第79話 助けたい

 丹沢山たんざわさんの山腹にあった別荘地の中の一軒にアネ一家がいた。

 挨拶もそこそこにまずは茨城の拠点へとエリアテレポートで帰還した。


 洞窟拠点の本部ルームには関係者が集まっていた。

 タウさん一家4人、カンさん一家2人、ミレさん一家3人、急遽仲間に引き入れたこの地域の地主の杉田さんの孫の憲鷹けんよう、そして鹿野かの一家の俺とマルク、計12人。


 まずはアネさん一家がアネさんに依って紹介された。



「ありがとねー。助かったわぁ。もうどうしよっかって思ってたから本当助かるぅ。カオるんサンキュね。あと皆さんもありがとうございました。で、うちのパ、父と母と兄と姉です」


「アネさんアネさん、まず自分の名前から言ってよw」



ミレさんのナイスなツッコミ、アネさんはペロっと舌を出した。



「ごっめーん。私は斉木莉緒さいき りおですー。あ、趣味とか特技とかもいる?」


「いえ、趣味特技はご自由に、それよりもゲームの種族とキャラ名などを言っていただければ」



「あ、そっか。斉木莉緒さいきりおラインエイジファンタジーではナイトキャラで前衛職、名前はアネッサです。えと、異世界に行った話もみんな家族に話した?」


「はい、打ち明け済みです」


「そかー。異世界でもナイト職、あ、ナイトって解るかな。剣でズバズバぶった斬る系ね、それで異世界でもそれで冒険者ランクはSでした。んじゃ次パピー」


「ゴホッゴホ、えぇ私は莉緒りおの父で斉木柊一郎さいきしゅういちろうです。ゲームキャラはありません。異世界にもいっておりません」


「次、マミー」


「もう、莉緒りおちゃんたら。私は斉木希和さいききわです。夫同様、地球にいました」


「次は兄さん」


「莉緒の兄で斉木隼人さいきはやとです。普通の地球人ですがよろしくお願いします」


「アネの姉ねー」


「莉緒の姉の清華きよかです。一般人ですがどうぞよろしくお願いします。家族共々お世話になります」



 アネのアネ(姉)の言葉と共にアネ一家が頭を下げた。こちらも皆、順繰じゅんぐりに紹介をしていった。


 それにしてもアネ一家は物凄い美形一家じゃないか?絵に描いたような上流家庭の美男美女という感じだ。

 そう言えばタウさんとこもそうだな、奥さんも娘さんらも美人だしタウさんもイケメンだ。


 ミレさんとこは芽依さんも真琴も可愛い系でミレさんはヤンチャ系のイケメン……。

 カンさんとこの翔太は奥さん似なのか将来イケメンまっしぐらな顔つきだ。それにカンさんは一見地味顔に見えるがTVの名脇役の様な雰囲気があるんだよな。


 そしてうちのマルクは外国系のハッキリとした顔立ち、キュートなイケメンだ。


………………俺、俺だけ、地味顔。いや、顔だけでない、特技も何もない、まさにモブ。

 何だろう、この光り輝く一団の中で俺……。グスン。



「何かこの部屋、顔面偏差値、高くねぇ?」



 呟いたのは憲鷹けんようで何故か俺にgoodのハンドサインを送ってきた。おおう、そうだな。憲鷹も割と普通顔だった。マルクが何故か俺の脇に入り腰に抱きついてきた。マルクよ、父がモブでスマンな。




「アネさん、ステータスの件はご家族には?」


「もっち、話してあるよー。戻ったら直ぐ話した、あ、隕石と津波が来るの早かったから逃げながら話した」


「話す前に見せられましたw 妹に持ち上げられたら信じないわけにはいきませんよ」


「ちょっと隼人はやと兄さん、人聞きが悪い!モタモタしてたから流される前に引き上げただけじゃない」


「マグロの一本釣りのように隼人兄さんを釣り上げてたわよ」


「ん〜……、でもあの時の兄さん、冷凍マグロのように大人しかったね」


「驚いて固まってたんだよ!」



 タウさんは用意していたパソコンでアネの家族にもゲームにログインをしてもらった。



「何でこんなに簡単にネットが繋がるの?、茨城って凄いねー」



 アネが感心したようにパソコンを触っていた。

 そうなんだよな、東京よりスムーズに繋がる。と言っても東京はかなり水に沈んでたからなぁ。


 茨城も沿岸部はかなり被害を受けていたが、それにもかかわらずネットが物凄くスムーズなんだ。



「筑波は学園都市がありますし、学園都市にシェルターがあると言う噂もあるんです。もしかしたらそこに大きなサーバーとかがあるのかも知れません」



「学園都市ですか……、一度訪ねてみるべきですね。避難所もあるかも知れない。それよりもしかすると国の何らかの機関がそこにある可能性も……、いえ、かもばかりで申し訳ない」


「いやタウさん、今はその『かも』が大事だ」


「そうだな。希望的観測の『かも』だからな」




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 日々、ネットへの書き込みは酷いものになっていった。


『誰か助けに来て』

『寒い、電気がつかない、食べ物も尽きる』

『寒いよ!7月って夏だろ!』

『病院がやってません、子供の熱が引きません、どうしたらいいの』

『◯◯避難所です。食料が尽きそうです。近隣で余っているとこあったら分けてください』

『お父さんお母さんを探してください』

『警察も救急車もこない、誰か助けて』



 7月も終わるのにこの寒さ、どこもそろそろ物資も切れて本気でヤバくなってきているようだ。

 国も市も町も何もしてくれない。してくれないと言うより何も出来ないこの状況。


 地域の警察もすでに機能していない。日本は脆いな、どんな薄い板の上に成り立っていたのだろうか。

 だが頑張ってる地域もまだまだあるはず。火山の噴火、火山灰さえなければやり過ごせたかもしれない。


 言ってもしょうがないか。起こってしまった事は戻せないからな。




-------------(タウロ視点)-------------


 拠点本部に置かれたパソコンを覗いていたカオるんの表情は悲痛なものになっていた。


 何も出来ない自分が歯痒いのだろう。助けに、行きたいのだろう。


 あれを読んで助けに行きたくない者はいるだろうか?勿論自分らも切羽詰まっていればそれどころではない。

 だが、私達は……。



 私達が今いるこの拠点でも避難民は300人弱、これ以上増やしても自分達だけではどうにもならない。このままではいずれ自分達にも食糧難はやってくる。



 カオるんが独り言のように小さい声で呟いた。



「せめて物資を渡せないか? 落ち着くまで待ったら間に合わない。いや、どのみちもう十分間に合ってないんだが。まだギリギリ生きている者を少しでも救えないだろうか?」



 独り言ではない、明らかに私への問いかけだった。



「少し整理しましょう」



 同じ部屋でパソコンを触っていたミレさんと作業をしていたカンさんも中断してテーブルについた。



「日本中の人を私達数人で救うのは無理です。けれど何もせずにいるのも違う気もします。私達には異世界に行って戻った不思議な力やアイテムボックスがあります」


「僕らは家族と逢うために神様が戻してくれた。けれどただ逢うだけならこの力は要らないはず。もちろん家族と生き残るために必要ですが、もう少し手を広げる事はできるのではと思います」


「ええ。神に人類を救えなどと使命を受けてはいませんが、私達が出来る範囲で救うには問題ないかもしれません。勿論家族の安全が最優先ではあります」


「そうだな。この拠点のおかげで家族の安全はだいぶ確保出来ている。救えるところに手を伸ばそうか。なっ?カオるん」


「え、いや、俺は別に……。マルクが元気でいるのが一番だから」



 カオるんの表情は側で見てもわかるくらい明るく変わっていた。

 お互いの気持ちが分かり合える、助けあえる仲間がいるのは本当に心強い。




「ただ、ルールは決めましょう。闇雲やみくもに救助をしまくるのは悪手あくしゅです。自分達の首を絞めかねない」



 まず救助のルールとして出したのは、

『助けを求めている者を優先する』と言う事。



「どう言う事だ?それは当たり前だろう?」


「こちらから聞いてまわらない、と言う事です。必要な物資があるか?避難所へ行きたいか? こちらから聞けば人は欲をだす。もっといい場所、安全な場所、普段と変わらぬ生活をしたい、と。だから相手から話させましょう」


「どうやって?」


「水が無い、食料が無い、薬がないなど具体的に言われた物については、なるべく早くのお届けを約束する。けれど家族を捜してくれなどはお断りしてください。この状態で捜せるものではない。ひとりの救助者にそこまで時間を使っては他の人を助けられない。けれど、家族が居るはずの〇〇避難所へ行きたいが移動手段がない、その場合は連れて行ってください。ひとりなら馬に乗せて。複数人なら馬にリアカーでも引かせましょう」



 皆が納得したように頷いた。

 そこでさらに説明をする。まずはネット、SNSで情報をキャッチ。



「避難所を周るチームAと個人宅を訪れるチームBに分けます。チームAは避難所で不足している物資の調査、こちらへ持ち帰り相談の上物資を届ける。避難所近隣でSOSを見かけたら避難所へ誘導する」


「なるほど」



「チームBは個人宅に物資を運ぶのか、近場の避難所へ行くか本人に決めさせてください。ただし小学生以下の子供のみの場合は洞窟拠点へ連れ帰ってください。いずれは親族捜しをするかもしれませんが今この段階では無理でしょう」


「家に子供だけで居た場合はこっちに連れ帰る、と。その場合は家に貼り紙してくるか」


「そうですね。ここでお子さんをお預かりしている旨を書いてきてください」


「なるほど、やる事はだいたいわかった。ただ救助先をどうやって選別する?」


「私達の救助はまずネット情報をキャッチします。ネット接続不可の方々の救助は、今は考えないでください。恐らくネットが使えない状況の人達の方が膨大な数でしょうが、申し訳ありませんがそこまで手を広げられません」


「そうだな、だが具体的にどうやる?トイッターとかから拾うか?」


「救助要請のSNSを上げた方へアクセスします。Zでもインストでも8チャンネルでも。住所や所在地の特徴を上げてもらいます。場所が不明では助けようがありませんから」


「そこに俺らが行くわけだな」


「ええ。今回動いてもらうのは、ミレさん、カンさん、……アネさん動けますか?」



いつの間にか皆が集まっていた。



「もっちろん!任せて、私はカオるんみたいに方向音痴じゃないからだいじょぶ!」


「お、俺だって……」


「カオるんも動いてもらいますが、マルク君、一緒に行けますか?」


「行ける!」


「ではカオるんとマルク君は一緒に」


「あの、僕は?僕も出来る事手伝いたいです」


「はい。ありがとうございます。翔太しょうた君と憲鷹けんよう君、それから美穂みほ美咲みさき、それと芽依さんは、私と一緒にネットで救助情報を拾ってください。残りの方は拠点内で問題が無いかを回って確認していただきたい。それと届ける物資の区分けなどもお願いすると思います」



 皆が力強く頷いてくれた。

 それからカオるんに向かって重要な願いを口にした。



「カオるん、今回の物資救援で一番の要になるお願いがあります」


「お、おう、何だ?」



 カオるんは難しい依頼をされると思ったのかかなり神妙な顔つきになった。



「今回の救助で必要な物資ですが、カオるんのアイテムボックスの中にある物を使わせていただきたいのです」


「お、おう」


「カオるんが異世界のダンジョンB2で9年間貯めたセボンやマツチヨの物資です」


「おう、それで?」


「出せるだけで結構ですので、今回それを使う事を許していただきたい」


「んお? それは別に全然問題ないが、それで一番の難しい問題とは?」



 ん?カオるんとの意思疎通が少しずれてます?



「カオるん、難しい問題じゃなく、作戦の要ですよ、物資救援の要はカオるんのアイテムボックス内の大量の物資を使いたい、そうですよね?タウさん」



 カンさん、フォローありがとうございます。



「そうそう。カオるんがせっかく貯めた物資を今回使っていいか、って事だよ」


「うん? 特に問題ないが? それがカナメ?なのか? タウさん」


「タウさーん、カオるんに難しく言ってもダメだよー。カオるんいっぱい持ってるからそれ使っていい?くらいでいいのよ。その方が通じる!」


「おう、そんな事当たり前だぞ、タウさん使ってくれ」



 アネさんわかりやすく通訳をありがとうございます。皆さんもフォローありがとう。そうでしたね、カオるんは『そんな事』は気にしませんね。


 カオるんのアイテムボックス内の物資については事前にある程度把握してある。俺たちが持ってる物資のおよそ9年分だ。それらを使い切らない程度で今回活かしていきたい。



「タウさんかなり弱っている人や病人、怪我人がいたらどうしましょうか」


「それは先日カオるんからいただいたスクロールやポーションを使いましょう」


「スクロールは数に限りがあるだろう? こっちに戻った以上、スクロールを増やす事はこの先出来ない。使っちまっていいのか」


「ミレさんのご心配はもっともです。が、ご心配には及びません。多少は保管しておきます。が、私達にはWIZが2名もいます。それに驚く程の量をカオるんからいただいたので、今後は前向きに使って行きましょう」


 本当に驚くほどの量でした。異世界で私達が家族を探して旅を繰り返していた間、カオるんはアイテムボックスに色々な物を収納していたようです。


 カオるんは10年後に地球に戻るなど考えもしていなかったでしょうに、異世界での生活を満喫しつつかつこれだけの収集。恐ろしいほどの強運ですね。



「そうだな。今使わずにいつ使うんだって、カオるんなら言いそうだ」


「そうだよ、今だろ、今!」



 皆から笑いが溢れた。



「タウさん、もしも、もしもだが、救助要請へ向かう途中で別口のHELPを見つけたらどうしたらいい?」



「優先順位によりますね。どちらがより助けを必要としているか。その判断は現場にお任せします」


「どうせカオるんは両方助けるんだろうがなw」


「その時は必ず念話で一報を入れてください?こちらも準備がありますから。何でもかんでも拾ってきてはいけません」


「カオるん、犬猫拾って来そうだな。裏山で隠れて飼いそう」


「裏山……」


「カオるん、ここが裏山ですよ?裏山の洞窟拠点。拾ったら変な場所で飼わないで必ず報告してください。人も犬も猫もです。マルク君、お願いしますね」


「はい、わかりました」



 作戦がスタートして早速皆が行動に移した。


 アネさんを見送る家族は少しだけ不安そうだった。


「莉緒、気をつけて行ってこい」

「気をつけてね、無理しないでね」

「はぁい、兄さんもきよ姉もお母さん達をよろしくね」

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