第2話
俺の名前は奥山太一。
根っからのダンジョン配信オタクの高校生だ。
部活にも入らず授業が終わったらすぐ帰宅して、寝るまでダンジョン配信を複窓している。
青春?なにそれ、おいしいの?
ただでさえ社会性が終わっている俺だが、最近はネットストーカーになりつつある。
ことの発端は休み時間にクラスメイトの会話が偶々耳に入ってきたことだ。断じて盗み聞きしていた訳ではないので誤解しないで欲しい。
「…それでね!親に許可もらえたから、今日からダンジョン配信始めてみようと思うんだ〜」
…クラスメイトのダンジョン配信!
八重樫やえというこのクラスメイトとは挨拶したことすらない気がするが、それでもクラスメイトのダンジョン配信は気になる。
俺はその日家に帰ると、初配信と銘打っている配信を順にチェックしていき、八重樫やえの配信アカウントを特定した。キモすぎる?俺もそう思う。
さらにキモいことに俺はその日から毎日八重樫やえの配信をチェックしている。認知してもらいたくて積極的にコメントもしてるし、なんなら個性づけでコメントに『(´・ω・`)』の顔文字もつけている。俺、ガチでキモすぎる。
そんなある日のことだった。
八重樫やえがイレギュラーポップに遭遇したのは。
イレギュラーポップは本来その階層に湧かないモンスターが湧いたり、あるいは何十匹もモンスターが同時に湧いたりする現象だ。
俺は物心ついた頃からダンジョン配信を見ているので、イレギュラーポップは画面越しに何度も見たことがある。そして、イレギュラーポップ遭遇からの生還率は極めて低いことも知っている。
「やばい!やえやえマジで死んじゃうぞこれ!」
クラスメイトのことをやえやえと呼んでるのがキモすぎるという指摘は一旦置いておいてほしい。
ここしばらくの俺は八重樫やえの配信をかなり楽しみにしていたし、今までで一番入れ込んでいる配信者だった。
「くそ、どうにか助かる方法はないのか?」
コメント欄では誰かが「他の探索者に助けて貰えば」と言っているがそれはほぼ不可能だ。
ダンジョンはそれぞれの階層がとてつもなく広い。そのうえ、探索者はダンジョンフロアに入場したタイミングで、ランダムな初期位置に飛ばされる。他の探索者と遭遇する確率は極めて低い。
ダンジョンから脱出するには、帰還魔法を使う必要がある。帰還魔法はダンジョン内で場所を問わず使うことができ、どこにいてもダンジョンから帰還することができる。
しかし、帰還魔法はモンスターのターゲットになっている状態では使うことができない。
八重樫やえが助かるにはどうにかしてゴブリンの群れのターゲットを外す必要があった。
「久しぶりにアレやるか…」
俺は目を瞑り、脳内にダンジョンの地図を描き出す。
ダンジョンに地図はないというのが探索者の常識だ。なぜならダンジョンが広すぎるうえに、毎回ランダムな位置に転送されるため、マッピングが不可能だからだ。
しかし、長年ダンジョン配信を見てきた俺は、ダンジョンの迷路にはクセというかパターンのようなものがあることを知っている。
最初はデジャヴだった。ダンジョン配信を見ていた俺はしばしば「あれ?ここの道見たことあるぞ」と思うことがあった。
やがてデジャヴは予測へと進化した。ダンジョン配信者が角を曲がる前から、曲がった先がどうなっているか予測できるようになった。
そして予測範囲は徐々に広がっていった。今の俺はダンジョン配信者を中心として、ある程度広範囲な地図を脳内に描き出すことができる。俺はこれを熟練したサッカー選手やバスケ選手がピッチやコートを俯瞰する能力になぞらえ、『鳥の眼』と呼んでいる。
「あった…!このルートならゴブリンの群れをまけるはず!」
俺はキーボードを叩いてコメントを入力する。
:仕方ないなあ、次の角は右ね(´・ω・`)
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