これは“接客”です!
最近、タイムラインを賑わしている、新宿のストーカー殺人事件について私が思うことを語ろうと思う。
つい最近の話。私は男女半々のスマホショップで働いている。当たり前だが、お客様達はスマホを新規契約しに来ていたり、機種変更しに来ていたり、はたまた、操作が分からないから教えてほしいという理由からご来店される。私達はそれに対して1番適切な対応をするだけ。当然、色恋営業なんてしない。
この日も私は当然のように接客していた。ところで40代以降の人間というものは言葉を選ばずに表現するなら、大変面倒臭くできていて、こちらがにこにこと微笑みながら接客しないだけで激昂することがある。場合によってはご立腹の末に暴力をふるうお客様さえいる。故に私は40代のガタイの大きな男性にそのお母様の組み合わせのお客様方ににこにこと微笑みながらスマホの説明をしていた。このお客様方は勧めたものを全部購入してくれて嬉しいなぁとしか思っていなかった。
違和感を覚えたのは接客後半。口火を切ったのは意外にもお母様だった。
「うちの子、ほら無口でしょ、だから未だに結婚できてないの」
そうなんですね、と愛想笑いで返す。どうでも良い。
因みに私はお金の無駄だしと結婚指輪こそつけてないが、10代の時に出会った彼氏と8年ほど付き合ってゴールインしている20代。
お母様は言葉を重ねた。
「あなたは本当に優しいわねぇ」
ありがとうございます、と言いながらふと男の方を見た。こんな結婚をせっつくようなお母様がいて可哀想にな、くらいの気持ちだった。そこでようやく気づいた。男もまた、異様な目付きで私を見ていることに。
……気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い!
身震いがした。逃げ出すにも私は接客中で手元にはデータ移行途中のスマホ。何もできない。そもそも私はクレーマーとかにも毅然と対応して多くのスタッフに頼られる側の人間である。私が無理なお客様なら他のスタッフ達にとっても無理に決まってる。そもそもとして接客後半でいきなり他のスタッフに代わったらこのお客様方、何を喚き散らすか分からない。
微笑みを浮かべたまま、とにかくするべきことをし、できる限りスマホの話でお客様方の関心を逸らそうとする。私は既婚者で20歳も離れた相手なんて生理的に無理です、なんて、とても言い出せる雰囲気ではなかった。
結局、私はやり切った。私はプロの接客業従事者だ。出口までお客様方を見送る。これで終わりだ。ようやく解放される。
気を抜いた瞬間だった。母親は言った。
「うちの子のこと、ぜひ考えておいて頂戴ね」
男が体に触れてこようとした。私は自然な仕草で身をよじり、お礼だけ言って、次の仕事に急かされてるような雰囲気で逃げ出した。以降、こういうお客様方には男性スタッフが対応してくれることとなった。
今回の事件の被害者はガルバの店員だったそうだ。男は結婚詐欺に遭ったと言う。自分の大切なものを売り払いサラ金にまで手を出してガルバの女に貢いだのに結婚できなかった。それを逆恨みしての犯行らしい。
私のお客様方はきっと私の方が笑顔というモーションをかけていたと未だに思ってることだろう。いや、下手したら私の方が一言も口にしていないが、結婚を仄めかしていたとさえ主張するかもしれない。実際、彼らは私がそういう相手になるに違いないと思い込んで、私が勧めた商品を全部買っていた可能性がある。
真実はまだ分からない。けどガルバなんて恋愛シミュレーションを酒と共に楽しむところだ。そして死人に口無し。何より殺人は絶対悪である。何も判明してない中、被害者が殺されて然るべきなんて主張をするのは違和感しか覚えない。
何にせよ、被害者の方のご冥福をお祈り致します。
私の徒然なる思考曰く…… 夏目有紗 @natsume_novel
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。私の徒然なる思考曰く……の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます