第13話 【8:50】マルク、異世界に転移する
「Are you ok? Are you all right? ダメ? 通じない?」
「フランス語は……エ、セ、サバ? だっけ? 違った? サトゥジ? ええ、もう覚えてないよ、大丈夫ってフランス語でどう言うんだっけ」
「フランス語はシルブプレ、しか知らない、ダイジョーブ、シルブプレ?」
「ねぇ、キミ、大丈夫? 言葉通じないか、どこの子だろう」
やまと屋のリビングで光の中へ飛び込んで、眩しくて目を
土も草もない、石畳の上で目醒めた。
何て綺麗な石畳だ、ゴミも馬の糞も落ちていない、まるで神殿の中にいるようだ。だが空からは光が降り注いでいたので僕は外にいるのがわかった、ここは、恐らく、父さんが生まれた国。
座ったまま見上げると、どこまでも天空へ伸びた神殿に囲まれていた。
父さんがよく話してくれた『ビル』だろうか?死霊の森のダンジョンは昔『ビル』だった。もっと真っ直ぐに空へ伸びていたって言ってたっけ。
上を見上げていると心配そうな顔をしたお姉さんたちと目があった。
「あ、あの、大丈夫です」
「あら日本語、良かった、日本語が話せるのね」
『日本』、父さんが生まれた国の名だ。ちゃんと日本に来れたんだ。
「きみ、大丈夫? 体調が悪いのかな、お父さんかお母さんは近くにいる?」
「あ、はい。大丈夫です。元気です」
そう言って立ち上がってみせた。
「父さんも近くに、ええと、確かヒビヤ…にいると思う」
父さん達の会話を盗み聞いていた。父さんはヒビヤと言う街で働いていたから、戻るのはそこだろうと言っていた。
ここは何処なんだろう?父さんと同じ光に入ったけど、ここはヒビヤなの?
お姉さんに聞いて見る。父さんがいつも『わからない事を聞くのは恥ずかしい事じゃない。聞かないで放っておく方が恥ずかしいぞ』って言ってたから。
「あの、ここはヒビヤですか?」
「ん? 日比谷? んん〜と、近いけどここは丸の内って言う場所よ」
「日比谷なら歩いても15分くらいかな?」
「場所にもよるけどもっとかかるんじゃない?東京メトロだとここの最寄り駅が大手町で、二重橋前、日比谷でしょ。距離は短いけど二駅あるから20分以上は歩くんじゃない?」
「あ! ヤバイ、9時過ぎちゃった! ごめんねキミ。お姉さん達急いでいて。時間あったら案内出来たんだけど」
「はい、大丈夫です。ありがとうございました」
9時……、確か10時前に何かが起こるから、それまでに安全なところに隠れないといけないとか、言ってたな。
どうやって時間を知ればいいんだろう?うちのリビングには『時計』が置かれていた。やまと屋の子供達は皆時計の読み方を教えてもらっていた。
街中ではどうやって時間を知るんだ?どこかに時計があるのかな?
とりあえず誰かに聞いて見るか。
声をかけようと見回すと、この綺麗な街をみんな足早に移動している。人が吸い込まれるように王都の大神殿のような建物へと入っていってる。
僕も追いかけようと思い、一歩踏み出した時に足元に落ちている物を見つけた。
これ……!僕の収納鞄だ。小さい頃父さんがくれたお気に入りの収納鞄。見た目はとても小さい、鞄と言うより財布袋のような小ささだ。なのに500個も入るんだ。王都の神殿の女神様のクエストで貰えるんだ。だけど、成人してないとダメだから15歳までは貰えない。僕は父さんに貰っちゃったけど。
最初はミスリルの鎖が付いていて、幼い僕は肩から斜めに掛けていた。でも狙われるとかで、皮の紐になったんだ。
冒険者ギルドに登録する10歳まではずっと使っていた。オヤツとかお弁当とかを入れて父さんと出かける時は必ず持っていた。
けれど、冒険者登録した後に仲間達と「成人したら収納鞄のクエストを一緒に受けよう!」と話してから、僕は父さんの鞄を使うのをやめたんだ。
父さんが僕を置いてこっちに帰るのを決めたのは、僕が鞄を使うのをやめたからかな、それで僕を嫌いになったのかも。
ずっと父さんの鞄を使っていれば置いて行かれなかったのかな。
でも、その収納鞄が何でここに落ちてるんだ?
拾って、鞄の底を見た。小さい文字で『マルク・カオ』と書かれている。やはり、僕の…父さんの収納鞄だ。
父さんが落としていったのかな?
それと鞄が落ちていた場所に小さい四角い金属の板も落ちていた。あつ子おばさん達大人がよく『スマホ』って言ってイジっているやつだ。
父さんも持っていたけど、父さんのとは違う。拾い上げると裏に『マルクへ』という紙が貼ってあった。
…………僕、に? 誰から?
わからないが、とりあえず拾っておく。後で父さんに聞けばいいや。
そうだ、急がないと。
大人達の話だと、空から星が落っこちてきたり、大洪水が起こるから高い場所へ逃げるって言ってた。
夜じゃないのに、この国では星が出るのか、それで落ちてもくるんだ。星が落ちるなんて、父さんの国は結構危ない国だな。
それに山も川も無いのに洪水が起こるの?どこから水が来るんだろう?
10時前には安全な場所にいるように話してた。父さんを捜すのには時間が足りないかも。
とりあえず、みんなが吸い込まれていくあの一際高い大神殿へ行ってみるか。
僕は目の前の『ビル』の入り口らしい大きなガラスの扉へと向かった。扉は勝手に開いた!まるで死霊の森のダンジョンみたいだ!
父さんがいた世界はダンジョンだらけなのかな?
---------------(視点が変わり)-------------
地球、日本は丸の内に転移したマルク。たまたま目の前にあった大手銀行であるみつは銀行本店ビルに入った。
みつは銀行のビルは3〜37階が銀行、38〜49階はホテルMAMAN東京が入っている高層ビルだ。
ビルは地下2階から地上2階までは一般人が自由に出入り出来るレストランやカフェ、ショッピングモールになっている。
みつは銀行の行員はモールのエスカレーターで2階まで上がり、そこに社員証(カード)を通さないと入れないゲートがあり、そこを通過すると行員専用のエスカレーターがあり、3階へ。3階に各フロアへ上がるエレベーターがある。
38階より上にあるホテルへ行くには、実は1階にあるホテルフロント(47階)専用のエレベーターに乗る事になる。
B2〜2F専用のエレベーターが3台、一番奥に47階のホテルフロント専用のエレベーターがある。
マルクが転移して来た9時過ぎは、モールやカフェで働く職員が多く、皆が一階のエレベーターホールへと向かった。ちょうど10時開店、11時開店の職員の通勤時間だ。
後ろを付いて行ったマルクも当然エレベーターホールへと出た。
エレベーターホールは混雑して、次々と降りて来た三台のエレベーターに人々は乗り込んで行く。それを見送るマルク。
「何だろう?今の小部屋に入るとどうなるんだろう?ダンジョン?どうしよう……、ええい、入るぞ!」
誰かが押し間違えたのか悪戯で押したのか、ホテルフロント行きの1番奥のエレベーターが到着した。
マルクはそれに乗り込む。フロント専用なので行き先階のボタンはない。扉も自動で閉まる。
一瞬で47階へ到着、扉は開く。
「やっぱり……ダンジョン? あ、人がいる。人…だよね? ダンジョンで働くギルドの人かな?」
マルクはフロントへと近寄り、恐る恐る声をかけてみた。
「あの、今、何時ですか?」
マルクの問いにフロントマンは腕の時計を見てにこやかに答えた。
「今は、9時、28分でございます」
「ありがとう」
ホテルのフロントマンはマルクを宿泊客の子供と思ったようだ。
丸の内でも有数の高級ホテルであるMAMAN東京は、海外からのセレブ客が殆どを占める。マルクは見た目が西欧人に似た容姿だったため、フロントマンは宿泊客の子供と誤解をして丁寧な応対をした。
マルクは巨大なガラス張りの窓がある見晴らしの良いフロントをチラリと見て、エレベーターがあった廊下の方へと戻っていった。
『衝撃波でガラスは凶器のように飛んでくる、絶対に窓ガラスの側にはいない事!いいですね、カオるん』
タウロがカオに何度も言ってた言葉をマルクは思い浮かべる。
「ガラスが無い所に行かなきゃ!」
「 ……衝撃波って凄いんだな、風魔法なのかな?こんな塔の上の方まで風を飛ばせる魔法使いがいるんだ、流石は父さんの国」
ホテルの通路の隅っこに座り込み、何かが起こるその時を待つマルク。
「…………父さん。……グスン、どこ」
膝を抱えて、ほんの少し涙ぐむマルクであった。
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