ガラスノココロ〜冬〜

タカナシ トーヤ

コロ

亮平りょうへい!!どこいくの!!」


「…るっせーんだよ!てめえらには関係ねぇだろ!!!」



俺は玄関を勢いよく閉めて家を飛び出した。




外は雪だ。

さみぃな。上着もってこりゃよかった。


でも今更戻るなんてかっこ悪くてできやしねぇ。



俺は高架下のアスファルトの出ている所まで歩き、ポケットからタバコを出した。



どいつもこいつもうるせーんだよ。

俺が何しようと俺の勝手だろ。

どうせ俺なんて必要のない人間だ。


タバコに火をつける手がかじかむ。

ひぃ〜。マジで寒いな。このまま外にいたら凍死すっかも。


まぁ、死んだら死んだでいいや。

そもそも俺なんて生まれてこなきゃよかったんだ。

だいたい、俺は生まれてきたくて生まれたわけじゃねぇ。

親が勝手に産んだだけだ。


勝手に産んでおいて

手に負えなくなったからって投げ出して

俺はてめえらのじゃねーんだっつーの。



冬は嫌いだ。

小さい時、よく外に出された。

泣き声がうるせぇとか

言うこときかねぇとか

メシの食い方が汚ねぇとか


ジジイがババアに言いつけて

てめぇのしつけがなってねぇからだ、ってジジイがババアをぶん殴って

止めに入ろうとした俺もぶん殴られて

結局最後は俺がひとりで外に出された。


近くに家なんかなかったから

泣いたって誰もきてくれねーし

諦めて玄関が開くのをじっと待ってた。

ジジイが寝てから、ババアがこっそりドアを開けに来た。



寒かった。

冬なんか特に酷かった。

寝そうなんだか、死にそうなんだかわかんなくなるくらい



—寒かった。




また雪の中だ。

でも追い出されたんじゃない。

んだ。


じーさんもばーさんも、ニコニコして優しくしてきやがる。


サトオヤ?

へっ、冗談じゃねぇよ。

偽善だ。偽善。


どうせあいつらだってまた

俺が駄目なやつだってわかったら

ぶん殴ったり

ののしったり

外に出したりするんだろ


だから先に出てきてやったんだ

ありがたく思えよな



帰んねぇぜ

ここは玄関の横じゃねぇ

見つかりっこねぇし…



あ?なんでばーさんがいんだよ。


「亮平。探したわよ。よかった、見つかって。スープが冷めちゃうから、早く帰りましょう。」


ばーさんは俺の手を握ろうとする。


「触んなよ!マジうぜぇ!!てか、なんで泣いてんだよ!!」


俺の足に柴犬のコロがしがみついてきた。


「なんなんだよ!あっちいけ!!」


俺が足を勢いよく振り払うと、コロの身体が冷たい雪に打ち付けられた。


「キャンッ!!」


コロは、冷たそうに左足を持ち上げて震えている。


「…あっ…わりぃ…」


俺の顔が歪んだ。

コロは保護犬だ。

俺と一緒で、飼い主に捨てられた。

ばーさんに拾われた時のコロは、傷だらけだった。

今でも、大人を見ると、怖がって影に隠れる。じーさんとばーさんも懐かせるのに苦労してたけど、俺にはなぜか最初から懐いてくれてた。



何やってんだ、俺



「コロ、違うんだ。ごめん…」



おそるおそるコロに手を伸ばした。





コロに、嫌われちゃったかも…

もう、寄ってきてくれないかも…

大人以外も、怖くなっちゃうかも…






「コロ。」

俺は震える手でコロのおなかを撫でた。



コロは上目遣いでじっと俺を見ると、立ち上がって俺の横に座った。

そして、まるで撫でてくれっていってるみたいに、顎を上げて首を伸ばした。



なんかわかんねーけど、すげぇ泣けてきた。

コイツ、ほんと、俺みてぇな犬。



なんだ俺、中学生にもなって泣いて、バカじゃねーの?



でも、涙、止まんねーや





「ほら、亮平、コロ、帰るわよ。お父さんも待ってるわよ。みんなで、あったかいごはん食べましょう。」





おばさんが涙目で俺とコロを抱きしめた。

なんなんだよ、うぜぇな。






でも、


なんかわかんねーけど、


涙とまんねーし、


俺も、


手を、


伸ばしちまったんだよ。
































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ガラスノココロ〜冬〜 タカナシ トーヤ @takanashi108

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