第74話 テレポートの法則③
俺達は猛スピードで収集を終わらせて洞窟拠点へと戻った。
とりあえず夕食を済ませて『拠点本部』としている部屋へ集まった。メンバーはタウ家4人、ミレ家3人、カン家2人、俺カオ家2人の総勢11人だ。このメンバーは俺らが異世界へ転移して戻ってきた事を知っている。異世界での事も知っているメンバーだ。
拠点本部の部屋は一応入口にドアが付いている。中には大きなテーブルと椅子が向かい合って八脚、誕生席一脚、その向かい側に狭いが二脚を並べて11人が腰掛けるようになってた。
もちろん、誕生席はタウさんだ。(誕生日ではないが)
タウさんは今日ニオンであった話を始めた。
「テレポートスクロールは通常はブックマークした先にテレポートをします。そのブックマークはステータス画面に登録されます。だが今回、ステータス画面が無いにも関わらず翔太君と真琴さんがテレポートスクロールを使用出来ました。再度皆さんにお尋ねしたい。ステータス画面は無いのですよね?」
皆がお互いの顔を見会う、タウさんと目が合うと頷いていた。その頷きは『ステータス画面は無い』と言う事だろう。
「翔太君と真琴さんに再度ステータス画面の確認をお願いしたい」
「え……、確認って?」
翔太がビクビクしながらタウさんを窺う。そんな翔太を見てカンさんが優しく問いかけた。
「ステータス画面は本当に出せないのか?」
「うん、無い」
「一応、唱えてもらえますか?」
タウさん的には優しく言ったのだろうが子供には怖く見えるかもしれないな。俺も、ちょっと怖いぞ?
「……は、い。……ステータス」
翔太が小さな声で唱えた。
みんなの視線が翔太に集まる。
「……あの、出なかった、です」
「もう一回言ってみて下さい」
「……ステータス」
大人8人にガン見される中でやらされるってどんな圧迫面接だよ……、翔太が少し可哀想に思えた。
「翔太?もう一回……」
「もう、何度も言ったよー」
「大きな声で、両手を前に突き出して叫んでみなさい」
「えええ、いやだよ、恥ずかしい」
翔太を助けるように真琴が立ち上がり身振り付きで叫んだ。
「私、やってみる! ステーーータスっ!」
だが、何も起こらなかったようだ。地面にorzになる真琴。うおおお、俺たち悪い大人かよ!
「ごめんな、おじさんが悪かった」
ミレさんが慌てて駆け寄って起こしていた。俺も駆け寄った。
「あ、ほら、これやるから。悪かったな、見えないもんは見えないよな」
俺は慌ててアイテムボックスからテレポートスクロールを取り出して真琴に渡した。受け取った真琴は一瞬で気持ちが復活したようだ。
スクロールを貰ったのを見た翔太が突然俺の横にやってきて、
「俺もやる、ステェエエエエエタス!」
翔太は両足を肩幅の2倍ほどに広げて立ち、両腕を勢いよく前に突き出していた。
「出ませんでしたー」
フンスと鼻から息を吐き出しながら言う。
はいはい。俺は笑いながらスクロールを翔太にも渡した。
「僕もやるぅー!すてぇたすぅぅぅぅ! 父さん、出たよステータス」
うんうん、マルクや、君が出るのは解っていたよ?でも可愛いからスクロールをあげよう。
子供らが頑張っているのを見た女性陣も椅子から立ち上がっていた。
「ステータス!」
「出よ、ステータス!」
「ステータス。出ないわねぇ、ステータスっ!」
「ステータスよ、我が前に見現せよ!」(←芽依さん)
「出ないな」
「出ないやん」
「出ませんね」
「何故、現れぬか、ステータスよ」(←芽依さん)
「あぁ……はい。出ないのは確認出来ました。それでは部屋の隅でブックマークを試してもらえますか? ブックマーク名は『テスト』で」
「えっ、ブックマークってどうやるん?」
「真琴ぉ、どうやったの?」
「うんとね、ブックマーク!って唱えてから場所の名前を言う」
皆が『テスト』をブックマークしたっぽいのを確認したタウさんは皆に部屋の反対側の隅へ行くように促した。
俺はアイテムボックスからテレポートスクロールを出して女性陣に一枚ずつ渡した。
部屋の隅に集まった女性陣はあっという間にさっき『テスト』と登録した場所に瞬間移動していた。
何と全員がテレポートに成功した。テレポートにと言うかブックマークに成功したと言うべきか。ステータス画面が無いにも関わらずだ。
タウさんは北海道のゆうごに連絡をして、あちらでも試してもらった。
だが、ゆうごの友人達はテレポートが出来なかったそうだ。
「どう言う事でしょう、
俺たちは頭を抱えていたが、女性陣と子供は楽しそうにしていた。
「そうだ、ブクマ出来るならついでにリング試したらどうだ?」
「そうですね、それも検証しましょう。ブックマークが出来るなら大丈夫な気がしますが、検証は必要です」
「カオるんもたまには気が利いてるな」
ミレさんは芽依さんに、タウさんは有希恵さんに、カンさんは翔太にテレポートリングを渡していた。俺も自分の指から抜いたリングをマルクへ渡す。
スクロールと違い、リングは回数の制限が無いためか、翔太、マルク、芽依さんがヒュンヒュンとテレポートを連続で試していた。
「お母さん!早く私にも貸して!」
真琴に催促されて芽依さんは渋々指輪を渡した。有希恵さんは一回試して直ぐに美穂さん達に渡していた。
子供達も気が済んだのか指輪を返してきた。
落ち着いたところで全員着席をして話は続く。
「
「俺?」
「ええ、私達…あ、家族の事ですが、自分で飛ぶ前にカオるんによってテレポートを経験してます。北海道のゆうごの所はそれが無い。テレポート自体が未経験です」
「なるほどなぁ、そう言えば向こうではどうだったんだ?カオるん」
「え……?向こうってムゥナでって事か?」
俺は異世界での事を思い浮かべた。
「そもそも異世界転移した者は全員最初からステータスは出てたよな。ゲーム未経験者は職やスキル、アイテムボックス、マップは無かった。けどブックマークは普通にやってた気がする。いや、よく分からん。何しろ一緒に住んでた山さんもあっちゃんもキックも職持ちだったからなぁ。気にした事なかったぜ」
「でも現地民はステータス無かったろ?」
「ああ、まぁそうだな。でも皆普通にブックマークしてテレポートしてたぜ? やまと屋じゃスクロール普通に使ってたからなぁ。どうしてたんだろう? 真琴みたいにメモしてたんかな?」
マルクがクイクイっと俺の袖を引いた。
「僕ら覚えていたよ? メモとかしてなかった」
「そうでした!マルク君!」
タウさんが大きな声を上げた。
「マルク君はあちらではステータスは無かった。こっちに来てゲームにログインして初めてステータスが表示されたのですよね?」
「う、うん。そう。父さんと一緒になった」
「なるほど、あっちじゃステータス画面が無くてもブックマークしてテレポートスクロールを使ってたのか」
「マルクの場合は元が異世界人ってのもあるからなぁ」
俺たち異世界戻りはステータスがあった。
異世界から転移してきたマルクはこの世界でゲームにインしてステータスが出た。
翔太達はゲームにインしてもステータスは出なかった。だがブックマークが出来た。
ゆうごの友人はゲームにインしてもステータスは出ず、ブックマークも不可…………。
わからん。……………………………?
「カオるん、カオるん? いいですよ、難しい事は考えなくて。それより他のスクロールも使えるのか、確認をしましょう」
ん?
「そうだぞ?カオるん、眉間に皺が寄ってるぞ?それ以上考えると頭から煙が出るぞ?」
おおぅ、危うく火事になるとこだった。前頭葉?後頭部?の危機だったな。
「自分達の安全と災害に対応するのに手一杯で、検証を後回しにしてしまいました。この期に色々と確かめましょう。まずは帰還スクロールですが、これはカンさんが試したと言ってましたね?」
「はい、自宅で帰還スクロールを試したところ駅に飛びました。ゲームでは近場の街、異世界でも近場の街の門でしたが、何故か此方の世界では駅でした。一応うちの最寄駅になります」
「父さん、最寄駅って言っても全然近く無いよ?駅……」
翔太がカンさんにコッソリと言った。
「そうなんですよ。この辺は車移動が普通ですから、駅はかなり遠いです。ですがまぁ、うちからは一番近い駅ではあります」
「車を駅に置いて電車使ってる先生いるよね、父さん」
んん?家から学校まで車使えばいいんじゃないか?何でわざわざ電車に?
「ああ、山を越えるより電車の方がトンネルなので早いんですよ。それで山向こうから来る先生は電車でトンネル越えて、車は駅に駐車してあるのでそれで学校へ通ってるんですよ」
それは大変だな。同じ茨城でもうちの方は山は無かったからなぁ。
「ふむ。帰還スクロールが最寄駅……。単に街の中で使用したので街の入口として駅に飛んだのか? 他の者も試すべきか……」
「帰還スクロールがどういう基準になっているのかが不明だな。カンさんはここが自宅なので自宅からの最寄駅だろうが、俺たちはどうなるんだ?俺は埼玉県の自分の家の最寄り駅に帰還するのか?」
「自宅が基準だとしたら私は愛知県に飛びますね」
「俺は茨城県民だが、俺の自宅はきっと水没地帯だぞ?駅も水の底だ」
「どうする?試すとしても誰が……」
「愛知がどうなってるか情報が無いからわからないわね」
「兄さん、うちは浸水してても膝位だし駅も無事だったよね? うちらが試すのが一番安全じゃない?」
「そうだな、ちょっと帰還スク使ってみるか」
そう言うが早いかミレさんはもう消えていた。帰還スクロールを使ったようだ。
皆が固唾を飲んで居なくなったミレさんの席を見つめていた。が直ぐに戻ってきたがミレさんは多少灰をかぶっていた。
「失敗したー、火山灰対策して行けばよかったぜ。それに真っ暗で参ったぜ」
「どこに帰還したのですか?」
「つつじヶ丘?って駅だった。うちの最寄駅じゃあねぇ。埼玉でもないと思うぞ」
「あ、そこ、ここの最寄りです、それ」
「じゃあミレさんも『ここ』からの最寄駅に帰還したって事か。ちょっと俺も飛んでみようかな」
「カオるん、火山灰対策していけ」
「私も行きます」
俺とタウさんが帰還スクロールを使うと、見知らぬ駅の改札の前に出た。駅は火山灰でかなり埋もれていた。
自宅(洞窟)に戻ろうとして帰還スクロールを手に取って苦笑いをした。もう!帰還つったら普通は家だろうが!
俺とタウさんはテレポートリングで洞窟に戻った。
念のため、有希恵さん、翔太、マルクも試したが、皆同じ駅に『帰還』した。
「あの駅が、この町の入口って事かもしれないな」
「と言う事はゲーム同様、その時居る場所が基準になるのか。その時居る場所に1番近い駅」
「帰還スクロールは使用禁止にしましょう」
タウさんの言葉に驚いた。たった今皆で検証をして駅に飛べたのに何故だ?
「ここで帰還スクロールを使えばさっきの駅へ飛びますが、他の場所で使った時に何処に飛ぶか判りません。私達にとって帰還スクロールは咄嗟の時に使う癖が付いています。しかしそれが今度は命取りになるかもしれません」
「そっかぁ。もしも丸の内のホテルに居てウッカリ帰還スクを使ったら、水の底の東京駅に飛んじまうかもしれないって事か」
「はい、そうです。ですので暫くは使用禁止です」
タウさんは俺の目を見つめた。
「カオるん、帰還スクロールは袋に詰めてアイテムボックスに仕舞ってください。ウッカリ咄嗟に使ったり出来ないように」
「お、おう。わかりました」
スクロールの検証は明日の朝に続きをする事になった。
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