第58話 新たなる旅立ちと、仲間たちとの別れ

「行っちゃったわねぇ」


「ああ」


 エーフェを乗せた馬車一行が街の門を越えて去っていく。

 おかげで寂しさも否めず、見送りにきた俺もギネスも少しセンチメンタルに浸ってしまった。


 まぁバーギュのおっさんも付いているし、きっと大事はないだろう。

 だから道中の不安は無い。ただただ寂しいだけだ。ちょっと涙目になるくらいに。


 しかしこれで俺たちもとうとうお役御免、お城を出る時がやってきた。

 英雄と言えど貴族ですらない奴がいつまでも居座る訳にもいかないしな。


「さて、それでギネス組はこれからどうするんだ?」 


 でも俺は絵描きに没頭していたから、実は近況のことをよく知らない。

 そのせいでギネスの方がずっと詳しいからこうして尋ねる他なく。


 とはいえ流民制度の緩和が決まっているとだけは噂で聞いている。

 そうなるとちょっとこいつらの行く末も気になってしまって。


「間もなく流民も街の中で暮らせるでしょうから、体の弱い人や子どもは特設された保護区に行くことになるでしょうね」


「そうか。生活ががらりと変わっちゃうな」


「まぁ皆そこは慣れてるしきっと平気よ。それに――」


 だけどギネスは空を見上げ、笑顔を浮かべる。

 まるで空一面の晴天の如く、不安なんて一つも見当たらないと言わんばかりに。


「実は流民の街が作られることになりそうなの。その候補地も既に決まっていてね、ギネス組が率先してその場所の構築を引き受けたわ」


 そんな中で語られた話に、俺はつい唖然としてしまった。

 今の話がバーギュから聞かされた息子の話と被ってしまって。


 以前も流民の街が作られそうだったという話は物知りのギネスならきっと知っているはずだ。

 もちろん、それが頓挫したということと経緯も。

 おかげで妙な不安が脳裏をよぎってならなかった。


「何? 心配してくれてるのぉ?」


「当たり前だろ? 前に問題があったことくらいは俺でも――」


「ええそうよ。だからこそ今度はやり遂げたいと思うの。アンタに教えてもらった工法とかも役に立てたいし、こういう時こそ統制を重要視するギネス組の役目じゃない?」


「……そうだな」


 でもそんな不安はすぐに払拭されてしまった。

 途端に見せたギネスの「ニシシ!」とした笑顔に屈託がまったく無かったから。

 当時と違って犯罪者じゃない真っ当な人間なら、きっと心配は無いだろうって。


「本当はアタシもアンタと一緒に行きたいとこだけど、こうして流民代表になっちゃったからそうもいかないわ。こうなったら大ギネス組を仕立てて新しい街の市長にでもなってやるわよ」


「ああ、お前ならきっと出来るよ。……いや、やってくれよな筋肉野郎」


「アンタも頑張って強く生きなさいよ、生まれたての坊や?」


「おう!」


 だから俺たちはこんな憎まれ口を叩きながら拳先を当て合う。

 なんだかんだで長い付き合いだし、おかげで否が応でもベストフレンドの一人だ。


「ところでアンタはどうするのさ?」


「俺は、そうだな……冒険者ってやつにでもなってみるよ。なんたって俺は自由と可能性を求める男だからな」


「そう。なら冒険者ギルドにでも行きなさい。きっとここのなら良い様に扱ってくれるわよ」


「ああ、そうするつもりだ」


「いやぁ~~~もったいないですねェ。個人的にはウィーバー商会の戦略顧問に呼びたい所だったんですケドぉ」


 するともう一人のベストフレンドが俺の肩を叩き、ニヤァとした顔を近づけてくる。


「シャナクもギネスたちの力になってくれよ。いい商売になると思うぜ?」


「もちろんですともォ! 聞けば黄金像の作り方を伝授してあるとか!」


「ああ、しっかりとレシピをな。だからアレを卸すならギネス組をどうかご贔屓に」


「はぁぁぁ~~~ピクトさんのプロデュース無しだと少し不安ですが、まぁあなたが信頼している相手ですしきっと平気ですネ!」


 さすがシャナク、儲け話となると手厳しい所がよく見える。

 とはいえ女神像もレシピ通りにすぐには出来ると限らないし、最初はきっと苦労するに違いない。


 でもギネス組とシャナクなら大丈夫だろう。

 是非ともこれからのガルテニアの礎を産業で築き直して貰いたいもんだ。


「さて、と。俺もそろそろ行くかな」


「ええそうね、じゃあここでアタシもお別れかしら」


「僕の用意した馬車がありますのでギネス組の皆さんはどうぞご利用くださいっ!」


 俺もギネス組と一緒に行きたい気持ちはある。

 しかしこの世界をもっと知りたいっていう欲もある。


 そして俺は後者を選んだ。だからギネスたちともここでお別れだ。

 今後は人伝いの噂とかでアイツラの良い話を聞くことにするさ。


 後は俺自身が死なないように精一杯生きてみるとしよう。


「んっふふー! じゃあ私も冒険者ってのになるー!」


「あーーーっ! もうセリエーネったら抜け駆けしてえ!」


 だが早速と命の危険が到来だ。

 背中から抱き着いてきたセリエーネの両腕が首を絞めつけてきやがるうぐぐ!?


「嬉しい!? ねえピクト嬉しいでしょ!? やったー!」


「ぐぅえええ!?」


「喜んでいるっていうか、苦しんでいるようにしか見えないんだけど……」


 あいかわらずの馬鹿力だ!

 この細い腕の一体どこにそんな力が秘められているのか!


 どうにも振りほどけそうにもないので、一本背負いの要領で思いっきり体を前に倒してセリエーネを振り捨てる。

 あまりの苦しさに咳払いするも、おかげで死は免れた。セーフ!


「いったぁい! 何するのよー!」


「志半ばに殺されるつもりはないからな。俺は伝説を残すまでは死ぬ訳にはいかんのだ」


「な、何の伝説です……?」


「え? うーん……異世界転生らしくハーレム伝説とか?」


「???」


 おっと、ウルリーシャにとってはまだ早い話題だったかな?


『単に言葉にモザイクがかかったせいでハーレムの方も聞こえにくかった説!』


 いや、そこまでは知らんがな。

 へるぱ側の管轄なんだろうからしっかりしなさいね?

 もっとも、ボヤけて丁度いい話題ではあったのだけども。


「せっかくエーフェニミス様から旅立ちの許可も得たんだから一緒に行っていいでしょ!?」


「それは構わないけど、今みたいに都度殺しにかかってくるのはやめてくれよ?」


「違うよ~今のは愛情表現だってぇ~♪」


「愛で殺されたら堪らんわ……」


 しかしそんなボヤキの甲斐もなく、二人が嬉しそうに俺の腕へ抱き着いてくる。

 二人がそれでいいならもういいか。


 ――と、そんな訳でセリエーネとウルリーシャは俺と同行することになった。


 なんでも、エーフェが「俺と一緒なら」ってことで許してくれたらしい。

 そこで俺にも同意確認をして欲しかったものだが。


 ま、個人的には両手に華という状況は嬉しい限りだがね。

 それに三人一緒でのスタートならきっと退屈しない冒険者生活になりそうだなぁ。


『四人の間違いではー?』


 だがそう意気込んだ矢先にへるぱが顔をどんどんとズームさせてくる。

 しかもなんだ付け髭を差し出しながらだと!? 何がしたいんだお前は!


 ……こりゃ本当に退屈しなさそうだ。

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