ループ&ループ 3
アラームが鳴った。
目が覚めたユキハルは、勉強机へと向かった。
適当にノートを引っ張り出し、シャーペンを手に取り、これまでに分かったことを書き込んでいく。
①僕は朝六時五十分から、七時四十八分までの約一時間をループしている。
ループする条件は女の子の死。僕が何をやっていようがどこにいようかは関係ない。逆に言えば、彼女が死ぬまでは僕もループしない。
②女の子もループしている。
これは確定というわけではないけど、前回のループであの子は僕を知っているようだったから多分間違いない。もっと話せる機会があれば良いけれど、現状は難しい。
③女の子は空から落ちて来る。
今回の問題の中で一番ネックで、難しい問題がこれ。
この原因を見つける事が、最優先事項なのは間違いない。
だからこそ、女の子が何処から落ちて来ているのかを考えるべきだ。
例えばだけど、宇宙から大気圏を突き抜けて落ちてきている、が答えだとしたら、僕に出来る事なんて無い。恐らく一生このループ空は抜けられないだろう。
少し高度を下げて、飛行機や気球の類でも同様だ。
一時間以内にそこに辿り着くなんて、ヘリコプターでもないと不可能。そもそもヘリがあっても僕には運転出来ない。
ここで気になって来るのが、あの子が最後に言った言葉。
「私を、抱きしめて」
意図は分からないが、意味は絶対にあるはず。
そうじゃないと、あの状況でそんな一言は出ない。
抱きしめる事で何かが変わるとは思わないけど、それが絶対に出来ない状況だとしたら、わざわざ僕に伝えるか?
落下している女の子を抱きしめるなんて不可能。それはもう僕が身をもって証明してる。
であるなら、何らかの方法で僕は「あの子が落下する前に出会える」可能性があるって事だ。
それも一時間以内に。
ここまで考えて、ユキハルは頭を悩ませた。
「いやでもこの理論でいくと、あの子は一時間以内にどこかから空に打ち上げられて落下してる事になる。そんなの一体どうやってんだよ」
ゲームみたいに大砲で打ち上げられている。
クレーンの様なもので高く持ち上げられている。
超能力で上空にワープさせられている。
そんな突拍子もない考えばかりが浮かぶ。
考えても考えても答えは出ないので、ユキハルは考える事をやめた。
「今一番僕が考えるべきは『どこから?』だ。『どうして?』も『なんで?』もあの子に会えさえすれば、全部後から着いて来る」
そう結論付けると、ユキハルは家を出た。
時間はまだ三十分ぐらいある。少しでも手掛かりとなる物を見つけたかった。
空は相変わらずの曇り。
女の子は毎回、雲を割って姿を現す。
一度空に上がってしまえば、落下するまで見つける事は難しいだろう。
ここは埼玉県の少し田舎よりの場所だ。
東京の様に何十階建ての高いビルなんてものは無い。
しかし、今までのループでも女の子が空に上がっていくところを見かけたことは無い。
意識していなかったからと言われればそれまでだが、そんな不思議な現象、流石に一回ぐらいは目撃していてもおかしくない。
空を見上げながら来宮商店街を歩くユキハル。
「ユキ坊、ユキ坊」
いつもの声が聞こえてくる。
鶴ばあが新作の団子をくれるイベントだ。
団子を食べて感想を言う、ただそれだけのイベント。
ユキハルに一つの疑問が浮かんだ。
(例えば、僕がここで違う行動を取ったとしたら、鶴ばあはどうなるかな?どうせループするんだ。一度やってみるか)
ユキハルは鶴ばあを振り返った。
「おはよう、鶴ばあ。新しい団子が出来たんだよね?」
「おおっ。どうしてだい?よ~分かったね~」
驚きながらも、団子を差し出す鶴ばあ。
「僕、今日をずっとループしてるんだ。だから、鶴ばあが団子をくれるのも知ってるんだ」
鶴ばあは不思議そうに首を傾げる。
「なんだい?そのループってのは?」
「繰り返すって事だよ。鶴ばあにとっては普通の一時間かも知れないけど、僕にとっては、もう何十回も体験した同じ一時間なんだ」
「はえ~、不思議な事もあるもんだね。ユキ坊は凄いね~」
「ははは。そうだね」
鶴ばあのしっくり来ていない様子には、ユキハルも納得ではあった。
そもそも理解される訳が無い。自分が当事者じゃなかったら、こんな事突然言われたって信じるはずも無い。
ユキハルは鶴ばあに「じゃあまたね」と告げると、歩き出した。
すると鶴ばあは「はいはいまたね」と言うと「それにしても…」と独り言を続けた。
「今日は不思議な事だらけだね~。ユキ坊は良く分からない事を言うし、あそこの工場も、もう誰も使ってないはずなのに、すっごい煙が出てるしね~」
ユキハルは鶴ばあを振り返ると「ん?どうゆう事?」と尋ねた。
鶴ばあは「ほら、あの煙」とモクモクと空へ登っている、曇り空の色とは明らかに違う黒い煙を指差す。
「すっごい汚ないだろ?何作ってたかは忘れたけど、確か環境問題が~とかで役所の人と揉めて、社長さんが辞めちゃったんだよ。それからずっと放置されっぱなしさ」
「それっていつの話?」
「いつだったかな~。ユキ坊がまだ赤ちゃんの時だったのは間違いないんだけどね~」
ユキハルは煙を見上げた。
もしあの子があの煙の中から空まで上っているとしたら、見つからないのも充分に納得がいく。もし間違っていたとしても、このまま手がかりが無いよりは、見に行く価値は充分ある。
「ありがとう。鶴ばあ」
感謝を告げたところで、時刻は丁度四十八分を迎えた。
ラストヒーロー 4N2 @4N2
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