とある独裁国家のしがない諜報員さん

冬藤 師走(とうどう しわす)

旅人さん――序. 閑村の秘密

その村は、ひどく貧しかった。


王都から遥か遠く離れた山間に位置する閑村かんそんであり、川もないため農業も満足にできない。基本的には数日に一度降る雨水と、山頂から降りてくるわずかばかりの雪解け水と、食べられそうな植物の実や葉や茎でどうにか生をつないでいる。

たまに小さな獣が狩猟できたら村民は落ちくぼんだ目を輝かせ、その日の晩の食事が少しだけ豪華になると弱々しい笑みを浮かべる――。


そんな日々の食事もままならないような暮らしが何故成り立っているのかというと、答えは単純で、村民の数が少ないからである。食料がわずかであれば、またそれを消費する人間もまたわずかしかいないのだ。

その数、なんと二十名にも満たない。四つの家族が山間の狭い土地に身を寄せ合っているだけである。

彼らは少ない人数で互いに協力し合い、毎日の食料を必死にかき集め、娯楽を味わう余裕もなく、ただただ「生きる」ことだけを続けている。その生活様式はむしろ集団サバイバルと呼んだほうが的確かもしれない。


砂粒ほどの自然の恵みを頼りに生きていかねばならない最悪の土地。

しかし彼らはそこに、しがみつくように住んでいる。

住み続けなければならなかった。

何故なら――この村にはとある重大な秘密を抱えているからである。


そしてある日……村の秘密を暴こうとする旅人がやってきた。

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