ダンジョン配信指示厨Lv100

@HelpMePls

第1話

「やばいやばいやばい!」


私はダンジョンを全力で走りながら、追ってくるゴブリンの群れから逃げている。


:本当にやばくて草

:ここ3層だよな、イレギュラーポップ?

:やえやえ不運すぎる(´・ω・`)

:この子JK?


私の配信のコメント欄はいつになく盛り上がっている。いつもは同接10人くらいなのに、今は50人くらいいる。


私は新人ダンジョン配信者の八重樫やえがしやえ。リスナーにはやえやえって呼ばれてる。ダンジョン探索を始めてから1ヶ月の本当の初心者だ。


今日も初心者らしく上層で安全な経験値稼ぎ配信をするはずだったのに、ごく稀に起きるモンスターのイレギュラーポップに遭遇してしまった。


:諦めたらそこで配信者人生終了だよ

:逃げ続けてればワンチャン他の探索者に助けてもらえるかも()

:やえやえ逃げて〜(´・ω・`)


コメント欄の人たちはお気楽なものだ。

確かにダンジョン内で死亡しても、地上には無傷で帰ることができる。


しかし、一度ダンジョン内で死んだ人間は二度とダンジョンに潜ることはできない。つまり、ダンジョン内での死はダンジョン配信者/探索者としての死を意味しているのだ。


「誰か〜!誰かいませんか!!!」


精いっぱいの大声で助けを求めてみるが返事はない。


:だめそうですね…

:フロアが広すぎるのが悪いよ〜(´・ω・`)

:ダンジョン内で他パーティに遭遇するのは自販機で当たりが出るくらいの確率らしいよ

:まあまあ可能性あって草


ダンジョンは迷路のような構造になっている。私は時折角をまがりながら走り続けているが、ゴブリンたちを振り切れそうにない。


「…ッハァ、ハァ」


まずい、体力の限界が近づいてきている。


:喘がないで(´・ω・`)

:えろい

:興奮してきたな


「君たち、もっと建設的なコメントできないわけェ!?」


余裕のない状況下で目にしたコメント欄がゴミすぎて思わず声を荒げてしまう。


:草

:俺らを頼られても困るw

:本性表したね


しまった。視聴者にキレるという配信者としてあるまじき態度をとってしまったかもしれない。


でも、もうダンジョン配信者生命終わりそうだし、気にしなくてもいいか。憧れのトップ配信者になりたかったな…。


そんなことを考えていたとき、1つのコメントが目にとまった。


:仕方ないなあ、次の角は右ね(´・ω・`)


「こ、この後に及んで指示厨…!」


:草

:指示厨自重しろ

:指示通り動いてみたらwww


酷すぎて逆に笑えてきた。


「最後くらい配信者しますか…!次の角を右、了解!」


私はもうヤケクソでコメントの言う通りに次の角を右に曲がる。


:草

:盛り上がってきたなw

:これで生き残ったら伝説


私はそれから少しの間、『(´・ω・`)』の顔文字をつける視聴者の言うことを聞き続けた。


:その次の角を左(´・ω・`)

:そこは右(´・ω・`)

:そこも右(´・ω・`)

:そこの松明の下にボタンあるから押して(´・ω・`)


「松明の下にボタン?そんなの…あった、え?」


松明の下にあったボタンを押すとダンジョンの壁がひとりでに動き出し、人ひとりが通れるだけの隙間が生まれた。


:そこ隠し部屋だから早く入って(´・ω・`)

:ファッ!?

:ファッ!?

:ファッ!?


「ファッ!?」


思わず視聴者と同じ反応をしてしまった。

信じられないことに確かにそこには隠し部屋があり、私は慌ててその中に入る。


:部屋の内側の扉の側にもボタンがあるから押して(´・ω・`)


言われたとおりボタンを押すと今度は扉が閉まっていく。ゴブリンたちは間に合わない。


「助かった…?」


:まじかよ

:(´・ω・`)ニキすげえ

:(´・ω・`)ニキ何者?

:隠し部屋初めて見たわ

:やえやえが無事でよかったわ










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る