召喚されたけど捨てられました

電さん

第1話 プロローグ

「おい!召喚されたぞ!」


 それは俺がリビングでテレビを見ていた時に聞こえた言葉だった。別にテレビから聞こえた訳でも近くに置いていたスマホから聞こえたものではない。何ならテレビの音は聞こえてなかった。


 俺は何言ってんだ?と心で嘲笑しながら目を休める為に閉じていた目を開けた。


「……………ここ何処?」


 俺の目に広がっていたのはリビングでもテレビでもなく白い石造りの室内だった。一瞬だけ頭の中が真っ白になる。もしかしたらこの白の部屋を認識できなかっただけなのかも知らない。


 訳が分からずに辺りを見回すと周りには如何にも神官ですよと言った服装の爺さんが4人、そして可愛らしい少女1人が目に飛び込んできた。


 これはあれだ。いわゆる異世界に召喚されたって言う典型的な展開だ。と言う事は俺に特殊能力が宿ってるパターンもあり得なくは無い。そう俺はサブカルに染まった頭を回転させる。


「今回の召喚は失敗かも知れぬ……」


ある老人が声を上げた。辺りの人々もなぜか浮かない顔をしている。


確かに俺だって召喚して俺が出てきたらガッカリするけれども勝手に連れてこられて勝手に失敗にされて単純な俺はカチンときた。


「おい!ここは何処だ?家に返せ!」


 そんな強い言葉を放つ俺の頭の中にはやけに「召喚」と言った言葉が反芻していた。


 神官たちは怯む様子も無く落ち着いている。

その様子は俺にとっては面白くない。別に怖がらせて快感を得ようとしたのでは無くすこし仕返しがしたかった程度だ。


老人はある質問をしてきた。


「お主は魔法が使えるか?」


「何言ってんの?」


「お主は戦えるか?」


「何言ってんの?」


「…………お主は能力を扱えるか?」


「何言って「今回は失敗じゃ、連れ出せ」


「…………………………………」


しばらくの沈黙の後、俺が言葉を発する前に2人の老人が脇をがっしりと掴んだ。抵抗したが老人とは思えない怪力で俺は堅められていた。


 少女の憐れむ様な視線が俺に突き刺さった。

終始残念そうな表情でそれは俺に向けたものなのかそれとも召喚失敗で萎れているのか俺には分からなかった。


 バタバタと手足を振るがそのまま俺は引きずられて行きポイっとまるで家の中の虫を外に投げるかの様にこの教会とも取れる建物外に捨てられた。俺の「ちょっと待ってくれ」と言う言葉は虚空に消えた。


「神さま信じてんなら俺になんか説明しろよ!」


神官の後ろ姿に浴びせれるだけの罵声を浴びせたら俺は金属の入った袋を投げつけられた。最早殺す気である。


しかも物の見事に顔面に命中して俺はその場に倒れる。中にはこれっぽっちの銀色の貨幣が入っていた。もちろん使い方は分かるが金額は分からない。


仕方ないので俺はトボトボと歩き出した。その様子は何処と無く物乞いをしている浮浪者にも見えるが俺はただの被害者にすぎない。


 こうして俺の残念な召喚は終わった。能力もわからないし特別な存在でも無い。何なら失敗作として追い出されている。主人公的人間ならこれから何か行動を起こし世界を変えてしまうのだろうけど16の俺は何も出来ない。


某アニメみたいな主人公最強でも裏切りからの成り上がりでもチート能力を持ったスローライフも俺の未来には置かれていなかった。

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召喚されたけど捨てられました 電さん @tatibana1945

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