Get! 少女、一獲千金を狙え

 旧長崎県、出島にて


 天井の羽根つき照明器具は

 灯りもつけず、ゆっくりと回り、

 むさくるしい夏の空気をかき乱していた。



 銀髪褐色少女は向かい合う。


 黒髪天然パーマの男性も向かい合う。

 

 天パのスーツはだらしない。


 「あのなあ運送屋」

 「なによ、天パ」

 「魔物増えるし、自衛隊も動けちゃうから、冬に稼いどけって言ったよな」

 「冬に聞きたかった忠告ね」


 私は、

 ソファにもたれて、

 おおきなあくびをする。


 「もう少しマシな仕事は無いの」

 「ある訳ねーだろ、まだ沈没船でも探してろ」

 「沈没船? 今いつだと思ってんの」

 「ところがどっこいあるんだなぁ」

 

 天パは写真を一枚出す。

 映るは引き上げられた昔の船。

 朽ちてはいるが不思議なことに原型がある。


 「ほら異世界と一部、繋がっただろ」

 「次元接触による影響ってところかしら」

 「まあ、そんなもんだ」


 天パは2本指を立てる。


 「中には宝石や貴金属」

 「日本の沈没船にしては豪華ね」

 「そういうものも見つかるって一部じゃ大騒ぎだ」


 「まあ無駄話はこんなもんだ、今回の依頼はな────」


 空いた窓。


 「───出ていっちまったか」


 空いた窓からは、夏の風が叩きつけられる。


 「まったく銃弾でも飛んで来たらどうするんだ」

 

 天パな男は再び窓を閉める。


 ◇◆◇


 『で、意気揚々とその海域まできたと』

 「なによ、悪いかしら」

 

 エンジンは沈黙。

 小型船は係留中。

 

 空は快晴、

 波は穏やか、

 風は北方向にやや。


 「どうやって引き上げるんだ」

 「引き上げる? まさか」

 「


 「ナビィ、低度の探査魔法、広範囲で頼むわ」

 「重労働は人任せか」

 「先まで寝てた奴に言われたくないわね」


 よっこいせと操縦席から体を動かす。


 私の体はばきばきと音をならす。


 「私は船に光学迷彩シート掛けてくるわ」

 『海上では無駄って自分で言ってなかったか』

 「沈没船に目がくらんでる奴らにはちょうどいいわよ」


 私は指を回す。


 とりあえず迷彩シートをしまった場所を思い出すところからね。


 ◇◆◇


 中型のクレーン船。

 聳え立つのは重工製の大型クレーン。排気口からは白煙が吹き出し、図太い特別鋼ワイヤーは唸りを鳴らし巻きあがる。

 

 平らな甲板は赤さびが目立ち、揺れる波によって絶えず角度を変えていた。


 (手が汚れちゃったじゃない)


 私は内心舌打ちをして、

 大型クレーンの上に立ち、


 だん、だんっと魔導銃の引き金を鳴らす。


 「はあーい、そこまで」

 「誰だ、おまえはッ!!」

 「通りすがりの海賊よ」


 「しょ、哨戒の連中は何をやってるッ」


 慌てるのは船長格らしき男。

 

 私は軽く甲板をみわたす。


 (船長といい、部下といい、全員人間か)


 他に比べてやけに早く見つけてたけど、長年の勘って奴かしら?


 「狙いは沈没船の中身か」

 「ご名答」

 「悪いがすでに私の四次元袋の───」

 

 私は、

 端で連絡を取ろうとしていた男を、

 いい天気ですねという感じに、撃ち抜く。


 「よけいなことはしないで欲しいわ」

 「ちっ」

 「ちなみに私、早撃ちは得意な方よ」


 困ったわね。


 一向に殺意が減らないのは予想外。

 これだから耳無しはって言われるのよ。

 利口な奴らなら、財宝損切して渡してるレベルよ。

 

 (これ以上、魔力を垂れ流すのは無駄かぁ)


 あーあ、適当なブラフにでも引っ掛かってくれないかしら。


 「ちなみに私が一人で来ると思う?」

 「その小型船にか?」

 「あら拡張魔法をご存じでない?」

 「おいおい、冗談は良してくれ」


 あら? 想定外にいい反応。


 やっぱり何でもできる魔法で脅すのが一番よね。


 「嘘だッ、ねえちゃん1人だぞッ」


 そう叫ぶは少年。

 体に鎖を紐頭ずけて、

 甲板に顔を出した少年である。


 「あら、金のうさ耳」

 『ゴールドラビット種か珍しい』

 「これがあのゴールドラビット種?」

 『探知系統に優れたと話題のな』

 「通りで発見が早かったわけね」


 私はうさ耳少年をしげしげと見る。


 鎖はあるが、奴隷専用の首輪はない。

 毛先はぼさぼさで、服は船員と変わらずか。


 「船員にしては、結構な扱いじゃないの?」

 「落ちないようにするためだって」

 「逃がさないの間違いでしょ」


 私の言葉に、うさ耳少年は驚いた顔をする。


 「えっでも」

 「最低販売金額500万でしたっけ」

 「ヤツの言葉に耳を傾けるな」


 船長の横やりが入る。


 なら好都合と私は言葉を返す。


 「首輪すらついてないあたり、拉致ったのかしら」

 「たまたま拾ったんだッ」

 「異世界の種を日本でェ?」


 思わず腹から笑いが零れる。


 靴が甲板をガンガンと鳴らす。


 いやーなんというか、

 すがすがしい嘘すぎて、

 気分がいいまであるわね。


 「イセカイ? ねえちゃんは何を言ってるんだ」

 「そのまんま。ここはアンタが住んでた世界じゃないの」

 「でも、終われば森に返してくれるってッ」

 「どーみても、死ぬまで働かすに決まってるでしょ」


 はぁーと呆れる私、

 かんかんと甲板を靴で叩き、

 2度のちょっとした思案をはさんで、


 少年の鎖を打ち抜く。


 「えっ」

 「どうするかは自分で決めなさい」 

 

 「分かってるよな」と男が言い、

 「お好きなように」と私が言う。


 「ぼ、僕は───ねえちゃんと行くッ」

 「グッド」


 私は銃の撃鉄を上げ、

 

 ほほの口角も上がる。


 ついでに船長の口もあがる。


 「ガキを逃がすなッ!! 

   女はやっても構わんッ」

 

 「「「「了解ですっせ、船長!!」」」」


 男たちは各々の武器を構え───


 ドドドドドドドドキューンッ

 

 っと、

 シリンダーが熱を帯び、

 男たちの真横が撃ち抜かれる。


 銃穴は、全部顔からぴったり2cmだ。


 「言ったわよね、早撃ちは得意だって」


 船長は四次元袋を投げつけるのであった。


 ◇◆◇


 時間は流れる。


 場所は長崎出島。

 増築と違法建築が無秩序に増え続け、延々と続く現代の迷宮が出来上がる。

 廃墟と汚れた路地が組み合わさり、迷路となった道を、


 2人の男女は歩く。


 銀髪少女、うさ耳少年である。


 「まあ帰ろうと思っても向こうに行くには駄賃がいるわ」

 「通行料みたいなもんですか」

 「まあそんなもんね」


 本当は根回し料なんだけど言っても無駄か、と私は思う。


 「まっ、しばらくはお金を稼ぐことね」

 「はい、頑張ります」


 そう言って2人は道を進む。


 私の足が止まるは一件のお店。

 高級感のあるドアと看板が並び、

 少し怪しい雰囲気を感じるのが目印である。


 「という訳でついたわよ」

 「運送屋さん、ここは?」

 「ここ? ここはね」


 銀髪少女は満面の笑みで言葉を続ける。


 「───奴隷販売所よ」


 少年の背中に冷たい金属が当たる。


 この後、

 少年には首輪が付くことになり、

 銀髪少女はにこにこで笑みを浮かべて帰った。

 

 とだけ記載しておこう。



 ────────────


 あとがき


 「だ、だまされた」

 「運が無かったな、ぼうず」

 「あの人、お金のために僕を」


 店主のおじさんは僕を見る。


 「ちなみに受取金は2万だぞ」

 「えっでも売値は」

 「ウチは後腐れ無しでやるからな、手数料は向こう持ちだ」

 「それってほぼタダなのでは?」

 「どうせ奴なりのリスク&リターンだ、深く考えるな」


 僕はおじさんにガシガシと撫でられる。


 一方、銀髪少女。


 「はっくしゅん」

 『風邪か』

 「誰か噂でもしたのかしら」

 『心当たりが多すぎるな』

 「まったくね」

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