第15話 その日がやって来る(第三者視点)

-------【とある大手銀行本店 役員室】-------


 最近の執務室は静かね。


 今までなら、各自が受け持つ役員のスケジュール調整の連絡やら手土産入手やらで朝早くから忙しく動き回っていたのに。

 しかし、最近は静かなの。と言うのも役員の方々が出社されなくなってきたのよ。


 まずは頭取のうちのひとりが、そして日を置かずにもうひとりの頭取が休暇に入られた。(うちの銀行はダブル頭取)

 それから、副頭取が……。そして、専務と常務も追いかけるように休暇を取られた。


 私がいる部屋(ここ)は、役員付きの秘書室で、その奥に役員室が並んでいる。

 けど、現在役員室はどれも部屋の主が休暇中で、私たち秘書だけが毎日出勤している状態なの。



「先輩、今日も偉い人達は誰も来ませんね」


 そう声をかけて来たのは、今年入行した新人だ。新入行員で秘書室に配属されるだけあってかなりの美少女だわ。22歳で美少女と言う言い方はないわね。美人……と言うよりアイドルのような華やかな可愛さ?しかも良い所のお嬢さまだそう。ただ、ちょっとだけ頭は良くなさそうだけどね。


 彼女は私と一緒に専務付きの秘書となっている。けれど『専務』という役職名が覚えられずに『偉い人』と覚えている。ただこの先の部屋は全てが偉い人なのだけどね。



「そうねぇ。休暇のご連絡は一応頂いているのですけどね」


「偉い人が休みなんだから、うちらも休みで良くないですかぁ?」


「良くない、わね。専務宛てのご連絡が来る場合もあるので私達秘書はここに控えていないとね」


「ええぇ、直接LAINEすればいいのにー」


 偉い人は偉い人同士でLAINEとかしないわよ。と思いもしたけど、確かに最近、役員の方々が急に休み始めたのは気になるわ。



「偉い人が居ないと美味しいお菓子も貰えないし、つまんないなぁ。あ、そうだ。さっき小南こなみさんも帰るって出て行ったですー」


「えっ?小南室長が?」


「はい。えぇと、1番偉い人の部屋を見たら綺麗になってたから帰るって言ってました。何でだろ?部屋が綺麗だと早退していいんです?」


 私達秘書室を取りまとめていた室長の小南さんが帰宅した?頭取の部屋が綺麗?どう言う事だろう?

 私は奥の扉を通り、役員室が並ぶ立派な絨毯の廊下を足速に進んで頭取の部屋へと入った。居ないと判ってはいるけど一応ノックをして。


 頭取の部屋はいつもよりガランとしているように見えた。勿論いつも清掃は行き届いて整理整頓もされているのだけど、机上きじょうに物が無い。

 持ち込まれていた頭取の私物も無くなっている。まるでご退職をされたように?


 頭取の部屋を出て向かいの、もうひとりの頭取の部屋へ入った。そこも綺麗に片付いていた。副頭取、専務、常務の部屋へ。


「あれ?いつもこんなに物が少なかったでしたっけ?」


 私の後ろを着いて来ていた岩尾さんの言葉にビクッと飛び上がった。まるで役員一同が退職されたように……、まさか、倒産?

 いえいえ、だって日本でトップの銀行よ?倒産なんてしたら大問題よ。



「先輩〜、もしかしてこれって、夜逃げじゃないです?偉い人でも夜逃げするんだー」


「夜、逃げたわけじゃないから、夜逃げじゃないわよ」


 自分でも解っているけど変なツッコミを入れてしまった。そう言えば、他の秘書仲間も今日は見ていない。



「岩尾さん、北宮さんとか三谷さんとか他の人は?」


「今日は、さっき帰った小南さんとうちと奈良山先輩の3人しか来てません。みんな、夜逃げですね。うちらもします?朝だけど夜逃げ」


「…………そう、ね。私達も早退しましょうか。早退ね」


「明日も休もっかな。偉い人、来ない気がするし」


「そう、そうね……」






-------【警視庁 総監室】-------



「まだ公には出すな、総理の避難はどうなった」






-------【日比谷のとある商社ビル】-------



 窓の外を眺める女性社員がふたり。


「ねぇねぇ、今日やけにヘリが飛んでいない?」


「ん〜?何かの訓練かな?防災の日って今日だっけ?」







-------【銀座で通勤途中の人々】-------



「……あれ、何?」


 誰かの、呟きにしては大きな声で、近くにいた者達が声の主に注目した。

 声の主が上を見上げているのに釣られるように、街行く人が足を止めて空を見上げる。



「何だ?あの光…」


 大きなオレンジ色が尾をたなびかせて流れていく。その光の周りには小さい光が幾つも付いて流れている。



「UFO?」

「隕石か?隕石だよな!」

「…隕石…」

「どこに落ちるんだ?」

「ヤバいだろ、隕石落下!」




-------【警視庁のとあるフロア】-------



「隕石です!肉眼で確認出来ます!」

「どこだ!」

「三課の窓から見えるぞ」

「国内に落下か?」

「ほ、報告はどこからも、まだ、…」

「細かいのも沢山飛んでいくぞ!どこに落ちる」

「落ち着け!」


 館内のアラームが鳴り響き、個人のスマホの緊急アラームも折り重なるようにあちこちから鳴り出していた。




-------【とあるオフィスビルの一室】-------



「諏訪ちゃん、あの噂聞いたか?」


「ん?山崎部長の不倫?」


「ちゃうわ、隕石だよ!隕石」


「あー、それ、結構前だろ?どっかの国に落ちるとかどうとか」


「それが今日じゃないかって『Xデー』が。ネットで昨夜盛り上がりが凄かったぞ」


「都市伝説だろw」




 突然、隣のチームの矢田が立ち上がり、叫んだ。



「おい!中国に落ちたって!」


 周りの皆は矢田をチラリと見たが直ぐに視線を手元に戻して何もなかったように仕事を続けていた。


 その時、あちらこちらのスマホから一斉に緊急を知らせる音が鳴り響き出した。




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そうして、その時はやってきた。




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本日はもう1話あります。よろしくお願いします。

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