第12話 公認?

 流石にもう勘違いだとは思えない。

 今日は異様に人に見られている。話しかけられることはないけれど、私の方を見てクラスメイトが何やらヒソヒソしているのも分かる。

 もしかして、これが虐めという奴なのでしょうか……。


 今は昼休み。私はいつもの如くあーちゃんに声を掛けようと立ち上がろうとしたところで、身動きが取れなくなっていた。

 私が席を立とうとした瞬間に、周囲から一斉に視線が集まってしまったからだ。

 このままもう1回座ったら皆の視線が霧散したりするのかな……それはそれで怖い。


「おやおや庭代さん、何処に行こうというのかね?」


 私が人の視線から逃れようと必死に頭を働かせていると、日向さんがやってくる。

 某特務機関大佐みたいなセリフだ。今すぐ教室に輝く石を首飾りにした美少女が降ってきたりしないだろうか。そしたら私に集まっている注目はそっちに向かうはずだ。


「バ◯ス……」

「庭代さん⁉ 教室で滅びの呪文を唱えるのはやめようか!」

「あ、はい……すみません」


 いけない、いつの間にか学校の崩壊を望んでしまっていた。


「昨日、私と話をする約束したの忘れちゃった?」

「え……?」


 昨日の放課後、日向さんに話しかけられたのは覚えている。けど、その後はあーちゃんに任せて私はオートパイロットモードになっていた。正直、何を話したかなんて覚えてない……。

 

「ご、ごめんなさい……」

「マジか……まあ、そんな気はしてたけどね……」


 死ぬほど失礼な事をしたのに「そんな気はしてた」で許される程のコミュ障。我ながら心苦しいよ。

 16歳にもなってまともに会話できない自分が情けない! でも、直せるならとっくに直してるんだよなぁ……。ヤバい、鬱々してきた……。


「コミュ障ですみません……」

「だ、大丈夫だから落ち込まないで! ホント、なんも気にしないから!」

「そうだよ、急に話しかける日向ちゃんが全部悪いんだから」

「急に出てきてそれは酷いよ加藤さん……」

「庭代さんが人に話しかけられるの苦手って分かってるでしょ? もっとそっと近づかないと」


 クラスメイトからの私の認識って小動物みたいな感じなんだ……それはそれで嫌だ…………。

 でも、その配慮助かる。誠にありがとうございますと申し上げたい。

 可能なら目を合わせるのも慣れてからにしてください……。


「何を話してるのモモっち~?」


 後ろからガバッと私に覆いかぶさるように抱き着くあーちゃん。いちいち心臓に悪いからやめて欲しい。とはいえ、あーちゃんの場合は後ろに立たれた瞬間、気配で分かるようになってしまったからそこまで怖くない。

 こんな現代社会のおいては毛ほども役に立たなそうな危機察知スキル要らなかったんだけど、身についてしまったものは仕方ない。将来、就職活動で『特技:あーちゃんがうしろに立つと気配を察知できる』と書くことで役立てるとしよう。きっと空欄で出すよりは幾分かマシだ。

 

「ありゃ、またモモっちがトリップしてる。戻ってこないとチューしちゃうぞ?」

「それはいかんですたい!」

「……おかえり」


 あーちゃんのとんでもない発言で現実に戻ってくる。


「あーちゃん、チューはダメって約束したじゃないですか……」

「ごめんごめん、冗談だよ。チューは慣れてからね」

「そういう問題では――」

「あの~……」


 いつの間にかあーちゃんとの会話に集中しすぎて、目の前に立つ日向さんと加藤さんの存在を忘れていたことに気づく。


「二人はいっつも昼休みになるとそんなことしてるの?」


 不意に加藤さんから純粋な疑問をぶつけられてしまった。どこか呆れた雰囲気が出ているのは気のせいだと思いたい。

 

 はい、毎日こんなことをしています……。

 でも、恥ずかしくてそんなこと言えないよ……何をやっているんでしょうね私たちは。


「そだよ」


 しかし、あーちゃんの方は何事もないかのように、あたかもそれが当然であるかのように加藤さんの質問に答える。

 その瞬間、クラスの何処かから小さく黄色い声が聞こえてきた。

「キャー!」ってやつだ。一体どこにそんな歓声を上げる場面があったんだ……?


「すげーよこの人……平然と言ってのけるじゃん」

「日向ちゃんだって、教室で堂々と私に甘えてくるでしょ?」

「いや、私たちはある意味公認だし……ネタ的な意味で」

「それじゃあ、今日からあーちゃんと庭代さんも公認だねぇ」


 公認? 一体なんの公認ですか?

 

「……まぁ、なんにしても二人ともありがとう。とりあえず、理解したよ」

「そうだね、これ以上お邪魔をするといけないから、私たちはお暇しようか」

 

 一体二人は何の話をしているのだろうか。二人が私と何を話したかったのかも分からないまま、どうやら話が終わってしまったらしい。

 そして、全く状況を理解できない私と、何やらニコニコしてるあーちゃんはその場に取り残された。

 本当に何だったんだ……。


「じゃ、行こうかモモっち」

「あ、はい……」


 何処へ? とは聞かない。行くと言えば階段裏だろう。

 

 そして、ようやく今日もいつもの昼休みがやってくる。

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らぶおあらいく~【百合女子】であることを隠している私、今日も美少女な友人に翻弄されてしまう~ 真嶋青 @majima_sei

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