Shot! 見つけろ、私の愛銃
場所はシーリングファンが回る部屋。
夏前の空気は、涼しいとは言い切れない。
2人は向き合って、
2つのソファにもたれるは、
銀髪褐色少女と、天パの男。
「運送屋、次回の依頼なんだが」
「ちょっと2日ほど休みを貰えるかしら」
天パは目を丸くする。
あーあ、確かに、
勝手に休むことはあったけど、
休みを申請したことは数えるほどね。
「珍しい、どうした?」
「最近、銃の調子が悪くてね」
私は手元で魔導銃をぐるぐるする。
朝一で新品のように磨き上げた愛銃だ。
「そりゃお前が雑に使いすぎだからだろ」
「銃なんて雑に使ってなんぼでしょう」
「分かった、分かった」
こうして銀髪少女は休みを手に入れるのであった。
◇◆◇
ついた店の名前は【ガンショップ 縁】
ガンショップの内部は、
ショーケースに乱雑に置かれた弾薬。だが値札と種類は整理されており店主のいい加減さを物語っている。
一枚板のテーブルには、積み上げられたタバコと沁みついた燃えカスの匂いが酷く沁みつく。
「ここに来るのも久しぶりねぇ」
「なーにが、久しぶりだ馬鹿娘」
出迎えるのはババア。
クォーツのような纏めた白色のロング
化粧などは一切していない、色眼鏡をかけた皺の残る顔。
黒のジャケットとジーパンという服装は、老婆とは思えぬほど引き締まった肉体をぐっと締め上げる様に包む。
「あいかわらず元気なばーさんね」
「アンタも変わらずってところだね」
私はカウンターに移動する。
机の上には乱雑に分解された銃と、整理されたパーツが転がる。
「ばーさん、武器見てくれない」
「アンタの魔導銃かい」
「そうそう」
ばーさんは手際よく武器を分解する。
分解時間は私の半分。
やっぱり意味わからない技量ね。
もう魔導銃の内部に触れてるとか正気じゃないわ。
「こりゃ、シリンダー内がめちゃくちゃじゃないか」
「磨いてはいるんだけどね」
「磨きで歪みは消えないよ」
ばーさんに、シリンダー内部の歪みを指摘される。
拳銃なら誤差なのだが、
魔導銃が使うのは魔力だ。
故に数ミリの歪みでも問題と化す。
具体的には、銃内部で魔力が上手く爆発しなくなる。
「アンタ、また空撃ちしてるね」
「だって、弾代かさむしぃー」
「褒められたもんじゃないね」
弾代をケチって、空砲を使いまくったのが裏目に出たか。
(でも魔導銃用の弾、高いのよねー)
1発、樋口、2発で諭吉だ。
「あー、なんかいい武器ない」
「ウチにあるわけ無いだろ」
ひょっこり武器棚を覗く私。
手前には、新作の拳銃。
中段には、ショットガン
おくには、用途不明の武器の数々。
軍用の魔導ガトリングまであるじゃない。
(一体誰が買うのやら)
相変わらず変なガンショップを経営するばーさんだ。
「あー、そういえば」
黒狼のせがれが良い銃持ってるってもっぱら噂だ、とばーさんは口を開く。
「あのワンワンマフィアのせがれが?」
「そうさ、闇市で買ったそうさ」
「とんだ成金ワンワン野郎ね」
ぺっと愚痴をわたしは吐く。
闇市の使える武器とか一体いくらすんだか。
(万年びんぼー少女には関係ない話だこと)
「その面下げてお願いしたら、触らしては貰えるんじゃないのかい」
「そんなもん頭、蹴っ飛ばされて終わりよ」
どんだけ恨みを買ってると思ってるのよ。
一週間前に奴らの倉庫を襲ったばかりよ。
(あーでも、ちゃんと撃てる銃もほしいしなぁ)
黒狼マフィアかぁ。
奴らやり方は汚いけど、
物を見る目だけは確かだし。
実際、奴らから貰った商品は高く売れたものね。
と、すれば善はいそげってね。
「ばーさん、奥の魔導ガトリングいくらよ」
「はァ......100万円ポッキリだ」
「ちょっと、高くないッ?」
「弾代込みでだよッ、それ以上はまけないよ」
私はポーチから札束を取り出し、
ばーさんに現金100万を叩きつける。
「まいどあり」
「弾ケチったりしたら許さないわよ」
「アンタじゃないんだから、するわけないだろ」
ばーさんは手慣れた動きでお金を数える。
全くババアの癖に、こういうところはボケないんだから。
(前に偽札仕込んで痛い目見たっきり、全部本物よ)
私の視線をよそに、ばーさんは満足して動き出す。
武器棚のマシンガンに手をかけ、思い出したかのように呟く。
「あと、ワンワンのところは西壁が工事中だよ」
「あら~、親切なアドバイスどうも」
「独り言さ、ほらどきな」
そうして出島は夜を迎える。
銀髪少女の姿は既にガンショップにはない。
◇◆◇
場所は移りて、黒狼マフィアの屋敷。
何本もの白い柱が天井にあたり、天井には繊細な細工が添えられている。
規則的に並べられた窓は夜を映し、引き手には狼の彫刻があしらわれている。
もっとも、現在進行形で窓の大半が割れているが。
「だましたな、あのババァッ」
私は絶叫する。
飛んでくるのは銃弾の雨あられ。
ばんばんではなく、ずだだだだーの豪雨である。
『壁は工事中だっただろ』
「わざと工事中の間違いでしょ」
工事を抜けた先は、
武装した狼の獣人の群れであった。
どう見ても工事をしている雰囲気ではない。
「のこのこ乗り込んできた奴を狩るための罠よ」
『お前みたいな馬鹿を、か』
「馬鹿は余計よッ」
獣人に走って回って、
私が追い詰められたのは、
ちいさな、ちいさな小部屋。
(ちっ、袋小路ってわけ)
残念なことに部屋に窓はない。
後ろから来るのは、沢山の獣人。
ひい、ふう、みいから数えるのは止めた。
「これでエンドだ、運送屋ァッ」
「エンドはアンタたちよッ」
腰に巻いた四次元ポーチの中から、
ばーさん仕込みのブツを取り出す。
「なッアレは───」
「「「ガ、ガトリングッ!!」」」
魔導ガトリング。
黒く鈍い金属光沢の6本の筒、
じゃらじゃらと音を鳴らす弾倉。
そして、不格好に付属した魔導機関が一押しだ。
大戦末期に作られた魔力弾を打ち出す兵器。
圧倒的な火力、圧倒的な制圧力、
そして圧倒的なコスパの悪さ。
弾一発、1諭吉オーバーだ。
(脳内麻薬出てないと使えないわね、コレ)
すでに屋敷内を走り回ってアドレナリンはMAX。
と、いうわけで、
「ひゃっはーッ」
ドドドドドドドドド
ドドドドドドドドド
ドドドドドドドドド
分厚い銃弾は、
ドアをぶち抜き、
横壁はぶち飛び、
下床はブチ飛び、
部屋は盛大に吹き飛ばす。
「アハッハハアハ、ざっまあないね」
「なんつう物持ってきてんだあのアマ」
「てか普通家の中でぶっぱなすかよッ」
獣人たちの悲鳴を含んだ叫びが聞こえる。
正直、しつこく追って来る方もどうかと思うわよ。
「うっさいわね────ってアレ」
『弾切れだな』
「まだ、30秒も撃ってないのにいぃ」
『弾代をケチるほうが悪い』
だって、ばーさんが追加弾薬は別料金とかぬかしやがったから。
私は悪くはないわよ、と
「ちっ、逃げるわよ」
四次元ポーチからグレネードを放り投げてその場から撤退する。
盛大な爆発が屋敷を襲い、
もちろん後続は追ってこなかった。
◇◆◇
という訳で、銀髪少女は別の部屋に逃げ込む。
「ここは?」
私は部屋の灯をつける。
『宝物庫か? 魔力を感じる物がいくつかあるぞ』
「いえ、黒狼の書斎ね」
壁には黒狼マフィアを表すシンボルが一つ。
先ほど相手をしていた連中と同じ模様だ。
横には丁寧に掛けられた一丁の銃。
大型拳銃のように見えるが、
銃口は大きく、シリンダーは四角。
なにより銃身と言えるものが、ほぼ存在しない
(シリンダーが四角ってことから魔導銃だろうけど)
「なかなかに古風な魔導銃ね」
『かなり特徴的な形だな』
「私でも見たことない形よ───ッ」
物音?
とっさに魔導銃を取る。
「親父の書斎で何をしている」
銃をかまえた獣人。
いっちょ前にスーツを着こなし、
使っている魔導銃もいいものだ。
「あらー、どうもワンワンのせがれじゃないの」
「そっちこそ、運送屋は暇そうなことで」
せがれは変わらず軽口をたたく。
わたしは世間話でかえす。
「ちょっとアンタにはもったいない銃があると聞いてね」
「噂通りの海賊行為だな」
「失礼ね、借りていくだけよ」
「荷物を返してからそのセリフは言ってほしいもんだ」
せがれは見せびらかすように銃を動かす。
分厚い銃口がこちらを覗き続ける。
「コルボ式のR33魔導銃。オイルはもちろんアメリカ製だ」
「なかなか、いいセンスしてんじゃない」
「アンタとはいい酒が飲めそうだぜ」
「墓前になら添えてあげるわよ」
お互い構えたまま睨み合う。
「なら早打ちといこうか」
「この状況で?」
「当然だ」
せがれは硬貨を見せる。
(面白い冗談だけど、乗るしかないわね)
四次元ポーチから予備の銃なんて抜く暇はくれなさそうだし。
拾った銃でやるしかないって訳ね。
覚悟を決め、私は口をひらく。
「カウントは」
「3カウントだ」
ピンッといい音が鳴り硬貨は宙に舞う。
「3」
指ではじかれた硬貨は落下を始める。
「2」
お互いにトリガーに力を籠める。
「1」
硬貨が、地面を叩く。
「馬鹿め、その骨董品は壊れてるんだよッ」
「なんの───魔導銃は魂で撃つものよッ」
ズっきゅうううう───ンッ
銃口からでた、
光線如き魔力照射は、
せがれの銃弾を消し飛ばし、
部屋の片隅をぶち抜いてようやく止まる。
偶然居合わせた男性曰く、神雷が空に落ちた、である。
「なんつー、威力なのコレ」
反動で私の手が震える。
思わず手元の魔導銃を見る。
あれだけの威力を出して銃身には一切の焼き付きがない。
(なんなら、リボルバーすら回ってないわね)
まだ発射可能ってことかしら
「化け物ね」
『本当に魔導銃か? 上級魔法に匹敵するぞ』
「なんで、こんなもんが放置されてんのよ......」
ドタバタと足音が聞こえる。
ここではない部屋の外からだ。
「おい今の音、聞こえたか?」
「聞こえた、主の部屋の方からだ」
「ちっワンワン共の援軍か」
もう少し書斎を漁りたかったけど、引き際をミスると痛い目を見そうね。
「さっさと帰えるのが吉か」
ポーチに手を突っ込み、
いつもの逃走道具を取り出す。
そうし、二度目の爆発が屋敷を襲うのであった。
◇◆◇
場所は代わってガンショップ。
ババアに銀髪少女は詰め寄る。
「あら、お帰りだ」
「何がお帰りよ、シラけちゃってぇ」
「確認しないアンタが悪いよ」
「ぐぬぬ」
ばーさんは呑気にタバコを吹かす。
「で、なんの用だ」
「私の銃の整備よ」
「ああ、せがれの銃か」
「あれは消し飛んだわよ」
えぇ、というばーさんの視線をかわして、
私は胸元から銃を取り出す。
「整備してもらいたいのはコイツよ」
見せるのは短芯の大型拳銃。
ばーさんの眼鏡の奥が珍しく揺れる。
「アンタっこの銃は」
「ばーさん、知ってるの?」
「ああ、よく知ってるとも」
「こいつは───古風でアンティークな銃だ」
「......」
そんな事、
「私でも分かるわよッ!!」
思わず私は地面を叩きつける。
知りたいのはそんな情報じゃないっつーの。
もっとどんな経緯で作られたとか、そんなことよ。
「明日取りにくるわ、整備よろしく」
「はいはい、忘れずに取りに来なよ」
「分かってるわよッ」
銀髪少女はばたんと店から出ていく。
どうせ明日には取りに来ない癖に、と老婆はタバコを吸う。
後日、銀髪少女は取りに来なかった。
テーブルの上には輝く魔導銃が1つ。
───────────
あとがき
【ガンショップ縁】にて、
「また、コイツを整備することになるとはね」
老婆の手は進む。
「【勇者の銃】か───若い時を思い出す」
テーブルにちょこんとおかれる一枚の写真。
若い男女が映った写真。
古く変色した写真。
「まあ今となっては昔の話だね」
銃の整備は続く。
TSガールズ・イン・オーシャン 上殻 点景 @Kagome_20off
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