第58話 あの日(第三者視点)①
時間は
----------(とある一家の少年視点)----------
「ただいまー」
誰も居ないリビングへ挨拶をしながら足にくっついてた靴を蹴飛ばすように脱いで玄関を上がった。
そのまま2階へ駆け上がり、自分の部屋のドアを開けてランドセルを放り込んだ。廊下の先のキッチンに行くと、テーブルの上にはコンビニの袋に入った菓子パンが置いてあった。
急に学校がお昼までになったんだ。まだ夏休みまでは間があるのに、夏休みまでは3時間登校で、昼前に下校だ。
朝その話をしたらお母さんに怒られた。
「何で昨日のうちに言わないの。急に言われてもお弁当は作れないよ? お母さんパートがあるからコンビニのお弁当でいい? 今、買って来るわ」
「お母さん、私はいらない。
「僕も……」
「
「えええ!五百円じゃ食べれないよー」
「僕、パンがいい。大きいの3つ食う」
「はいはい。
「大きいのだからね!」
「お母さん、あと二百円!値上げを要求する!」
「ダメ、
「えっ、
「
「お姉ちゃんのガッコーはお昼で終わんないの?」
「6限まであるよ。いいなぁ小学生は」
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冷蔵庫から牛乳を出してコップに注いだ。テレビの見える席に座ってパンを食べる。
いつもはお婆ちゃんが居るんだけど、今日は火曜日だ。毎週火曜日はお婆ちゃんがどっかに行く日だ。病院じゃないんだけど、年寄りが集まるサービスがあるんだって。どんなサービスだよ、ま、僕は若いから関係ないけどさ。
「ただいま」
あれ?お婆ちゃんの声だ。いつもは夕方に戻るのに、お婆ちゃんも今日は午前授業だったのかな?
「ただいま、おっ? 母さんも今帰りか?」
一階の玄関から父さんの声も聞こえた。
何で?何でみんな帰ってくるの? パンは僕の分だけだよね?袋を覗いてもパンは残り2個しかない。どうしよう、お婆ちゃんと父さんに一個ずつあげるしかないか。
「おかえりなさい」
「おう、洸太。もう昼飯食ってるのか?」
「うん……、パン3個しか無かったから、父さんも婆ちゃんも一個ずつでいい?」
「あら、私はおいなりさんを買ってきたからパンは洸ちゃんが食べなさい。洸ちゃんおいなりさんもお食べ」
「俺も途中で弁当を買ったから大丈夫だ」
よかった。パン3つ食べていいんだ。それとおいなりさんも美味しそうだ。父さんがテーブルに出した弁当の唐揚げも欲しいな。
「母さん、ケアセンターは何で昼前に終わったんだ?具合でも悪くなったのか?」
「違うのよ。何か施設が
「そうか。俺は
「あら、そうなの」
「ああ、だから……、あの話を進めようと思う。昨夜、
何だろう。『あの話』って。
美枝子は母さんの名前だ。真太郎は叔父さん、母さんのお兄さんで北海道に住んでいる。
もしかして北海道に遊びに行くんだろうか。
父さんはトラックの仕事をしている。さっき言ったトマコマイの荷物を運んだら休みなのかな。
父さんから唐揚げを貰いながら、北海道の叔父さんちへ遊びに行くのか聞いてみたけど、夜、みんなが揃ったら話すと言われてしまった。
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夕飯の後、部屋へ戻ろうとする
「ちょっと話がある。
お母さんがお茶を父さんとお婆ちゃんに、お姉ちゃんらは冷蔵庫から冷たいのを出して飲んでいた。
父さんはお茶は飲まずに、何か深刻な顔をしていた。
嫌だな。何かあったんだろうか?まさか、父さん、会社をクビになったのか?だから仕事が無くなるとか?
「
「仕事で? いつも行ってるじゃん?」
真耶姉ちゃんがすかさず突っ込んだ。
「仕事じゃなく、家族みんなでだ。真太郎君のとこで世話になる」
「
「あ、いいね!回転寿司行こう!あの
「ラッピも行こうよ、函館行ったら唐揚げバーガー食べないと」
真耶姉ちゃんと美桜姉ちゃんが函館グルメで盛り上がっている。ラッピはラッピーピエロと言うハンバーガー屋なんだけど、ハンバーガー以外にもオムレツとかカレーとか色々あるんだ。僕なら毎日ラッピに行くね。
「こらっ、食べ物の話は後にして最後まで聞きなさい」
父さんが苦笑いしながらお姉ちゃんたちの会話を止めた。
「北海道へは仕事でも遊びでもない。
「知ってるよ。戦争の時に田舎へ引っ越すやつでしょ?」
真耶姉ちゃんが少しだけ不安そうな顔になった。
「戦争始まるの? どこと?」
「宇宙人が攻めてくるんじゃない?」
「バカっ」
真耶姉ちゃんに睨まれた。
「戦争とかじゃない。だが、ちょっとな。会社も暫く閉鎖になる。いい機会だから函館の真太郎くんのとこで世話になろうと思う」
「あなた、暫くってどのくらいなの?」
「わからん。仕事が再開する時は連絡をくれるそうだ」
「…………もしかして、隕石が、この辺りに落ちるの?」
お母さんが突然、とんでもない事を言い出した。
実は学校でも隕石の噂は出回っている。先生は怒るけどクラスでも部活でも隕石の話は結構流行っているのだ。
「でも、隕石は地球の近くを通り過ぎるだけだから、何も起こらないって、テレビで言ってたよね?」
「そう思ってたんだがな、ただの噂で会社が閉鎖するもんかな……。会社の上層部が慌ただしく動いていたと思ったら、本部から突然、期間閉鎖の指示が来たとさ。先週から支部は振り回されておおわらわだ」
父さんは僕らの方を見た。
「そんなわけだから、二、三日中には北海道に行くぞ」
「えっ、学校は? まだ夏休みじゃないよ?」
「ああ、もう休め。明日は荷物の準備だ」
「えええっ、横暴だぁ。友達に何て言えばいいのよ」
「何も言うな。学校には父さんが連絡する。戻れない事も考えて大事な物は荷物に詰めておけよ」
お母さんが小さいため息をついた。
「車に乗り切るかしら」
「大丈夫だ。
「じゃあうちのワゴンには家族だけ乗ればいいかしら。それにしても北海道までの運転は結構大変ね。運転が仕事のお父さんは大丈夫かもしれないけど、私は自信がないわ。名古屋から函館……。どこかで一泊はしたいわね」
父さんがトラックを運転、お母さんがワゴンを運転で、お婆ちゃんとお姉ちゃん達と僕が乗るのか。
「父さん、僕トラックの助手席に乗りたい」
「いいぞ。じゃあ洸太はトラックで、残りはワゴンだな」
「ねぇねぇ、どこかの道の駅で一泊しようよ、ほら、ヨーチューブで人気の動画あるじゃん、キャンピングカーで道の駅の駐車場に泊まるやつ」
「いいねぇ、真耶姉、動画撮る?」
「撮ってもヨーチューブやってないし」
「いや、道路は走らん。苫小牧までフェリーで行く。会社からもう予約した」
「あら、苫小牧までフェリーで? 名古屋港から?」
「そうだ。船内に一泊だ」
「やったぁ!船に泊まれる!」
僕は嬉しかったがお姉ちゃん達は少し不満そうだった。
「北海道行きのフェリーだがかなり混んでいた。いくつかあたって取れたのが新太平洋フェリーの2等客室だ。
「ロイヤルなんて高かったんじゃない?」
「まぁこんな時だしな。それにロイヤルはベッドルームの他にリビングもある。寝るまで家族で集まれるしな。それとトイレと風呂もあるぞ」
「凄ぉい!船にお風呂あるんだ! お風呂のお湯はしょっぱいのかな?」
「ばっかじゃない、洸太。いくら海の上でもお風呂のお湯は水道水に決まってるじゃない。そうだよね?」
僕を馬鹿にした美桜姉ちゃんもちょっと自信なさそうじゃん。
出発は金曜日だって。今日が火曜日だから明日明後日で準備だ。
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