第4話 混沌

「偉大なる者、復活せり」


 シーヴィが小さく呟いて溜息を付いた。


「どうしたって?」

 ユノがそれを聞きつけて不思議そうな顔をする。


「スラントギーヴが散った」

「なんだって?!」

「魂の一片まで破壊された。もう復活は無理だろう。

 …我々には、もう少し時間が必要のようだ」


「時間……」


「シルヴァ様が成長するまで、いや、正気に返るまででよい。

 …我々は眠りにつかねばならないな、我々の気配で相手が此処を突き止めるのを防ぐためにも」


「シルヴァ様のお呼びがかかるまで、か……。長そうだな」


「それまでは人間の世界には混沌を放ち、すこし熟成させねばならぬ。

 シルヴァ様は人間に託す…。

 ユノ、知っておるか?」


「何を?」

「人間達はこういう行為を託卵…というのだ」


 シーヴィがそう言って手を軽く振ると、赤毛の少年の姿が消えた。


「ハッ!自分で育てた奴に殺されるってか。そりゃ愉快だね」


「さぁ、これでいい。私はしばらく眠る」


「シーヴィも我等のように不死の民になってしまえば眠りになんかつかなくてもよくなるのに」


 ユノがつまらなそうに言うと、シーヴィはにっこり微笑んだ。


 いつもとは違う、華やぐような微笑み。


「それもよいかもしれぬが…

 私までが魔に属する者となればシルヴァ様が悲しむ」


「魔は支配される物、か。

 シルヴァ様の理論はよくわからない。

 永遠の命も持たず、力も弱い人間にどうしてそんなに固執するのか……。

 まぁ、いいや。んじゃせめて私が良い夢を見させてやろう。

 …ヴァンパイアの夢は甘美だそうだ。自分で試したことはないけれど」


 ユノがマントを広げる。


「それは素晴らしいな。では共に伝説の前夜を楽しもう」

 


 ……仄かに月が照らし出す薄暗い部屋で二つの影が一つになり、

やがてそれが闇に溶け込んだ時、廃虚の床に黒いマントと真紅のローブがはらりと落ちた。


 そして、大きなコウモリと真っ白い蝶が雪の光に惹かれるように壊れた窓から飛び去った。


 後には、混ざり会うようにはためく黒と赤の布だけが月の光下で踊っているだけ……。


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LEGEND EVE/ @child___a

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