第3夜
ねぇ、しってる?
この病院には幽霊が出るってウワサ、何処にでもあるけれど__。
ここにはね、4階が無いの。
昔はあったけれど、ちょっと前になくなったんだって。
死を連想するからって話が出てるけど、本当は幽霊の仕業なんじゃないかって!
え、今はどうかって?
__さぁ、4階が解体してからずいぶん経つからよくわかんない。
ただのウワサだからね、しょうがないよ。
…………………………………
ふわりと、意識が戻ってくる。
随分と眠っていたようで、東病棟にはうっすらと朝日が差し込んでいる。
廊下から流れてくる風がまだ冷たく、布団を出るには早い季節だと教えてくれる。
そうはいっても、早起きな患者はもう体を起こし水を飲んだりふらりと静かな病棟を散歩したりしている。
もちろん、今目の前を通った若い男性にもボクの姿は見えていない。
すたすたと歩いては談話室に向かい、奥の自販機で白湯を買う
がたん、自販機から飲み物が落ちてくるのとかちゃんと小銭が自販機の中で回収される音が聞こえる。
若い男性は白湯を開け一口飲みこめばすぐに蓋を閉め、談話室から見える朝日に視線を向ける。
そういえば彼は昨日内視鏡を受けたばかり。
検査、と言いつつもがんの疑いがかかっていた、昨日の今日ですぐに結果を知らせるわけではなさそうだったが彼の中では色々な気持ちが交差しているのだろう。
明日には退院だったか、結果が彼の表情を柔らかくしてくれれば良いのだが、今の表情は朝日に照らされてわからない。
少し冷めたであろう白湯を大事そうに持って、彼が病室に戻っていくのを見送った。
後でカルテ内容を少しのぞき見させてもらおう...。
もしかしたら、メモが必要になるかもしれないから。
さてはて、これからの時間はあまりまともに動けない。
人気の少ない場所か、情報収集のために外来に行ってみるか。
うーーん、どうしよう。
一応、幽霊とはいえ実体化のようなこともできるしその気になれば話すことだって可能だ。
もちろん限界はあるけれど。
それを駆使してもいいが下手につかまるとボロがでる。
なるべく人間との直接的な交流は避けたいものだ。
生あくびをしながら伸びをする。
今日は外来に行こう、気分転換もたまには必要だし。
そうして久々に入院病棟から外来病棟へと移動することにした。
元地縛霊の備忘録 ふみんふきゅー @humin__zz
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