第37話 とにかく何でも貰っとけ

 3人をMTTビルへと送った。

 水に近い位置の窓にいた人に18階へ旦那を呼びに行ってもらった。旦那さんは無事だったようで、妻や子供達を見ると号泣していた。ユウ君と似た泣き方だなぁと少しだけ思った。



 それからさきほど発見したゴンキホーテへ向かった。階段の案内図を見るとこのビルの1〜6階は歯医者やら美容室やら会社が入っていて、7〜13階がゴンキだったのか。


 ビルには12階から侵入、12階は海外のお菓子、コスプレグッズ、13階はアウトドアグッズだった。水に沈んだフロアには大量の食品系があったようだ。惜しい事をした。



 ゴンキを出たあとはまた流れてくる物を収集していた。邪魔なタンカーを収納、フェリーや巨大客船も収納。俺の行く手を遮るとは許せん。


 浮かんでいる物を収納すると、水の下にも重なるように建物、船、瓦礫が。まだ水は黒く濁りよく見えないが、『浮かんでいた』のではなく折り重なって流れてきていたのがわかる。

 が、水の中の物までは拾わない。



 スワンでぐるぐると回っているうちに方向感覚が無くなった。気がつくとガラス張りのオシャレビルに突き当たった。ビルのガラスを突き破って船やトラックが突っ込んでいた。上の方がオシャレなだけに悲惨さが余計に目についた。


 建物の上部が吹き抜けになっていた。

 確か、下の方はショッピングモールで、中間がどこかの会社、最上部が展望台やレストランだった気がする。やまと商事から少し遠くに見えてたビルじゃないかな?


 この一帯はもっと低いビルが沢山あったはず、だが、今出ているのはここだけか。

今まで経験した事がないくらいの大量の……元生きていた人達が、沈んでいるんだろうな。いや、浮いている人も。


 水はアイテムボックスに収納出来ない。建物も収納出来ない。

 ご遺体は……恐らく収納出来るだろうが、俺が、やりたくない。申し訳ないが怖い。もちろん生き物も収納できない。


 異世界から魔法やスキルを持って戻っても、出来る事は限られているな。役立たずの俺。


 とりあえず、いつか(もしかしたら直ぐにでも)必要になるかも知れないから、拾える物を拾っておくぐらいだ。

 持ち主が何処かにいるとしても、放って置いたら腐ったり錆びたりカビたりするだろう。使える状態、食べられる状態のうちにアイテムボックスに収納する。


 後で、返せと言われたら返すさ。



 さっきのオシャレビルは上層階に生存者が多いだろう。そういうビルからは何も取らない。

 低いビル、人が居なそうなビルには積極的に立ち寄って、物を収納する。


 途中で何人も救助した。

 頑張って生き残っていた人だ。スワンに引き上げてその時その時の近場の高層ビルへと運んだ。


 一際突き出た建物……会社とかホテルではなさそうだ。窓の感じから高層マンションのようだ。

 幾つかの窓のカーテンにSOSの文字が書かれていた。


 こういうマンションは、高層階の窓ははめ殺しで、開け閉め出来ない物がある。ガラスが割れでもしてない限り入れないな。

 住民がいる部屋は兎も角、留守の部屋の冷蔵庫の物を頂戴したい。

 恐らく電気は止まっているだろう。高級和牛とか絶対冷蔵庫に入ってるよな。腐る前に欲しい。いやもう腐っているか。


 建物の周りをスワンで一周したが、非常口さえ見つからない。セキュリティが良すぎるのも考えものだよな、今回のような本当の非常時にはどうするんだろう。


 窓にスワンを近づけてコンコンと叩いてみる。

 誰も出てこない、留守宅だろうか?ちょっと強引に杖で叩き割った。

 ガラスが割れた音にも誰も出てくる気配がない。うん、留守だな。



「失礼しまぁす」



 部屋へ侵入した。普通なら通報されてもおかしくない、犯罪である。

 部屋やキッチン、バストイレを見回り、誰もいない事を確認した。冷蔵庫の物を頂戴した。肉はどうだろう……一晩常温か、危ないからやめておくか。ただこのままだと冷蔵庫が臭くなるので窓から捨てた。


 高級マンションの部屋の造りがイマイチわからない。台所に床下収納なんて無いのか?食材はどこに保管してるんだ?うぅん、ここは俺向きではないな。念のためトイレでブックマークをしておく。後で来るかも?




 俺はまたスワンで周回の旅に出た。

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