第11話 前触れ
いつもの如く学校に登校してみれば、今日はやけに人の視線が集まっている感覚に襲われる。例の如く、今日もあーちゃんと二人で登校しているのだから当然といえばそう。けれど、何かが可笑しい。
あれ……? あーちゃんじゃなくて、私を見てる……? いやいや、そんわけないよね?
「おっとと……どしたのさ、モモっち?」
「あっ、すみません……」
無意識に私はあーちゃんの背に回り込んで引っ付くような格好になっていた。二人で昼休みに抜け出して階段裏に向かう時は、よくこうしている。知らぬ間に、人の視線から逃れようとするときに出る私の癖になっていたのかもしれない。
でも、あーちゃんから離れようにも人の視線が気になって落ち着かないよ……。これって気のせいなのかな? すっごい緊張する……。
「ちょっとモモっち、歩きにくいって。何を遊んでるのさ?」
「遊んでいるわけでは……なんだか人に見られているような気がして……」
「あ~~」
「あ~~」ってなんですか? 一人だけ納得しないでぇ!
あーちゃんはウンウンと頷いて楽しそうにしている。私の反応を楽しんでるのだろうか? 偶にあーちゃんは性格が悪い。
これが悪女って奴ですか? ドツボにハマりそうだからやめてください。
「な、何を面白がってるんですか……」
「いやいや、私はモモっちが可愛いなと思っただけだよ。ほらほら、いつまでもそうされてると歩きにくいから、ちゃんと隣で歩いてね」
「無理です。死にます」
「死なない死なない……。マジで歩きにくいから勘弁してよモモっち。ってか、そんなことしてると逆に目立つから……私も恥ずかしい…………」
馬鹿な……これまでは完璧にあーちゃんの影と同化できていたはずなのに……。
しかし、言われてみれば周りからは何やら微笑ましいものを見るような目を向けられている気がする。
「なんで……?」
「昨日は目立ちすぎちゃったかな…………。でも、確かにこれはちょっと困りものだよ……チッ」
「ん?」
え? 今、小さく舌打ちが聞こえた気が……誰? まさか、あーちゃんがそんなことしないよね……?
「モモっち、さっさと行くよ。早く教室に入っちゃおう」
「え、あ、はい」
いつもの如く、陰キャの宝刀「え、あ、はい」を使ってしまう私。
いつになったら私の相槌は成長するんだろうか……。
そんなことを考えていれば、手ではなく私の腕を掴んであーちゃんがいつもより足早になって歩き出す。
なんとなく焦っているというか、刺々しい雰囲気を纏っていてちょっと怖い。
今日はいったい何がどうなってるのだろうか……。
私は唐突に訪れた日常の変化に付いていくことができないまま、あーちゃんにグイグイと引っ張られる。
なにやら私の日常が知らぬ間に動き出してしまったらしい――――。
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