第3話

「やえ!昨日の配信見てたよ!無事でよかった〜!!!」

「ほんとほんと!私もハラハラして心臓とまるかと思った!!!」

「え〜!2人とも見ててくれたの!ありがと〜」


女3人集まれば姦しいとはまさにこのことか。

俺は自分の机に突っ伏しながら、八重樫やえとその友達の会話に聞き耳を立てている。キモいって?知ってるよ。


彼女たちの話題はもちろん昨日の配信のことだ。


「てかさ、コメント欄にいた人すごくなかった?」

「そうそう!あの顔文字つけてる痛い人!」


ゔっ!

痛い人呼ばわりされて俺の心に特大のダメージが入った。いやまあ、俺もキモイかなとは思っていたけれども、はっきり言われると辛いものがある。


「オクタさんね。あの人、初配信から毎回見てくれてるんだよねー」

「へー、ガチのファンじゃん」


ゔゔっ!

八重樫やえに認知されていて正直嬉しい。思わずニヤケそうになるが、流石にキモすぎるので必死に我慢する。

ちなみにハンドルネームの由来は、奥山のオクと太一のタを繋げてオクタだ。


「あの人、まるで隠し部屋の場所が分かってるみたいな誘導の仕方だったよね」

「うん。でも、そんなことってあり得るのかな?」

「あり得ないと思うけどなあ。ダンジョンに地図はないっていうのは、探索者なら誰でも知ってる常識だし」


そう。俺の知る限り、ダンジョンの地図は存在しないし、俺と似たような芸当ができるという人も聞いたことがない。普通に考えたらあり得ない話だ。

まあ、俺くらい筋金入りのダンジョン配信オタクになってくるとね…、と悦に入っていると、いつのまにか話題が変わっていた。


「そういえば、昨日は同接50人くらい居たよね!」

「やっぱりみんな過激な配信が好きなんだねえ」

「そうそう、昨日の配信でチャンネル登録者500人突破したの!」


おめでとう。と俺は心の中で祝福する。

直接言えばいいって?無理に決まってるだろ。ネットストーカー自白するみたいなものだからな。


ダンジョン配信者として、登録者数500人は決して多くないが、スタートラインには立ったと言えるだろう。

登録者1万人でプロ配信者と認められ、登録者10万人で有名配信者と呼ばれる業界だ。


八重樫やえの登録者が増えるのを嬉しく思う一方で、あまり有名になって欲しくないと思う気持ちもある。俺だけがやえやえのことを知っていたのに、ってやつだ。我ながらキモいな。


「それでね!トリッターのアカウントも作ったからフォローしてくれる?」

「もちろん!ID教えてー」

「えっとIDはね…」


俺も後でフォローしておこう。盗み聞いたトリッターのIDは完璧に記憶した。記憶力には自信がある。


「私思ったんだけどさ、昨日の配信で切り抜き動画作ってみたら?」

「確かに!昨日の配信撮れ高ありまくりだったし、切り抜き作ったらバズるかもよ!」


切り抜き動画は確かに有効かもしれない。

配信が如何に面白くても、リアルタイムで視聴していた人以外の目にも留まらなければ、爆発的な伸びは期待できない。切り抜き動画は新規視聴者獲得のための重要な動線になりうる。


「切り抜きか〜、でも動画編集の仕方分かんないしなあ」

「よし!じゃあ私が動画編集勉強して、やえの切り抜き作ってあげる!」

「いいじゃん!私も手伝うよ!」


八重樫やえのお友達の佐藤さんと鈴木さんが切り抜き動画を作ってくれるらしい。ちょっと楽しみだ。まあ、2人とも素人だろうし、あまり期待せず待っておこう。




かくして、佐藤さんと鈴木さんが作った切り抜き動画、


【八重樫やえ】ヤケクソで指示厨に従ったら九死に一生を得た新人配信者【(´・ω・`)】


は、なんと1ヶ月で10万回再生された。


登録者数500人程度の配信者の切り抜きとしては異例の再生回数だ。チャンネル登録者は2千人を突破し、同接も平均で50人確保できている。

まだまだ零細配信者ではあるが、八重樫やえは活動開始から2ヶ月の個人配信者としては、極めて順調に成長していた。

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ダンジョン配信指示厨Lv100 @HelpMePls

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