Burning! 必殺、海の悪魔

 夏の匂いがまじる、

 朝の日差しのなか、

 寄った港の定食屋にて。


 「店主、魚定食なのに魚ないじゃないッ」


 私は思わず怒鳴りちらかす。


 味噌汁、漬物

 ご飯、海藻天ぷら

 お盆の上にのっているのは、以上。


 魚部分であろう海藻の天ぷらからは、

 油の隙間からエビを感じるぐらいね。

 

 「ああ、すまないね白髪の嬢ちゃん」

 「こんな子エビもどきで満足できないわよ」


 「うるせー、こっちも不漁なんだよ」


 怒鳴なりつけてくる男。

 男の前には、ジョッキ瓶。

 色は無色、中身は半分以上無し。


 ただの酔狂なおっさんか、

 飲んだくれが限度ね。


 「なによ、あんた」

 「ここの漁師だよ」


 私は椅子をまわし、

 男と顔を突き合わせる。


 「昼間っから酒飲んでる漁師ねぇ」

 「残念だが中は冷え切った水だよ」


 男はジョッキをゆらす。

 すでに氷は解けており、

 机には滴った水跡が残る。


 「異世界と繋がっちまって以来、変な魚が流れてきてな」

 「でしょうね」

 「おかげで海の生態系はめちゃくちゃだ」


 男はジョッキをたたく。

 木の机と据置調味料がゆれる。


 「今回にいたってはタコのバケモンときた」

 「なら狩猟団なり、自衛隊に頼めばいいじゃない」

 

 漁村なら狩猟団とこコネあるでしょ。

 自衛隊なら高いけど軍艦まででるし。

 

 男のジョッキは震える。


 「頼む金があるなら頼んでるよ」

 「それもそうね」


 「毎回、予想外が起こる海......」

 ───正直言ってもう限界だ。

 いっそ船も壊れればよかった。

 家族のために頑張ってきたが、

 長男も大きくなったし。

 

 「漁師を止める潮時かもしれん」

 

 しみじみと語る男。


 先ほどの怒声はどこにやらね。


 やっぱり落ち込んでる時って感情が豹変しやすいのかしら。


 ちょっと商売の香りがするわね。


 「なら、こういうのはどう」

 「あっ?」

 「私が化け物を退治するってのは」

 「嬢ちゃんがか?」

 「こう見えて腕っぷしは強いのよ」

 

 「あ、もちろんタダじゃないわよ」

 

 私は指を1本立てる。


 「1000万、でどう」

 「嬢ちゃん人を馬鹿にしすぎだ」

 「あらそう? 安いとは思うけど」

 「安いが漁業組合でも払えん額だ」

 

 他なら準備費込みで3倍は取ると思うんだけど。


 それも払えないとなると、もう家の中はすっからかんね。


 「かなり懐が弱ってることで」

 「田舎はどこでもそうさ。知ってるだろ」

 「アンタの知ってる田舎がここのだけの話でしょ」

 

 私は席を戻す。

 盆の上の食器を整え、

 現金での会計を済ます。


 「まっ、ごちそうさま」

 「あんがとよー」


 店員の言葉を受け外に出る。


 外から見える海は、どこか曇っている。


 ◇◆◇


 時間は流れ、船着き場、外部漁船用にて

 

 私は小型船の前に立つ。


 「さて、帰りの燃料も入れましたし」

 

 私は脳内でミスがないかを確認する。


 えーと、食料はあるし、

 弾薬は使ってないし、

 魔力はいつもどうり。


 「あっナビィ、一応大きな魔力反応は避けてね」

 『英雄きどりにはいかないのか』

 「英雄になっても腹は膨れないのよ」

 

 英雄って名前だけでしょ。


 別に本人がどうなろうとも、名が生きてりゃいいですし。


 そんなもんより、明日の飯の方が必要よ。


 「ま、まってくれアンタ」

 「あら、さっきの漁師さんじゃない」


 ずいぶん焦った顔ね。


 悪い知らせでもあったのかしら。


 「長男が化物を退治するって海に」

 「あら大変」

 「まだ船が帰ってきてないんだッ」

 「へー」

 「必ず払う、いくらでも払うから」


 つまりタコ助やっつけるついでに、息子を助けて欲しいってこと?


 「断るわ、報酬は即日のみなの」


 明日払うは信用なしって習わなかった?


 私は自分で嫌と言うほど学んだわ。


 「ならどうすれば、俺はどうすればいいんだ」

 「諦めるか、確実に返せるものでおねがい」


 「ひ、人の身柄か」

 「人間安いのよね」

 「ならば、俺の命」

 「一番要らないわ」

 「家財や俺の船は」

 「持ってるし邪魔」


 漁師は虚ろな目になる。


 膝から崩れ落ち、液体が汚い。


 でもまだ諦めてはくれないらしい。


 「なら.......一生、魚定食奢るってのはどうだ」

 「うーん、それ一番気に入ったわ」

 

 結構この付近には寄るし、いい報酬ね。


 「のんびり待ってなさい」


 「あと、タコ刺しにあうお酒用意も忘れないでね」


 白髪少女は動き出す。

 

 ペダルを踏み、小型船を前に進め、

 

 進路はいざ海の魔物の方面へ。


 ◇◆◇


 海の雲行きが怪しくなる。


 波の揺れは大きくなり、


 操縦席でも私は揺れを感じる。


 「ナビィ、奴の居場所は」

 『ここより2kmの......水上だな』

 「ちょっと、不味いわね」

 『十中八九、怪物は食事中だろうな』


 問題は本当に食事されていないといいけどね。


 内臓ばらして、死体を届けるなんて面倒はごめんなのよ。


 「こうなりゃ奥の手ね」

 『船どうするんだ』

 「そんな時のための自動操縦」


 私は船室のドアを開ける。


 外は水しぶき、羽しぶきの大荒れだ。


 ◇◆◇


 辺りは薄暗く、

 雷の音が聞こえる。 

 荒波に浮かぶは漁師の小舟。


 小舟の少年は銛を構えるが、

 少年の手は一切動かず。


 正面、襲い掛かるは触手の山。


 「うわあああああ」


 逆側、爆発的に跳ねるは水面にて。


 「ふう、危機一髪」


 私の後ろにて小舟は爆散。


 いまだに巨大タコ助は海をたたく。


 手に抱えた少年は未だに目を丸くする。


 「アンタが漁師の息子ね」

 「えっと、お姉さんは誰ですか?」

 「通りすがりの運送屋よ」


 私は、

 白髪を揺らして、

 チャーミングに笑顔をむける。


 「あのコレ」


 だが、少年の視線は、

 海に立つわたしの足もと。


 「努力すれば誰でもできるわ」

 「あっはい」

 

 海の巨大タコ助は、

 ようやくこちらに気づいたのか、

 お腹がまだ膨れてないのかは知らないけど、

 

 タコ助が私に触手をむける。


 (一本、一本が馬鹿デカいし、避けてられないか)

 

 「ホントざっかしいわね」


 私は銃をぬき、

 触手に照準を向ける。


 銃から放たれた光線は、

 タコ助の体に当たり曲がっていく。


 (魔力弾が弾かれるならまだしも、曲がるってどういうことよッ)


 「ちょっと、魔導銃リボルバーカノン当たんないんだけど」

 『当然だ、小さいとはいえ海の魔物クラーゲンだぞ』

 「理由になってないわよ」

 『粘液で魔力が滑るのを知らないのか』

 「そんなの知らないわよッ」


 今日に限って専用の弾持ってるわけもないし。

 

 (ポーチ漁ったところで無駄よねェ)


 私のやる気ゲージが下に落ち、

 思わず少年をタコ助の餌にして、

 小型船に帰ってベットで寝たくなる。


 『まあ倒す方法は一応あるぞ』

 「どうすんのよ」

 『より高火力でブチ抜く』

 「で、具体的には?」

 『私が倒す』

 「一番ありそうで嫌だわ」


 私は片目を閉じる。


 このままジリ貧は確定。


 あたしに倒す手立てはない、か。


 幻聴ナビィが妙にやる気なのも気になるけど


 『で、どうするんだ』

 「頷くしかないでしょ、この状況」

 『懸命な判断だ』


 タコ助の触手が近づく。


 方位は前後左右右左の

 

 全方向から。


 「ちょ、おねえさん周りッ」


 銀髪褐色少女の雰囲気が変わる。


 おちゃらけた雰囲気はいずこに、

 幽玄で元老な雰囲気がただよう。


 黒の瞳は燃えるような赤になる。


 「安心しろ───知っている」


 景色が変わる。

 下に見えた海面は消え、

 目下に見えるのは波立つ海。


 一瞬による空中への移動。


 「へっ?」

 「ただの浮遊魔法だ」


 得体のしれない恐怖に、

 生物としての勘が勝ったのか、

 海の怪物はこぎみよくっ触手をまるめ。


 いまかいまかと海に潜ろうとしている。


 「奴め、今更怯えて逃げるつもりか」

 「行ってこい戦士の息子」


 ナビィは手に抱えた少年を、

 勢いよく海の怪物に放り投げる。


 「ひゃあああ」


 子供は飛び、

 手に持つ銛が、

 海の怪物の頭に刺さる。

 

 「キュワワアアアッ」


 海の怪物にしてはかわいらしい声。


 もう少し荒ぶってくれたほうが狩りごたえがあるのだが。


 そんな気も知らず、


 再びひらいた触手は子供を掴み、

 邪魔だと言わんばかりにゆさゆさした後、

 子供は空に勢いよく放り投げられるのであった。


 「また、空にいいいい」


 海の怪物は水中に消える。


 残された水面には気泡と銛。


 「だが、もう遅い」


 ナビィは腕を十字に組み、

 呪文詠唱の構えをとする。


 「起きあがるは魔力、起きあがるは精神」

  「承認するは火を纏い火を掌る1精霊」

   「天使と悪魔に契られし七の契約」

    「決意の怒りを一矢に籠めよ」


     「火火ホノオ-極大魔法キョクダイマホウ


     ────発火イグニッション


 赤。

 凝縮され太陽となった紅。

 風、空気だけでなく、雲ものみこむ紅玉。


 紅は光を描き、一閃の筋となって海にふれる。 


 ふれた水面は裂け、

 水面は一瞬で蒸発し、 

 流れる水滴さえも残さない。


 紅は止まることをしらず、

 周囲には抉り取られた渦が残る。

 

 海の数千mに潜った怪物を、

 とらえた紅はくにもせず、


 一瞬の大爆発と共に消し炭に変える。


 閃光が収まった後には、

 穴をふさぐように流れる激流だけであった。


 「よく頑張った」

 「あれ......生きてる」

 「魔法で助けたからな」

 

 空中で笑い合う2人。


 方や心からの少年、

 方や魔法が撃てて満足の女、

 どちらにしろ笑顔には違いない。

 

 「ははは、ありがとうございます」

 「どういたしまして、だ」


 1つの影はゆっくりと小型船に戻っていく。


 天気は晴れ、夕日がさしかかろうとしていた。


 ◇◆◇


 時刻は夜。

 夜の海岸にしてはうるさく、

 船着き場には灯りは多くついている。


 「はい、という訳で取りかえしてきたわよ」

 

 漁師に子供をかえす。

 

 あの後疲れていたのか寝てしまい、

 わざわざおんぶして運ぶハメになった。


 私に運ばせるとは本当にいい度胸ね。


 「さきに言っとくけど寝てるだけだからね」

 「本当にありがとうございました」


 綺麗なお辞儀をかます子供の両親。

 

 腹は膨れないけど、無駄に感謝されるのも悪くはないわね。


 「さて報酬────なんか港荒れてるわね」

 

 「実はあのあと津波が襲ってきてこの様だ」

 「ふーん」


 「アンタは大丈夫だったか? 海が光ったりした後」

 「ふ、ふーん」


 「報酬はまた今度でいいわ」


 私は踵を返して小型船に向かおうとする。

 嫌な現実に気づいてしまったものね。


 子供の目が覚める。

 げっ周囲が煩くしすぎたか。


 「あっ、スゲー魔法の姉ちゃんッ」

 「あら起きたの?」

 「あの魔法本当にすごかったよ。タコの怪物ちゅどーんってやったやつ」 

 「おい、余計なことを言うな」


 漁師の視線がこちらを向く。

 何なら、周囲の灯りが一斉に止まる。

 夜は声がよく通るし聞こえちゃうかー。


 (これ捕まると、港の補修費払わされるヤツね)


 「私、急用思い出したからッ」 


 ならば戦術撤退にて、ゴメンッ。


 「「「おい、まてコラァッ!!」」」


 住人との壮大な鬼ごっこが始まるのであった。


 ────────────


 あとがき


Q. ナビィの魔法について

A. 対魔王殲滅用の魔法。

  日常生活での出番は皆無。

  別にナビィなら火球ぐらいで

  ダメージは与えれます。

  つまりはオバオーバーキルです。


Q. 海の怪物(クラーゲン)について

A. 太平洋に家で飼えなくて放流。

  大きさ的にはまだ子供。

  大きくなったら氷魔法を唱えれる。

  でも子供なのでまだ使えない。


Q. 生態系のみだれについて

A. 正直めちゃくちゃです。

  でも海より陸の方が酷いとも。

  これも全て異世界が悪い。

  異世界を許すな定期。



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