第45話 マルクのひと言
----------(カオ視点)----------
昨夜は結局偉い人謎ルームで徹夜した。朝日が登る前から屋上へ出てそこらを歩き回っている。
どっちから来る?どっちが東京だ?
こんなに水だらけだと東京がどっちかわからん。
待て待て、富士山があっちに見えた。昨日まで曇っていたが今朝は少し晴れた。富士山に向かい、右手側が丸の内だった気がする。
向こうか?向こうからくるのか?
アイテムボックスを探るが双眼鏡は見当たらず。さすがにセボンやマツチヨに売っていなかった模様。
あれ?ちょっ待て、タウさんは東京から来るのか?昨日の電話の内容を殆ど覚えていなかった。マルクが地球に転移した話に驚きすぎて、タウさんの話を全然聞いていなかった。
単純にタウさんがデスティニーランドから来るなら東京、と思い込んでいた。それは電車の場合だ。
タウさんはどうやって来るんだ?
ああ、俺のバカヤロウ、本当に何も聞いていない。
とりあえず屋上から全方位を警戒していれば……、何故、俺には『探知』とか『サーチ』のスキルが無いのだあああ。あのゲームに無かったからだが、くっそう。
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カオはあまりにウロチョロしすぎて、タウらのボートを見逃した事に気がついていなかった。
因みにスマホはアイテムボックスにしまってしまった。
----------(タウロ視点)----------
カオに電話が通じない。どうしたもんか。ミレさんとも話し合い、あそこのビルだろう事は大体見当がついた。ビルへ入って探すのが早いか。
やまと商事であろう建物にボートを止めて割れていた窓から侵入した。廊下を進み上へ上がるための階段を探す。非常口っぽい扉を発見した。ちょうど扉が曲がって半開きだったので覗くと階段があった。
『10F』
「ああ、この字体似てねぇか?ダンジョンの階段のに」
ミレさんが非常階段の踊り場の壁を眺めて指差した。
「似てると言われれば似ていますが、どこのビルもこんなもんかと」
「それもそうか」
そう言いつつ階段を登っていく、13階までくると荷物を抱えた男性がいたので聞いてみた。
「すみません、このビルはやまと商事でしょうか?」
「そうですよ。あなた達は外からの避難民ですか?」
「ええ、人を探しています」
「ここで合ってたな、やまと商事。カオるんの職場」
「父さん? 父さんどこに居るの? 父さんどこに居ますか?」
「あ、社員の家族さん? ……よく、たどり着けたなぁ。無事だといいですね」
もうひとり、荷物を抱えた男性が出てきた。
「あ、古池さん、生存者のリストって作っていましたよね」
「ああ、15階の先生のとこにある。怪我人、病人、健常者の記入をするからって、渡したぞ?」
「あの、あの! 父を知りませんか? 生きています、昨日メール来たってタウロおじさんが」
「私達はここに勤めていた者の知り合いで彼はその息子です、昨日無事だとメールを貰ったんですが、zuが繋がりが悪いみたいでその後繋がらなくて探しています」
「あぁ、あはは、このビルはzuのアンテナを掴みづらいので有名だからな。鹿野さんもボヤいていたな」
「鹿野さん! 鹿野香さんですか! 俺らが探しているのは彼なんです!」
「父さん、かのかおるです! 父さん居ますか!」
「鹿野さんのお子さん? 彼独身だと思ってた……」
「ああ、この子は養子なんです」
「鹿野さんなら昨夜は40階にいるのを見かけたました。今朝は見かけていないので屋上かな、それか39階の猫のとこか。エレベーターは動かないので階段で行ってもらうしかないのですが、この階段は38階までなんです。そこから中に入って誰かに聞いてもらえればわかると思います」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「おじさん、ありがとう!」
「おう、坊主、良かったな、早く父さんとこに行きな」
僕らは階段を上がっていった。
「ここがあの死霊の森ダンジョンの元祖か」
ダンジョンはそもそもフロアごとに階段の場所が移動していたのだ。この非常階段のように続いていたわけではない。
そこからして、異世界との違いはハッキリしていた。
ただ22階に差し掛かった時、『22F』の表示が無い事に気がついた。
「22階はあっちに行ったんだ……」
ミレさんが呟いた。
「そうですね」
階段は38で終わっていた。
そこから廊下へ入ると人で溢れていた。近くにいた人に屋上の行き方を聞いた。
屋上へ出ると、丸の内方面の屋上のフェンスにしがみつくカオるんを発見した。
僕らがカオるんを呼ぶよりも早く、マルクが駆け出した。その足音にこちらを振り返ったカオるん。
「……ど、うして、…………」
目を思い切り見開いたカオるんにドシンとぶつかるように抱きつくマルク。
「何で、どうして、だって地球は大災害が、どう…」
マルクはただカオるんに抱きつきしがみつくだけだった。
カオるんは「何故来たんだ!地球はこれから大変に…」「あっちの方が」「ダンやアリサともう二度と逢えないんだぞ」「俺は、俺は、」
怒ったり、泣いたり、戸惑ったりと言いたい言葉が上手くまとまらないようだった。
だが、何も言わずにしがみついていたマルクがひと言。
「父さんには僕が必要だ。大丈夫、僕がずっと一緒にいるよ?」
そしてカオるんの号泣する声が屋上に響き渡った。
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