〜ん、ダメかぁ。残念」
「
「ええ、ダメですね」
「じゃ、こっちにもキャラ入れちゃえば?」
「う〜ん、ビーナスで少しやってみるわ、そんでダメならマースに移動する」
高橋(したはか)さんから加入申請がきていたので承認した。彼は部屋の隅に移動して小さくダンスを踊っていた。ステータスが出たのだな。
今のところ、異世界転移を経験していない者でリアルステータスが表示されたのは、マースサーバーで『地球の砂漠』のひとつだけだ。
LAFの社員のキングジム、剣王子、したはかの3人はマースで地球の砂漠加入、ステータスが表示された。
自衛隊の
それとビーナスサーバーに『金星の砂漠』という結盟を立ち上げた上原さんも、ステータスの表示はなかった。
同じ職場5人のうち、3人と2人。
違いは、サーバーと血盟。
「あの、もう少し検証させてもらってよろしいでしょうか?」
「ええ、何でしょう?」
「まずひとつは、ビーナスサーバーでステータス表示が無かった上原さんに、マースのうちにも入ってもらいステータスが表示するかどうかの確認」
「おおぅ」
「LAFの社員さんは元から全サバにキャラを持っていると言っていましたよね? では複数のサーバーにキャラがいる場合、どちらがステータスに反映するのか。と言っても今のところ、こちらのサーバーでしかステータス表示がされないので検証になるかわかりません」
「なるほど、つまりビーナスサバで血盟をキープしつつ、マースで血盟に加入した場合どうなるのかを見るのですね?」
上原さんは直ぐに理解したようで、ジョーゲンと言うキャラが血盟に加入申請をしてきた。
「ステータス!……おぉぉ。ふむ」
「出たのか? 上原ちゃん」
「出たぞ。出ました。リアルステータス画面。職業がDEになっているのでこのステータスはマースのキャラが反映されていますね」
「そうですか。ありがとうございます。ビーナスサーバーの方も引き続きそのままでお願いします。……このまま出ないのか、それとも遅れて出るのか」
「もしも遅れて出るとしたら、ふたつのステータスが出るって事か?」
「わかりません。チェンジかもしれない。ダブルステータスなのか、チェンジなのか。今のところは不明です」
「俺もダブル試そうかな……」
「ある程度解明してからにした方が良いですよ? 何が起こるかわかりません。打ち消し合う可能性もある」
「打ち消し合う……上原ちゃん」
LAFの社員だけでなく自衛隊の3人も神妙な顔になっていた。もしかするとダブルどころか全サーバーで試すつもりだったのだろうか。まぁ、誰か1人くらいは試してもらいたい気もする。が、俺達は現状で十分満足だ。危ない橋は渡らない。
ミレさんも危険な匂いを感じたのか、その辺りはカオるんへの念話はしていなかった。
「それから、村上さん、佐藤さん、高橋さんのうちどなたかひとり、うちから抜けてもらい、ステータス表示が消えるかどうかの…」
そこまで言った時に3人が頭を大きく横に振った。
「俺ヤダ」
「俺も無理、つるちゃんやんなよ」
「やだよ、折角出てるのに消えたら俺泣くよ?」
「もしもステータスが消えた場合、再加入でまた表示されるかも確認したいですね」
「いやいや、俺無理」
「俺だって嫌ですよ、再度表示されなかったら一生恨みますよ」
「あの……俺がやりましょうか?」
「「「上原ちゃん!」」」
「いえ、上原さんはビーナスとの件をこのままやって欲しいので、ステータスが消えるのはちょっと……」
「なら、俺がやりましょうか?」
ジュピターサーバーの自衛隊の血盟に入った桂木さんが手を上げた。
「マースはレベル15のエルフを放置してたのがあるんですよ。それを入れて、ステータスが出たかを確認、そして脱退してステータスが消えるかどうかの確認、さらに再加入ですね?」
「桂木ちゃん……勇者だ」
「すまん、俺に勇気が無くて」
「いや、俺はまだステータスが出てないからな。それにメインキャラはジュピターだから」
まめうさと言う名前で申請が来たので承認した。
「おおっ!出たぞ!」
「えっ、桂木ちゃん、今詠唱してないよな?」
「声に出さずに詠唱してみた。名前がまめうさ、職業がエルフだ。そうだ!フレンド登録もしてみていいですか?それで脱退したらどうなるか」
「あ、じゃあパーティも組んでみる?」
「そうだな」
うん、やはり本職というのかゲーム会社の社員だけあって説明要らずで助かる。
「じゃあ脱退しますね」
桂木さんも思い切りが早い。
皆が見守る中、彼は『地球の砂漠』から脱退した。脱退は承認要らずで本人が自由に行える。
皆が桂木さんを見つめていた。
「おぉう!えっ、あ、ほおぅ」
「どうなったんだ!桂木ちゃん!」
「消えたんか?出てるんか? てか、フレ登録は消えてないぞ?」
「どうです?」
彼が空中見つめているという事は、ステータスが消えなかったと言う事だろうか?
「……ステータスは消えませんでした! 血盟を脱退してもリアルステータス画面は表示出来ます!!! あ、ただ、血盟欄から血盟は消えましたね」
「すみません、その状態でジュピターサーバーの方がどうなっているか見てもらえますか?」
ゲームとリアルステータスに何らかの繋がりがあるなら、リアルステータスが変わる事でゲームにも影響が現れていないだろうか?
桂木さんはジュピターサーバーのキャラをログインさせていたパソコンを持ってきて俺たち見えるように置いた。
「ジュピターサーバーの血盟が消えているんです。さっき入った陸自の砂漠が未加入状態に……」
どう言う事だろうか。ひとりのIDに付き、ひとつのリアルステータスと血盟……なのだろうか?
またしても謎が増えた。
「ただ、脱退してもリアルステータスが表示されたままと言うのは大きな成果ですね!」
「そうだよな?ステータスは一度出たらずっと出てるのか」
「あ、でもゲームを辞めたら消えるかも。誰か試すか?」
「いやその前に再加入でどうなるかだよ」
皆が喧々轟々と騒いでいる。その気持ちもわかる。ここが洞窟拠点だったら皆で大騒ぎになる所だ。
「すみません、桂木さん。ステータスが消えなかったので再加入よりもジュピターサーバーで陸自の砂漠に入り直してもらってよろしいでしょうか? その前にステータスが表示された社員の皆さんの他サーバーのキャラの血盟がどうなっているか、まず確認してください」
「っかりましたー」
「オケです。……ん?あれ? 未加入になってるぞ?」
「俺もだ。マース以外のサバキャラは血盟未加入だ」
「やはりそうですか。恐らくですが、リアルにステータス表示がされた
「すげぇー。不思議すぎる」
「リアルステータス自体が不思議の絶頂だからな」
「そだねw」
「そこで試して頂きたいのは、マースサーバーでリアルステータスが表示された桂木さんが、マースは血盟未加入で、ジュピターで加入したらどうなるのか」
「わかりました。ジュピターの陸自の砂漠に再加入の申請をしますね」
桂木さんの申請を
再び皆の視線が桂木さんに集中した。
「ステータスは表示されたままです。が、血盟欄に陸自の砂漠が出ました! さっきは出なかったのに……」
「どう言う事でしょう?」
濱家さん含む自衛隊の3人、それとLAFの社員5人の視線が今度は俺に集中した。
「マース……と言うか、地球の砂漠が特別なのか?」
「一度は地球の砂漠を通らないとダメなのか?」
「いえ……、そんな事は無いと思います。現に陸自の砂漠でお三人はステータスが出ましたよね? それにマースでも月の砂漠という血盟でステータス表示はされています」
「やはり……砂漠」
『やはり……砂漠』
サンバさんとカオるん(の念話)の言葉が被った。ミレさんリアルタイムに念話を送りすぎです。
「砂漠は関係ないと思いますよ。おそらく、異世界から戻った者、異世界転移を経験した者の何かが関係しているのではと思います」
「けど先程桂木さんが陸自に入られた時は出ませんでしたよね?」
「ええ。……それは、もしかすると時間が関係しているかもしれません。うちの地球の砂漠でも暫く経ってからステータス画面が表示されました」
「なるほど、すると陸自ももしかすると……」
「今後の検証が必要ですね」
その後お互いにフレンド登録を行い、この先連絡を取り合う事を約束して別れた。
因みに俺らはLAFのゲームルームを無制限に使わせて貰う事になった。
ゆうごに現在ペナが消えている事を念話で伝えた。ゆうごの事だから色々と検証をしてくれるだろう。
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