アロマアセクの話【あくまでフィクションです。】

日上口

マイノリティ中のマイノリティ


あっ、僕の番ですか?


えーっと、真鍋奏多まなべかなたって言います。歳は二十六。職業は、今はSEシステムエンジニアやってます。


あとは、何から話せばいいのか。すみません、こういう集まり——セクシュアルマイノリティの交流スペースって初めてで緊張しちゃって。皆さんお話上手だから余計に。


ここに座ってる方みんなセクマイなんて……ああ、学生さんも居るんでしたっけ? どちらにせよマイノリティがマジョリティになってる光景は中々感慨深いものですね。


なんか、アレですよね、アメリカとかで薬物中毒の人が集会して自分の現状を語って励まし合うみたいな……あっこれ失言ですかね!? 失礼しましたっ。


別にセクマイが病気だ~とかは全く思ってないですよ。自分もそうですし。



流れでカミングアウトしますと、僕はアロマンティック・アセクシュアルです。長いんでこれ以降はアロマアセクって略しますね。



お、はてな浮かべてる方も居ますね。……ああ! 全然大丈夫ですよ! そんな申し訳なさそうにしないでください。マイナーなやつですんで、緊張解しがてら説明から入りますね。


LGBTQ+の“+”に入る、言っちゃえばなんで、マイノリティ中のマイノリティですね。まぁ言っても結構単純でして。「恋愛感情が無くて、誰かに性的に惹かれることもない」っていう。


アロマンティックが恋愛の方、アセクシュアルは性的に~の方ですね。あっ、それは分かりますよね。失礼しました。


他にもリスロマンティックとかデミロマンティックとかパンセクシュアルとか、程度とか条件によって色々あるんですが僕はアロマアセクって自認してます。



——どうやって自認したのかですか? あー、その辺話していきましょうか。ちょっと長いですけどいいですか?



はい。では、皆さん多分小中高生の頃に「恋バナ」ってしたりされたりしてきたと思うんですよ。


同性愛者の方でさっき「恋バナで本当の事が言えなくて誤魔化し続けた」って方も居ましたよね。


僕の場合はずっと周りの皆が何言ってるか分からなかったんですよね。「好きって何?」みたいなね。


で、実際そう聞くわけですよ。小学生の頃とか。そんで親切な子がわざわざ辞書とか持ち出して説明してくれたんですけどよく分からず。


でもその時は当然アロマアセクなんて言葉すらない時代なんで、大人になれば分かるのかなーって漠然と考えてましたね。まぁ分からなかったんですけど。


そんで中学の時ですね、男子が思春期に突入して異性を意識する子が増えてきた頃ですよ。


対して僕は良くも悪くも意識しなかったんで結構女の子とも遊んだりして、ちょっと男子にいじめというか、イジられることが増えましたね。「カマ野郎」みたいな。


あ、この時期で言うと同級生がエロ系の話を当然のようにし出したのには驚きましたね。


暗黙の了解的にエロが市民権を得ていたというか。自分の知らない話題で大盛り上がりしててちょっと疎外感でしたね。


でも他にもそういうの恥ずかしがる同性が一定数居たので、僕だけがおかしい訳じゃないって勘違いしてましたね、その時は。


それでも気にせず過ごしてたら一人の女の子と特に仲良くなりまして、告白されたんですよ。「付き合ってください」って。


で、当時の僕はまぁアホだったのもあって勘違いしちゃって。「付き合うって何? どっか行くの?」って言っちゃったんです。告白してくれた子にですよ?


そしたらその子泣き出しちゃって。受け流したと思われたんでしょうね。


今思えば申し訳なかったなと思うんですが当時は本当に困惑しちゃって。そこでちょっと本格的に違和感覚えました。


おや? どうも自分は周りと感覚がズレてるらしいぞって。


それからその子とは疎遠になって、単純に友達が一人減ってショックだったので真剣に自分のズレの正体を探ったんです。


周りの子達を観察してみたり、少女漫画読んでみたり。恋人が居る同級生に話を聞いてみたり……保健室の先生にも相談したかな? それで中三に確信したんです。


あっ、欠けてるって。


……この言い方はホントは良くないんですが、当時の僕は完全に「自分は欠陥品」って認識になっちゃいましてねー。


それで中学はそれ以降なるべく人との距離感とか気にして、気にし過ぎて逆に嫌われたりして。人生で一番落ち込んだ時期ですね。



その辺で意識し始めたんですが世の中って“恋愛”を当たり前のものとして回ってるんですよね。


そういう気づきもあってあの頃の僕はとにかく孤独感で沈みましたね。



高校はとにかく中学の人と離れたくて県外の私立に行きました。


最初の方は中学の反省を生かして結構楽しくやれてました。異性との適切な距離感も分かってきたし、友達の恋バナも話合わせて乗り切れましたし。


何もないから逆に捏造は楽でしたね。友達とか漫画とかネットとか情報源は結構ありますし。要は「ペルソナ」を作ることに成功したんです。


それで勘違いしちゃったんですよね、「自分普通じゃん! 皆と一緒じゃん!」って。


そのタイミングでちょうど部活の先輩の女性からアプローチされて、ホイホイ乗っちゃったんです。尊敬できる人だったし、人として好きではあったので。


それで今度こそお付き合いするんでしが……まぁ、もう結末を察している方が多いと思うので言うんですが、いざそういう場面になっても全く興奮とかしないんですよ。


先輩も最初は「よくある“初めて”の失敗だよ」って笑ってくれてたんですが二回目も、三回目もとなると流石にギスギスしちゃって結局フラれちゃいました。


あっそうそう! それから部活の人に陰でEDって呼ばれてて! アレは効きましたね。


尊敬してた先輩がそういう話言いふらしてたのもですけど、明確に欠陥扱いですから。部活もすぐ辞めちゃいました。あっ、軽音部ですちなみに。興味ないか。


それからはまぁただの不能だと思って過ごしてたらインターネットでアロマアセクって言葉に出会って、「これじゃん!」となり、今に至るって感じです。



えー、遍歴はこんなところですかね。ちょっと水分補給を。


——あ、質問ですか? どうぞどうぞ!



*  *  *



「いやー、真鍋さん。本日は興味深いお話、ありがとうございました。自分も似たような経験をしてて、滅茶苦茶共感しながら聞かせてもらいました!」


「あー、どうも。ありがとうございま、す……あの、なんで手を触るんです?」


「真鍋さん、お話聞く限り異性の方との失敗談ばかりでしたので、“同性”の方も試した方が良いのではないかなと、思いまして」


「……いや、遠慮しときます」




 なーんも伝わってないじゃん。

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アロマアセクの話【あくまでフィクションです。】 日上口 @Hi_Joe_Gucchi

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