第73話 テレポートの法則②
俺は、タウさん、カンさん、ミレさん、マルク、翔太、真琴、芽依さんを連れてエリアテレポートでニオンへと飛んだ。
ニオンは店舗前も駐車場も火山灰が深く降り積もっていた。ここは高台だが周りは津波の水が引いておらず、泥の池の中洲のようになっていた。
うん、これは、他の人が物資を取りに来るのは厳しいだろうな。俺たちが持って行っても大丈夫そうだ。
「まだ火山灰が降っています。早く中に入ってください」
タウさんに促されて俺たちは店の中に入った。
「一応ここでブックマークをしてください。帰りはここに集合しましょう。そうですね、ここをニオン水戸店入口と登録をお願いします」
俺たちはタウさんに言われた通りにブックマークの登録をした。うん、共通の名前にしておくのは良いな。待ち合わせもしやすい。
このニオンはかなり大きなショッピングモールだった。俺が前に立ち寄った時は入口の横に併設されたコンビニに寄っただけだった。後でゆっくり来ようと納豆オブジェでブックマークをして去ったのだ。
ここは広大な食糧品館の他に専門店館とレストラン館、それから映画館もあるようだ。
専門店館は洋服やバッグ、靴のような小さいショップから、大型百円ショップのダイコーや有印良品、ミトリ、ウニクロもあった。
ミレさんは芽依さんを連れて依頼の商品を中心に収集していくそうだ。ふたりは歩いて専門店館の方へと向かった。
タウさんは洞窟内で必要な電気関係の物を収集するようだ。
俺とカンさんはまずは子供らを連れて映画館の方へと歩いて向かう。映画館が入ってるフロアまで連れて行き、そこで1時間遊ばせる事にした。映画館の横にはゲームセンターやガチャコーナーがあり、子供達も楽しめるだろう。
館内は停電していたが、俺が歩きながら魔法のライトをあちこちに放ったのでそこそこ明るい。
勿論映画は上映はされていないが、直ぐ横のガチャコーナーはカンさんのMCNスキルで電気が復活した。
カンさんのスキル、本当すげぇな。
「1時間後にここに集合だぞ? あまり遠くにいくなよ?」
「外には絶対に出ないでください。何かあったら直ぐに連絡を、マルク君に念話をしてもらってください」
「はーい」
「わかったー」
「大丈夫よ」
子供達には二千円ずつ渡した。勿論普通の日本紙幣だ。子供らは直ぐに両替機へと飛んでいった。
俺とカンさんはタウさんらと念話をしながら今来た通路を戻る。
『俺らはどの辺りを収集する?ミレさんらは服と布団か?』
『今、布団やリネンを収集してる。ウニクロはカンさんらが今いるとこから近いな』
ミレさんはマップで俺らを認識しているようだ。パーティを組んでいるからマップには青く映る。青い点1と黄色い点1がミレさんと芽依さんか。青い点がひとつだけなのがタウさん、青2が俺とカンさん、黄色2と青1がマルク達か。
全部が青だと全く区別がつかないが、ステータスが出ない者達とはパーティも組めないので黄色い点(一般人)で表示されるのが今回は分かり易くて助かる。
『ではウニクロは僕とカオるんで収集します』
『あとは近場から根こそぎ取っていこうか』
『わかった』
『はい』
『おけ』
俺とカンさんはウニクロに到着した。俺らがいる建物は4階建てなんだが何と、3階、4階のふたフロアがウニクロだった。
「カオるん、僕は4階を周りますからカオるんは3階をお願いします」
「おう、わかった」
ニオン水戸店のウニクロは凄いな。都内の駅構内にあるウニクロにも「こんなとこに?」と驚いたが店舗のスペースは狭かったよな。
それに俺のようなおじさんにはちょっと敷居が高い。若者で混雑していておじさんは入れなかった。
ここは、もしも今回の災害が無かったら家族連れなどの大勢の客が訪れていたのだろう。
売り場も男性物、女性物、子供用と分かれている。4階には何が置いてあるのか気になる。後でカンさんに聞いてみよう。
子供サイズの売り場から商品をどんどんと収納しながら俺は一喜一憂した。
「おっ、これはマルクに似合う! これも似合うぞ? これなんかもうマルクの為に作られたようなデザインだな。……こっちはサイズが小さすぎるか。うおっ、これはこっそりガメておきたい。絶対マルクに似合うやつだ。渡さんとダメかなぁ……」
『カオるん!念話漏れてますよ! 集めた物は一応後で全部出してください。その後に要相談に応じます』
ぎょえっ、タウさんに聞かれていた!
暫くは無心を心掛けて収納して周った。夢中で収納しているとカンさんから念話が入った。
『カオるん、一旦映画館に戻りましょうか。あれから1時間くらい経ちますし子供達も気になります』
『そうだな。二千円なんてあっという間にガチャで使い切ってるだろう。洞窟でのバイトは日本円では払ってないからマルクも自分の金なんて持ってないだろうし』
俺とカンさんがテレポートで映画館の入口のフロアに戻ると既に子供達3人は其処にあるソファーに座ってポップコーンを食べていた。
「父さーん、これ美味しいよ?」
マルクが嬉しそうに頬張りながらポップコーンの箱を持ち上げた。映画館には当然だが人はいない。ポップコーンやホットドッグ売り場には誰も居なかったはずだ。
「ポップコーン、どうしたんだ?」
「翔ちゃんが作ってくれた」
翔太が照れたように、はにかんでいた。
「うん……父さんがさ、ガチャ屋の電気付けてくれたじゃん?そんでポップコーンの機械をあっちまで持って行った。あとは見よう見まねで作ったら出来た」
「ねぇ、美味しいねぇ」
「ねぇねぇ、これも持って帰ろうよ。洞窟でも人気になるよ!」
真琴と翔太に言われてマルクはポップコーンの機械をアイテムボックスへと収納したようだ。
カウンターの中から材料と思われる物を真琴と翔太が持って来た。
「マルク、コレも入れて」
「マル君まだ入る?」
「まだまだ入るよぉ?」
「じゃあさ、食べ終わったらさっきの店のも持って帰ろう」
「そうだな。あそこ面白いのいっぱいあったな」
子供達はガチャ屋の先にある『お祭り屋』を物色していたようだ。俺たちが1時間後に戻ると言ったので、一旦映画館まで戻っていたそうだ。
子供達の無事を確認した俺らは、また物資収集の続きに戻る事にした。子供らもここらで時間を潰せそうなのがわかり安心したが危険な事はしないように念押しをして子供らを見送った。
「3人一緒に行動しろよ」
「わかったー。マルクはお祭り屋で全部収納してな」
「うん。翔ちゃんは『不思議屋』さん?真琴ちゃんは?」
「私はそこらの店舗で袋集めてくるね。袋に入れれば収納鞄でもひとつにカウントされるからさ」
「じゃあ、30分後にマルシェに集合なー」
「はーい」
「オッケー」
そう言って3人が消えた。3人一緒に行動をしろと言われたそばからそれぞれお目当ての店にテレポートしたな。
映画館に集合する前にブックマークをしていたのか。そこでふと何かが脳裏を過ぎった。
「あれ?今、テレポートした……よな? マルク……のエリアテレポートか? ってマルクってエリアテレポート使えたっけか?」
「いえ、あの、今、時間差で居なくなりませんでしたか?」
「……時間差でテレポートって、翔太も真琴もテレポートした?」
ちょっと待ってくれ、これは大事件じゃないか?
マルクは異世界から来て魔法も使えた。向こうで『テレポート』魔法を覚えていたから、こっちでもテレポート出来るのはわかる。
翔太と真琴は?
ステータスは無い普通の人間だ。魔法は使えないはずだ。
だが、消えた。
魔法で無いとしたら……テレポートリングか。スクロールは使えなくてもリングなどのアクセサリーは使えたのか?
「カンさん、翔太にテレポートリングを渡してたのか。真琴もミレさんからリングを借りてたのか?」
「いえ、渡してないです。持ってます、ここに」
カンさんが左手を開いて見せた。中指に指輪がはまっていた。俺も自分の右手を開いてみせた。中指にテレポートリング。同じデザインの指輪だ。お揃い……あ、いや、違う違う、いやお揃いなのは確かだ。ゲームのアクセサリーだからな。持ってる者は全員お揃いだ。
俺はウィザードだからテレポート魔法が使えるが、異世界の時からの癖(ゲームの時もだ)で、MPが切れてもテレポートが出来る様にテレポートリングも常時付けていた。
勿論、こっちに戻っても中指にはテレポートリングを嵌めたままだ。
「あ、じゃああれだ。マルクのスクロールを使ったんだ。テレポートスクロール。収納鞄に入れておいたからな。うん、それだ」
「けど、それだと翔太と真琴ちゃんもスクロールを使った……って事になりますね。ステータスが無いのに?」
「え、あ、それは……そうだな。てかブックマークとかどうしたんだ? スクロールでもリングでもブックマークは要るよな? いやその前に翔太、ステータスあるんじゃないか?」
「いえ、以前に確認した時はありませんでしたよ……」
「これは、これは………こんな時は」
『助けて、タウさあああああん』
俺は念話で助けを求めた。
俺たちは子供らが言ってた『マルシェ』へと集まった。ここは普段は地元の物産品が色々と売られていたようだ。並べられていた野菜や弁当は腐ってしまって酷い匂いがした。しかし壁際の棚には調味料や缶詰、レトルトなどが置かれていた。
俺はここに残されて、タウさんらは子供達を捜しに迎えにいった。俺は手持ち無沙汰だったので臭い物はゴミ袋へ入れてキツく縛り通路の脇へ。消臭スプレーも撒いておく。それから棚の物を収納して行った。
5分も掛からず子供達を連れたタウさんらが戻ってきた。
話しを聞いてビックリ
「では翔太君も真琴さんもテレポートスクロールを使ってテレポートをしたんですね? ブックマークはどうしたんですか? テレポートをするにはブックマークが必要になりますが?」
翔太と真琴が顔を見合わせてから2人とも俯いてしまった。マルクはふたりの間でオロオロとしている。そりゃそうだ、大人の俺でさえタウさんに怒られると怖いのだ。
慌ててミレさんとカンさんがフォローに入る。
「翔太、ブックマークはどうしたんだ? テレポートで飛ぶ時はブックマーク先を選ぶでしょう?」
「ブックマークしたよ?」
「ステータスが出たんですか!」
カンさんが大きな声を上げたので翔太はびくっと飛び上がった。
「す、ステータスは無い……よ?」
「じゃあどうやって飛ぶ先を選ぶんですか?」
「ええと、覚えてるとこを唱える。ねっ、真琴ちゃん」
「うん。そうだよ? あ、私はメモしてる」
そう言って真琴は鞄から小さい手帳を出した。
〜〜〜〜〜〜
真琴の部屋
どーくつ入ったとこ
翔太くんのうち(大きい方)のげんかん
翔太くんの部屋(2階)
ニオンみとてん入口
映画館ロビー
おまつり屋
不思議屋
〜〜〜〜〜〜
「ステータスは、本当に無いんですね?」
「無い……です」
「無いもん」
「僕ある」
マルクも一緒に怒られている気になっている。
「どう言う事だ? ステータスが無くてもブックマークが出来るのか?」
「ええ、驚きました。テレポートやスクロール、魔法は、異世界から転移した私達のみと思っていました」
「そう言えば、あっちの世界の住民もステータスは無くてもテレポートは出来てたよな」
「そうです!そうでした。私としたことがそんな事も忘れるなんて、申し訳ない」
「いや、俺も忘れてた」
「僕もです」
「いやぁ、隕石だの津波だの火山噴火だのと慌ただしかったからなぁ」
「そうですね。慌ただしさに紛れて基本の検証を怠っていました。本当に申し訳ありません」
「タウさんのせいじゃない。俺らみんなウッカリしてたな」
「とりあえず残りの収集を終わらせて、今夜色々と話し合いましょう」
俺達は猛スピードで収集を終わらせて洞窟拠点へと戻った。
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