旅人さん――1. 旅人のハンス
はじめ、メグという名前の村の女は魔獣と遭遇してしまったのだと思った。
村の裏手にある低い山の
メグはその蜜を採りに、重い
だが、今日は運が悪かった――ナライアの樹の前に、何か黒い大きな生き物がしゃがみ込んでいたのだ。
あれはきっと、魔獣だ――素朴な顔立ちをしたメグは最初、頬に汗が流れるのを感じながらそう思った。
魔獣。
この世界における捕食者の総称だ。
その大きさ、姿や形は様々で、ウシやイヌといった家畜動物に似たようなものもいれば、アリのような小さな魔獣や、スライムやゴーレムといった、村人にとっては不可思議な形体の魔獣もいる。
そんな魔獣の共通点はただ一つ。
人間を可能な限り
ウシ型だろうがイヌ型だろうがアリ型だろうがスライム型だろうがゴーレム型だろうが、とにかく人間を見つけたら襲い掛かってくる。魔獣とはそういう風につくられているのだ。
逃げなければ。
メグは次に、そう考えた。
人間を殺すという本能が備わっている以上、魔獣とは対話が不可能。
一度遭遇してしまえば、戦うか、逃げるか。その選択肢しか用意されていない。
そしてメグには魔獣と戦闘する
彼女はじりじりと
突然、黒い生物が立ち上がったのである。
心臓が止まったようにメグは錯覚した。
その生物がこちらを振り返った時、メグはまたもや仰天した。
その生物はよく見ると、黒い
「やあやあ、助かった。こんなところで人に会うとは思いませんでした」
「私はハンス。行き倒れかけの旅人です。あなたはどうやら旅人ではないとお見受けしましたが――よろしければ、もし近くに村があるのならそこまで案内してくれませんか?」
メグは、今度こそ心臓が止まったと思った。
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