第82話 こんな近くに?

 茨城、福島、宮城、岩手、新潟、群馬、栃木、千葉、東京、神奈川と周った救援活動は一旦休止で、拠点へ戻った。


 勿論、日々拠点には戻っていたが直ぐにとんぼ返りで救援活動に行っていたのだ。


 だが、世の中が自分達の想像以上に酷い状態であった事で、無理はしない事になった。自分らが少数で頑張ったところでたかがしれている。無理をして仲間に何かある方が本末転倒と言われた。



 暫くは茨城の洞窟拠点で心と身体を休めつつ出来る事をしようと決まった。



 PCでネットの書き込みチェックは続けていた。

 それにしても、茨城はなぜこんなに通信状態が良いのか。実は気になる書き込みを拾った。『筑波学園都市の地下に巨大シェルターがある』と言うものだ。


 以前にもそんな噂がある事は話に出た。その時は皆流していたがどうしても気になる。



「そもそもさぁ、学園都市って何よ?」



アネが口にした素朴な疑問だが、それには俺も同感だ。



「……都市全部が学園? デカイ大学?」


「神戸…と、八王子とここ茨城に学園都市を名乗ってるとこがありますね」



 各々で学園都市をパソコンで検索している。



「カンさん、茨城の学園都市ってどんなん?」


「え、いや、僕も詳しくは知らないんですよ。何かいつの間にかあったと言うか当たり前に出来てたので」


「つくば学園都市、筑波研究学園都市が正式名称かな? ええと?人口20万弱、国・民間の300に及ぶ研究機関、企業、研究者を擁する日本最大の研究開発拠点、だって」


「何それ、何かメチャクチャ怪しくねぇか?」


「だなぁ、これ絶対隕石落下の前に、政治家とか逃げ込んでいそうだな」



「人口20万って都市ごと皆関係者か?」


「あ、でもねぇ、観光名所とかもあったみたい」


「うぅむ、さらに怪しい。観光名所とか作って『怪しくないですよー』と言ってるやつほど実は怪しい系だな」


「タウさん、一度行ってみないか?」


「そうですね。シェルターがあるなら今後何かで関わるかもしれませんし」


「そうよ、洞窟拠点に入りきらなくなったらそこに回しましょうよ」


「そうよそうよ、もとはシェルターで国民を保護しないといけないのは国なんだから! 自分達だけシェルターでぬくぬくしてるとか問答無用よ!」


「でも俺、シェルターよりここがいいな」


「そうだよね、ケンちゃん。ここのが絶対良いと思う」


「そうだよねー、ここ、何も不満はないよ」



 子供らは洞窟拠点が大満足のようだ。勿論俺ら大人でも満足だしここは完璧だと思うぞ。



「一度行きましょうか、学園都市に」



 タウさんの鶴の一声で学園都市探しが決定した。

 俺は学園都市もいいが牛久観音に行ってみたい。茨城に住んでいていつでも行けると一度も行かないままだった。沈んでいないといいな。後でカンさんに相談してみるか。



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 ネットで調べた学園都市の辺りを歩く。

 サイトに出ていた写真は大学だったりどこかの企業だったりで、『学園都市』と言う俺のイメージとは違った。

 俺は万博のような物を想像していたのだ。


 普通の街だ。しかもそんなに未来感は無い。

 街全体が学園都市として設計された未来都市、と言っても随分と昔だからな、出来た当初は未来チックだったんだろうな。


 津波が押し寄せた様子もほぼ無かった。崩れた建物も僅か。道路も広く、火山灰も除けられていて車での移動も可能。

 とりあえずシェルターの噂の書き込みの近辺に行ってみる。


 地上にはチラホラと生活をしている人達を見かけた。

 シェルターについて聞いてみるが「知らない」と言われた。ここら辺は被害が少なく、『避難所』はないらしい。皆自宅で待機、物資の配給の連絡があるときにそこまで貰いに行くそうだ。


 物資の配給、誰が(何処どこが)やっているのだろうか。

「自治体でしょ」「市じゃないのか」など、住民もあやふやなまま日々を送っていたようだ。



 結局シェルターの入口は見つからなかった。


 企業や大学は閉館中で門もキッチリと閉められていて見学さえ出来なかった。

 とりあえずいくつかの地点をブックマーして帰宅する事になった。



 戻って来てからアネさんが『筑波わんわんランド』に行きたいと言い出した。シェルターが見つからなかったのが不満だったようだ。



「今日はせっかくみんなで行動してるんだし、どっか行こうよー。アレあったよね? アレ。ワンワンランド」


「ワンワンランド?」


「ああ、筑波わんわんランドですね。けどこの状況下では閉まってるんじゃないですかね」


「えー、行くだけ行こうよー。お腹空かせたワンコ居たら攫ってこようよー」



 えっ、誘拐?犬の誘拐か?アネよ。



「せっかくだから行ってみましょうか。さっきのブックマークの中に近い場所があります」


 まさかのタウさん了承したぁ!




 そして俺らはわんわんランド?にやってきた。


 勿論こんな災害時なのでランドは閉館中だったが、近くのフェンス越しに犬達を見る事が出来た。ドッグランに火山灰は無く、職員達もちゃんと普通に世話をしているようだ。

 犬達は元気に走り回っていた。痩せているものは居らず餌もキチンともらえているようだ。



「カオるん、テイム持ってるよね?ワンコテイムして!」


「テイム?魔法の? 俺、あれ苦手なんだよ。ゲームではテイムしようと近づいたら噛まれて死んでたから」


「え……じゃあ、エンカ達ってどうやって獲ったの?」


「あれはテイムじゃなくて、ゲームのペットだったし」


「そっか。あれ?でもペットでもどこかで獲ってくるよね?店買いってあったっけ?野生犬とか馬って自分で捕まえるんだよね?あのゲーム……」


「うっ…………」


「カオるん、捕まえられなかったんだよな? エンカだっけ? ドーベルマンは俺が獲ったのをやったw」


「ドーベルマンはミレさんからだったんですか? セントバーナードは僕がカオるんにあげました」


「シェパードは私がカオるんへ差し上げました。あの頃カオるんは単独狩りで死にまくっていたので必要かと」


「そっかぁ。まだサモン覚えてない時期だよな」


「その節は皆さんありがとうございました。街を出た所で死んでたら、タウさんがクラシックをくれて、カンさんがペルペルを、ミレさんがエンカをくれた。お陰で死なずに狩りが出来るようになった」


「カオるーん、街のあんな近くで死ぬプレイヤー居なかったよ? てかあの辺って魔物居なかったっしょ?」


「…………猪は居た。猪踏んづけて返り討ちにあってた。アイツら仲間呼ぶんだよ!仲間意識が高いんだ」


「猪にやられるプレイヤーは珍しいですよ。流石カオるんです」


「大丈夫だ、父さん! 今度猪が出たら僕がやるからね!」


 マルクが拳を握りしめていた。いや、もう猪で死んだりはしないぞ?ゲームを始めたばかりの頃の話だからな。



「アースドスキン!」



 カンさんが俺の横にやってきてアースドスキン(土エルフの防御魔法)をかけてくれた。



「大丈夫ですよ、マルク君。アースドスキンなら猪がぶつかってきても問題ありませんから」



 ありがとう、カンさん。

 でもちょっと、何だろう……涙が。


 それから犬の誘拐には手を貸さんぞ?

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