第59話 あの日(第三者視点)②

 時間は遡る。隕石落下より少し前に。これはとある一家の物語。(主人公は出てきません)



----------(とある一家の少年視点)----------



 出発の金曜日。

 僕らはまだ暗いうちに出発した。


 昨日のうちに荷物は父さんのトラックへと積み込んだ。トラックは僕が想像していたよりもずっと巨大だった。横の壁が上へ上がり、荷物を積み込む。重い物を引っ張る装置も付いていた。


 父さんが苫小牧とまこまいに配達する荷物はそんなに大きくなく、荷台部分の後ろの方にちょこんと置かれていた。勿論しっかり固定はされていた。積み込んだうちの荷物も父さんがしっかり固定をしていた。


 まるで引っ越しのようにうちの物を父さんはどんどんと積んでいった。ソファーや台所のテーブルと椅子。タンスとかテレビとか洗濯機も。冷蔵庫は腐らない物を中に詰めてから荷台に積んでいた。


 北海道の叔父さんちに遊びに行くのではなく、本当は引っ越しなのかな?友達にお別れを言ってない。



 途中でコンビニに寄った。父さんとお母さんは何か沢山買ってた。コンビニでこんなに買うなんて珍しい。今の時間はスーパーが開いてないからしょうがないのか。僕やお姉ちゃん達もお菓子を沢山買ってもらった。お婆ちゃんはワゴンで待っていた。大福とかりんとうはお婆ちゃん用に、あ、お婆ちゃんは入れ歯だった。柔らかいお菓子の方がいいかな?ベビーカステラも買っておこう。



 そこから直ぐに名古屋港に着いた。フェリー乗り場の案内の駐車場に停まった。トラックと一般車は駐車場が違うのでお母さん達とはかなり離れてしまった。時計を見るとまだ深夜の2時半で周りは真っ暗だ。父さんはスマホで誰かと喋ってた。


「じゃあ、そっちはそっちで時間になったら乗ってくれ。ああ、5時出港だから4時には乗り込み始めるはずだ。中で会おう」



 お母さんかな?話し終わった父さんは、さっき買ったコンビニの袋を渡してきた。



「まだ時間はあるからトイレ行っとけよ。その後は後ろで寝とけ」



 そう言って運転席の後ろを指差した。

 トラックの運転席の後ろには簡易ベッドがある。長距離の仕事の時にそこで寝るんだって。何か秘密基地っぽくて好き。ちょっとした物入れもある。コンビニで買ったお菓子やペットボトルをそこにしまった。


「しまった物は覚えておけよ、向こうに着いたらトラックは返すんだからな。うっかり入れっぱなしにすんなよ?」



 運転席から父さんが見ていた。なんか笑っていた。



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 僕が寝ている間に、フェリーへの乗り込みが始まったみたいだ。ガタンガタンと何かを踏んだ振動で目が覚めた。


「父さん……、もうフェリー乗った?」


「ああ、今乗ったとこだ。港に1番に着いたからな、乗り込むのが1番って事は、フェリーの1番奥になっちまった。出るのに時間かかりそうだな」



 フェリーの1番奥まで入りトラックは止まった。指示を出す人にチケットを見せた後に、客席に上がるドアを潜った。階段を上がる。4階に受付があってそこでもう一度チケットを見せるんだって。

 僕と父さんのチケットはロイヤル用だった。ロイヤルのチケットは三枚あったので、もう一枚はワゴン車の誰かが使うはず。



 4階につくと人がごった返していた。受付の周りも人でいっぱいだ。5時出港の早朝便なのにビックリだ。



「はぐれるなよ」


 振り返った父さんの腕を掴もうとした時、近くにいた人にぶつかった。


「すみません」


 とりあえず謝ったけど、何か機嫌が悪そうな顔をしていた。


「洸太、こっち来い。ああ、すんません」


 父さんが僕を強引に引っ張ってくれた。



「フェリー、凄い混んでるね」


「そうだな。チケット取った時もすぐに埋まったからな」


「夏休みでもゴールデンウィークでもないのに、みんな北海道に行くのかな」


「どうだろうな。この船は名古屋を出た後、仙台に停まる。仙台で降りる人も結構いるだろう」


「フェリーって自由席あるの?」


「自由席と言うか、寝台取ってないやつは、空いてる椅子かソファーで寝るんだろうな」


 ロイヤルの部屋は6階だって。父さんと中央の階段を上がりながら周りを見た。人、人、人。椅子もソファー埋まってる。立ったままの人も多い。


「お母さん達、もう乗ったかな?」


「うぅむ、まだだろう。トラックや貨物系を先に乗せるからな。部屋で待ってればすぐに来る」


「……うん」



 ロイヤルルームという部屋へ入った。凄いなぁ。船とは思えない。まるでホテルじゃないか?てか、あんまりホテルとか知らないけど。

 ベッドルームとリビングが別々だよ?ベッドは大きいのがふたつ並んでいた。きっとお姉ちゃん達が占領する。絶対そうだ。横に小さめのベッドのあった。そうか、3人用だからか。


 僕はこの部屋はいいや。お姉ちゃん達と3人で一緒とかは嫌だ。このベッドはお婆ちゃんかお母さんでいいよ。僕は父さんと大部屋で寝る。



「父さん、船の中を探検してきていい?」


「いいが、迷子になるなよ?」


「わかったー」



 僕は色々言われる前に飛び出した。この部屋は6階だ。4階5階は普通の部屋かな?壁の案内図を見ながらどこに行こうか考える。レストランもショップもカフェも4階なんだ。


 6階はロイヤルとか広めの部屋が多い。そのせいか4階の受付周りほど混み合ってはいなかった。廊下を歩いてる人がチラホラ。

 トイレは各階にもあるんだ。あ、お風呂発見。大浴場は5階かぁ。あと、お風呂の近くにカラオケとゲームコーナーがある!ちょっと見てこよう。


 ん?6階には自販機コーナーかぁ。夜中にお腹が空いた人が買いに行くのかな。

 探検は5階にした。4階ほどは混んでいないし、ゲームコーナーを見たい。帰りに6階の自販機を覗こう。アイスあるかなぁ。

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