TSガールズ・イン・オーシャン
上殻 点景
Ready! 海上移動はご用心
海は青い。
[日本国政府は現状、異世界側との友好な政策を見いだせず]
海は、
太陽の光を反射し輝き、
波は無造作に白く揺れる。
[本日も7都市郊外は危険域に指定されています]
大海に白の小型船が浮かび、
前には黒の大型船が阻む。
[お出かけの方は、自衛隊の許可をもって外出を]
「それが出来たら苦労しないわよ」
速度を落とし、
小型船を止めて、
正面窓から大型船を睨む。
「野郎どもォ、乗り込め」
「逃げた商人だ、逃がすなよ」
「金品、燃料、女までかっさらえ」
大型船から、ガラの悪い声が数人。
(距離にして乗り込まれたと考えるのが妥当か)
背後、船室のドアから覗く。
全員半裸、
武装はサーベル、
同一の印が胸に一つ。
そして───獣の耳。
「おい、いるのはわかってるんだぜ」
船内のドア越しから、様子をうかがう。
黒い船から乗ってきたのは男3人。
主格1人と部下2人って感じ。
(大船の中には同じような連中が、沢山いるんでしょうけど)
ちゃんと耳立てて警戒してるわね。
手持ちの武器は、銃が一丁。
(対応するのは、ちょっと無理があるかぁ)
船室のカギを開ける。
「おい、中の奴を連れてこい」
「へいっ、兄貴」
船室に入ってきた男は1人。
部下の方か、ハズレね。
「うるさい音だな」
[今日も「プチッ」────]
部下の手でラジオが消される。
「おい、こっちにこい」
部下は私を見つけ、
「ちょ、無理に引っ張らなくてもいいじゃない」
「うるさい嬢ちゃんだな」
「あーちょ、髪が乱れる」
「短い毛なんぞ気にすんな」
強引に船外へ出す。
(あーあー、日焼け止め塗っとけばよかったぁ)
海風吹く中、
私の素顔がさらされる。
「黒髪褐色の耳無しか」
「なによ、ただの人間で悪かったわね」
あーもう日差しが強いわね。
黒目はまだまぶしいし、
銀髪はなびいて邪魔だし、
褐色肌にひかりがささって熱いじゃない。
「お頭ッ、下に
ありゃ、地下の倉庫まで見つかるとは。
流石海賊さん手際がいいことで。
「だ、そうだ。嬢ちゃんパスワードは?」
「42731よ」
「嘘は言ってねぇだろうな」
「言ってどうするのよ」
「懸命だ」
眼の前で金属の鞄が運ばれていく。
超ジェラルミンの鞄に入った配達物。
頑丈なケースだから報酬も期待なんだけど。
「ああァ、今回のお金がァ」
「おい、中身は船でみやがれ」
「で、これで解放してくれるかしら?」
「まさか、金品、荷物、ついでに燃料ももらっていこうか」
「冗談でしょ!」
男は船の後方座る。
「意外といい魔導エンジン使ってんじゃねぇか」
「中に入っている燃料でアンタたちの船は動かせないわよ」
どうせ燃料魔力の魔導エンジン船でしょ。
あんなバカでかい船、ウチの魔力がいくらあっても動かないわよ。
「だが質はいいかもしれんだろ」
「質ねぇ」
「この時代、高濃度の魔力ってのはそれだけで売れるからなぁ」
「燃料売られて私はどうやって帰るのよ」
「なにうちの粗悪品をくれてやる」
男はゲラゲラ笑う
(よく喋る狼だこと)
あいにく私の燃料も粗悪品よ。
原液5倍希釈は伊達じゃないわ。
「なんなら嬢ちゃんごと貰っても構わんのだぞ」
「アンタ、獣人に見えるけど?」
「俺は興味ないが、その手の奴らには高く売れる」
「ふーん────ちょっと髪を結んでもいいかしら、さっきからうっとおしいの」
棚引く白髪、
私は体を右に傾け、
男達からの死角を作り上げる。
私は懐に手を持っていこうとするが、
「おいおい、妙な行動はよせ」
「その懐のブツも出してもらおうか」
「目がいいことで」
「俺たちの特権さ」
男が目くばせし、
部下が懐に手を入れ、
取り出そうとした物を取られる。
「兄貴ッ、年代物の
「こんな、骨董品撃てるわけねぇだろ、見せかけだ見せかけ」
奪われたのは銃。
新品のように光る銃。
四角い
部下は男に銃を渡し、
男は太陽のしたで、
銃を照らして遊ぶ。
「ふーん、ちなみにあと3」
「なにが言いたい、嬢ちゃん」
私は口ずさむ。
男の遊ぶ手が止まる。
「2」
「なにがいいたい」
私はまるで鼻歌を歌うように。
男は私の胸倉をつかむ。
「1」
「何がいいたいんだと聞いているんだッ」
「───────ふっ」
爆発、
黒い大型船が、
盛大な音を立てて、爆発。
せんたいは瓦解して、
ひめいが鳴りやまず、
こくじんが舞い踊る、
理解不能の爆発。
「そのアマ、魔法使いだッ」
「急いで首錠もってきます、兄貴ッ」
「もう遅いわよ、耳無しの女だからって甘く見たのが間違いね」
掴んでいる男の顔面を蹴り、
ゆるんだ男の手から脱出。
部下を船から蹴って海に沈め、
私は落ちた愛銃を拾いあげる。
目前には頭を抑えて起き上がる男が一人。
動きにしてはだいぶ悠長な事ね。
「さて旧式のだの骨董品だの散々馬鹿にしてくれたわね」
銃口を鼻につきあてる。
「本当に撃てるかどうか試してみるかしら?」
10分後、
海に浮かぶ獣人の男達と、
船で高笑いする銀髪少女の姿があった。
◇◆◇
「ナビィ、ナイス爆破よ」
私は船上で褒める。
船上に存在するのは少女のみ。
少女の脳内に凛とした声がひびく。
『手間をかけさせやがって』
「手間って......輸送物資に爆破魔法つけて、起動しただけじゃない」
『......安眠を邪魔された』
「本音はそっちね」
脳内の相棒こと、ナビィ。
役割は船の指針担当なので、ナビゲーションからとってナビィ。
本当の名前はいまだに聞いたことも、話した覚えもないらしい。
「まあ、代わりに小遣いが手に入ったので許して頂戴」
『現状ではただのゴミだがな』
ちょっと数が膨大すぎて肝心の配達品は、船室の中だ。
「まあ、燃料が手に入ったと思えばギリセーフみたいな」
『大半は自然に帰っていったがな』
「うぐっ」
沈没する大型船を見捨て、
小型船は海路を行く。
◇◆◇
船は進んで目的地、7都市、名古屋。
「という訳で目的の品です」
「なんか焦げてねぇか、運送屋」
「気のせいよ」
私は笑顔の睨みをきかせる。
受取人は怯えた表情をみせる。
「そ、そうか。こいつが報酬だ」
「分かればいいのよ、分かれば」
受取人は厚い封筒を渡し、
私は片手で封筒を受け取る。
(ちょっと厚みが物足りないわね)
私は懐に手をかける。
「冗談はよせッ、誤魔化したりはしてねえぞ」
「あらそう」
私は懐から手を外す。
もちろん“仕方なく”よ。
「では運送屋に、またのご依頼を」
私は外に出ていくのであった。
◇◆◇
時はうごき船内。
操縦席にもたれて、
私は手元の端末を操作する。
「まったく超ジェラルミンのケースが焼けるわけないってのにねぇ」
『安心しろ、ちょうど焦げ目がつく火力にしておいた』
「───マジ?」
『真面目にだ』
幻聴は呑気に喋り、
私は頬を引きつく。
おもわず
端末を操作する、
わたしの手も止まる。
手に持つ端末の画面に、
文字で表記されるは、
[口座 50万円 入金]
『普通なら数日は遊べそうだな』
「別に遊べはするわよ、遊べはね」
『で、残りの借金は』
[残り借金額 10億800万]
「微々たるものよ」
『あいかわらずふざけた金額だな。今日の仕事、意味あったか?』
「あるに決まってるでしょ、借金が50万も減ったのよ」
『老人になるほうが早そうだ』
「老後はゴージャスに生きるって決めてんのよ」
今日の運送だって、久しぶりの依頼だったし。
(時期が悪いとこうなっちゃうのがねぇ)
『また、人体実験はどうだ』
「1度目で女になって、2度目に幻聴が聞こえるようになって流石に懲りたわよ」
『3度目が楽しみだな』
「これ以上、相棒が増えても困るわ」
私の脳内の容量は既に限界なのよ。
これ以上、小言をいう奴を増やしてたまるかっての。
「んでナビィ、次はどこに配達よ」
『バ......少し待て、読めない地名だ』
「ならバが名前の場所に片っ端から行くわよ」
『全く正気か? これだから相棒は』
波は穏やかに揺れている。
──────────────────
あとがき
Q. ラジオを消さない主人公。
A. あれは獣人の聴覚への抵抗。
内部の人数を悟られないため。
結局、獣人は数分でバレますが。
本人も承知済みの嫌がらせです。
Q. 旧式の魔導銃。
A. 旧式の魔導銃ということ。
獣人の言葉通り骨董品な銃。
ですが整備により新品以上。
Q. 3人の獣人。
A. 大勢でいればワンチャンス。
小型船がせまいのが悪い。
大きな船に乗れが後の談。
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