旅人さん――2. 村人

メグがハンスと名乗る謎の男を連れてきたという報せは、ただちに村中へと伝達された。


ハンスはメグの案内で彼女の家に通され、「しばらくここで待っていてください」と言われたのでおとなしくその言葉に従うことにしたのだった。


それにしても、とハンスはメグの家を見回しながら思う。

なんと殺風景なことか。

いや、殺風景という表現すら正しくないかもしれない。

メグという村人は、見かけだと20代前半と思われた。年頃の女性だというのに、この部屋には一切の飾り気がない。山の樹を組み合わせて作られた壁と天井は驚くほど狭く、低く、大人がどうにか二人並んで寝られるかというほどだった。

寝食をこなすための必要最低限な住居、というのがハンスの率直な感想である。


やがてメグが三人の男性を引き連れて戻ってきた。

ハンスは立ち上がって彼らに挨拶し、申し訳程度に端の方に小さく座り直した。この気遣いにどれほどの意味があるのかは疑問だったが、彼はそんな気持ちをおくびにも出さずに笑顔を保つ。


村人はハンスを怪訝そうに見つめていた。来訪者への耐性が皆無であるらしい。

重たい沈黙が続いたが、しばらくしてリーダー格と思われる男が口を開いた。


「あー……ハンスさん、だったか? 俺はニゴウ。この村のおさだ」

一応な、と最後にボソッと呟き、ニゴウと名乗った男は苦笑しながらハンスに手を差し出す。

ハンスは握手を返して、ニゴウをじっと見つめた。

村長と言ったが、まだ若い。日々の過酷(と、ハンスは推察した)な生活のせいか手は分厚かったが、柔和な目つきをしており、なんとなくリーダーらしさが感じられない。

くじ引きか何かで村長役を決めたのかもな、とハンスは失礼なことを考えつつ自己紹介をする。

それを合図に、他の二人の男性も名乗り始めた。


一人はアーサー。愛想笑いを浮かべるひょろっとした背丈の神経質そうな男で、どこか頼りない印象を与える。

もう一人はガドと名乗った。小柄だがガッシリとした体格をしており、両の頬から顎にかけてびっしりと髭を生やしている。ドワーフの血が混じっているのだろうか、とハンスは思ったが質問はしなかった。混血種というのは出生にしろ生い立ちにしろ、往々にして厄介な問題を抱えている場合が多いのだ。


ニゴウによると、アーサーとガドは村の中心的な人物であり、そこにメグも加えた四人で運営をしているのだという。

そしてニゴウは改まった顔つきでハンスを見つめた。


「それでハンスさん……あなたはどうしてこの村に?」

「ハンス、で構いません。それに実を言うと、こんなところに村があるとは思いもしませんでした」

「……まあ、だろうな」


再び苦笑するニゴウ。その表情からは彼本来の人の好さそうな性格がにじんでいる。

そんなことを思いつつ、ハンスは軽く咳払いをして言葉を続けた。


「実は私、を果たすためにこの山に登ったのですが、道に迷ってしまいまして……」

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とある独裁国家のしがない諜報員さん 冬藤 師走(とうどう しわす) @shiwasu8

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