第80話 救助の旅
ミレ、カン、アネ、マルク、俺の5人が救援物資を届ける。
俺とマルクが避難所を
ネット救助書き込みが元になっているが、救助と言っても配給と回復がメインだ。
どうしても連れ帰らないとならないケースのみ、洞窟拠点へ連れて来る。
ネット検索を始めた頃は思った以上に『HELP』の書き込みが多かったらしいが、そこはタウさんが上手く仕切ってくれている。
ミレさんらチームBは単独で動くが、何かあったら直ぐに駆けつけられるように5人でパーティを組んでいる。と言うのも場合によっては俺のエリアテレポートが必要になる場合もあるからだ。
パーティを組んだ状態でステータスの地図を最大化しておけば、かなり遠くまでパーティメンバーは薄い青で表示される。
範囲外に外れそうになったら連絡を取り合う事になっている。俺はマルクが一緒だから安心だ。はみ出さないぞ。
出発前に割り振られた『目的地』を目指して進み、マップに映る黄色に近づく。
救援に向かった先には目印を出して置いてもらってる。
だが、目印にたどり着く前に他の救助(国)を待ってる者達に行く手を阻まれる事も多かった。
「食べ物はないか」
「どこに避難したらいい」
「助けが来ない」
「家族が見つからない」
とりあえず知っている避難所を教えた。
今回はまず近場と言う事で県内(茨城)から攻める。茨城の沿岸部方面へ。出来るだけ内陸部、山側の避難所への移動を勧める。
一応避難を勧めても残ると言う者には物資を置いていく。
ネットでキャッチした県内の要救援者は、28ヶ所だった。そのうち25ヶ所はまだ内陸部に近く、何とか水が引いている地域だった。
俺とマルクは25ヶ所のうちのいくつか大きい避難所を回る。
残り3ヶ所のうちのひとつは、完全に水没したマンションの高層階でたまたま生き残った者だった。
マンションの他の家から食べ物や水を取ってきて何とか生き残っていたが、空腹で限界。息子に食べさせて自分らは我慢。親は餓死寸前。息子(中2)はネットであちこちに「助けて」と書き込んだ。勿論親がまだ元気な時に親戚や知人に連絡したが不通か繋がっても「無理」「行けない」と言われた。
「助けて、父さんと…母さんが死んじゃう 助けて」
カンさんが訪ねた先だ。俺たちはフレンドのグループ念話もオープンにしている。
タウさんから『とりあえずヒールスクロールで。空腹はヒールでは復活しないでしょうが起き上がれるようなら経口補水飲料を飲ませて、それからお粥ですね、食糧と飲料をある程度置いてこちらの連絡先を教えてください』
『こちらの連絡先』とは、ネットの掲示板にいくつかスレを立ち上げていた。鍵付きだ。
救援物資を置いていった先に、定期的にそこに連絡をもらうように鍵を伝えておく。
これは俺が何気にもらした一言から掲示板を立ち上げる事になった。
「……物資を渡しても、その後大丈夫か気になるな。こっちに連れて
くるのは無理でもたまに確認した方がよくないか?」
「とてもじゃないがそこまで出来ないぞ?圧倒的に手が足りない」
「うん、わかってるんだけどさ、俺が気になる。俺、見に行く…かも」
という訳で、救援物資を渡した先には、鍵付きのネット掲示板を知らせて、その後の状況の書き込みをお願いした。うん、俺が安心したいだけだ。
27件目も似たようなマンションの上層階。
28件目の救援は、近くの小山に避難が出来た数名だった。小山の麓にあるケアセンターの職員5名とケアセンターで預かっていた高齢者2名だった。
職員のひとりがダメもとで書き込んだネットで、本当に救助にきた事に驚いていた。
職員は皆憔悴していた。預かっていた12名の高齢者のうち2名しか助けられなかった事、歩けない者を背負った職員達が皆流された事。
辛うじて杖で歩行が出来るふたりの高齢者、それを両脇から支えて山を登った4人、流れて行く仲間を最後まで助けようとしたひとり、合計7人だけが助かった。
小山の頂上にあった電気施設小屋で7人は凌いでいた。山にある水や山菜、木の実で今まで頑張った。
職員はいつも胸ポケットにスマホはある。しかし次第にバッテリーが無くなる中、ずっと電源を落としていたひとりが掲示板へ書き込んだ。
そこにはアネさんが向かった。即念話でヘルプ。
『カオるーん、来て来てぇ。7人いるけどここ家ないのよ。山の頂上で周りはドス黒い海。そこにジジ2、中年3、若くない者1、若者1。タウさん連れ帰りでいーい?』
『そうですね。マルクくん、カオるんと向かってもらえますか?』
『はい、んーと、ここからだと5kmくらいかな。山の麓までスワンで向かいます。麓についたら念話するので何か合図ください』
アネさんと無事合流、1ヶ所に集まってもらい眠らせて、エリアテレポートで洞窟拠点へ。
拠点では、タウさんの指示で有希恵さん達が部屋の用意。それと医務室へ連絡済みと手際が良かった。凄いな、全員が戦力だな。
ミレさんとカンさんはそのまま福島方面へ一足先に移動した。
茨城から福島へ向かう沿岸部はかなり削られて内陸に迫っている。水が低い地帯には腐乱した死体の数が凄い。
グループ念話でタウさんに相談して、この先ちゃんとした火葬や墓での供養は考えられない。俺と合流次第『ファイア』で燃やすようにと言われた。
手を合わせてからファイア。
俺たち5人はタウさんから次のターゲットを貰い、茨城から出て福島、宮城、岩手と周る予定だ。
『物資足りなくならないか?』
『そうですね、どこも欲しいものは一緒ですからね。水、食糧、それとトイレットペーパー。それから薬、と言うよりは医者でしょうか』
まだ物資はあるとは言え、今後も考えると物資収集も必要だ。
タウさんから物資収集をしながら救援地へ向かうように指示が出た。ただし物資収集は5人一緒に。救援先は都度5人で臨機応変にと言われた。
臨機応変、俺が最も苦手とするワザだ。だが今はパーティで動いているし、ミレさんもカンさんもアネさんも居る。それにマルクも居るしな。
見つけたスーパーや百貨店では手分けして手当たり次第に収集、明らかに腐ってる物以外は全て収納、その場で悩まずお持ち帰りでタウさんらの判断に任せる。
俺とマルクはテレポート魔法があるし、ミレさんらはテレポートリングがある。いつでも瞬時に戻れるので便利だ。
買い物カートや籠に入れた食料を一旦洞窟拠点へ落としに戻る。
「これチェック頼むー」
そう言ってまたブックマークした先へと戻る。
それにしても太平洋側の沿岸部は遺体の数が半端ない。燃やしながら進むので中々進めず、タウさんに相談後、断念。
ご遺体さんには申し訳ないが、とにかく切羽詰まった書き込み先へ向かうのを優先する。
物資を収集したり救援物資を届けたりご遺体を葬ったり、5人では無理だ。
岩手までは何とか行ったがそこから先は諦めて、内陸から新潟、群馬、栃木へ移動する。
ご遺体の件はタウさんも心を痛めたようだ。タウさんの痛めた心は有希恵さんが慰めているんだろうな。あの夫婦仲良いもんな。
「たった5人なんですよ? 5人で出来る事なんてたかが知れて当たり前です。貴方が心を痛める筋合いはありませんよ。国も政府も何もしてくれない中、貴方達は物凄く頑張ってますよ。だって、まず最初に私達を救ってくださったでしょう?異世界から私と美穂と美咲を救いに来てくれたでしょう?それだけでもう貴方はヒーローなのよ」
タウさんは静かに涙を流したそうだ。(芽依さん目撃談)。
「美穂も美咲も、私のパパは世界の救世主って言ってたわ」
有希恵さんがそう言うと美咲さん達が部屋へ入ってきて、「違う!言ってない。パパじゃない。うちのおとんは世界を救うヒーローって言った!パパやない!おとんや!」
変なとこに拘った美咲さんだが結局はパパっ子なのよね、と芽依さんが後に語った。
「さて、ヒーローはやる事が多い。ここを頼んでいいか?私も救援に参加してくるよ」
『物資収集と救援を並行して出来るか?』
『おうよ』
『ええ、出来ますよ』
『出来るー』
『やるぜ!』
『では、新潟、群馬、栃木を済ませてしまいましょう』
俺ら5人にタウさんが加わった。
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