第3話
翌朝、街を出てからも一行はのんびりとしたペースで旅をつづけた。
ノラと言えば、ミラベルのレース編みが羨ましくなってきたころだった。
(ミラベルはこの旅程の事知ってたんじゃないかしら?)
そうでなければレース編みセットを持って来たりするだろうか。
窓から見える景色も国境近くの街道に入ってからはさほど変わり映えがしない。この辺は渓谷の淵を通るため、ほぼ崖のような場所に無理やり道を作ったという方が正しいような場所だった。
さすがにのんびりしたペースとはいえ馬車は右に左に激しく揺れた。
これほど揺れては本を読むことも出来ない、恐らくすぐに馬車酔いしてしまうだろう。
「ねえ、そのレース編みいつまで続けるの?」
ノラは跳ねる座席からずり落ちないように、必死にしがみつくようにして乗っているというのに、ミラベルは全く意に介さない様でレース編みを続けている。
と、その時だった。外が騒がしくなったのは。
「何かしら?」
ガンという音と共に馬車の屋根に石のようなものがぶつかったような衝撃が走った。
「馬車から降りるな!」
激しい騎士の声が聞こえると同時に、複数の入り混じった怒号が聞こえてきた。
何か分からずノラは必死で馬車のシートにしがみついた。さすがのミラベルもレース編みどころではない、二人で蹲るようにして馬車のシートにしがみつく。
その時、ドンッという衝撃と共に馬車はぐらりと傾いた。
一瞬の事だった。
「ノラっ!」
ミラベルの叫ぶ声が聞こえると同時に、傾いた馬車のドアは空いてしまったのだ。一瞬の内にノラは馬車から放りだされた。
土煙の中で見えたのは、盗賊と思われる者たちと騎士の乱闘。そして、足元に流れる激流だった。
空に投げ出された体は、ノラが叫び声を出す暇もなく渓谷へと落下し、その下を流れる激流に飲み込まれていった。
男爵令嬢の宮廷女官は隣国の皇子に望まれる(愛が理由ではないそうです!) 鈴木やまね @suzuki_yamame
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