第15話『炎煌竜アルターヘイム』

「これでようやく、全ての試験が終わったな」


「そうね……はぁ~疲れたわ~。頭も身体も……」


 そう言って、伸びをするシャルは「それで……」とジト目で見た。


「―――何でアンタは、その子と一緒にいるわけ」


 シャルの言う『その子』、っつのは間違いなく―――


「あわわわ……」


 このチビ女の事だろうな。


 シャルの睨みつけにより、チビ女はオレの背後へ隠れて小さな肩を震わせた。


「何かさーこのチビ女、頭イカれてんなーって思ってたじゃん? オレたち。でもよ、さっき一緒に戦ったんだけど、スゲェー魔法使うんだよ。まっ、頭イカれてんけど」


「い、一緒に戦ったってどういうことよっ!?」


「酷くないですか!? ボクに対する印象、酷くないですか!? しかも、お二人で!?」


 シャルのことが怖かったはずなのに、チビ女はオレとシャルに問い詰める。


 すると、さっきの凄みはどこやら……シャルは「それはその……」と苦笑いで顔を逸らした。


 あんな奇声、目の前で見たら、そりゃー頭イカれてるって誰もが思うわな。


 ドンマイ! チビ女!


「―――皆の者、安堵するのはまだ早いぞ! 試験は終了などしていない!」


 談笑するオレたちに、ゴリセンが言い放った。


 疑問符が浮かんだオレたち受験生の中から―――キモ野郎が代表してゴリセンに聞く。


「試験が終了していないとはどういうことですか!?」


「あーはっはっは! 確かに例年通りならその通りだな! しかし先ほども言ったが―――」


 豪快に笑うゴリセンが、打って変わって鋭い眼差しを向けた。


「今年の試験は例年とは違う、と」


「「「………!?」」」


 ざわつき、パニック、戸惑い、受験生どもから動揺の声が上がった。


 例年とは違うって、何すんだって言うんだよ……。


「グレゴリオ先生、それでは受験生たちの不安を駆り立てるだけですよ」


 ゴリセンの横に立つ、【勇者】がゴリセンを諭した。


 すると続けて、「まぁ、緊張感を持ち直してほしいという気持ちがわかりますが……」と、ゴリセンの行動に共感した。


「あーはっはっは! そう言う事だ! 皆の者! 別に脅したわけではないのだ! 許してくれ! それでは最終試験の説明に入る―――」


 そう前置きをしてから、ゴリセンは最終試験とやらの説明を始めた。


「今までは、対人を想定しての試験を行っていた!それが先ほどの実技試験だ! しかし我々教師は新たな要素が必要だと考えた!」


「魔物に対抗する―――対魔物戦。その能力を測るための最終試験を行いたい、と。俺たち【黄昏のトワイライト】が呼ばれたわけだ」


 ゴリセンに続くように、【勇者】が最終試験に何をするか言い、自分たちがここへきた理由を明かした。


 そうか、そうゆー理由で最終試験するわけか。


 オレがそう納得していると、隣にいるシャルが一歩前に出た。


「最終試験を執り行う理由はわかりました。しかし、一体どの魔物を討伐するのでしょうか?」


 そういや、魔物って言ってもいっぱいいるからな。どれぶっ倒すんだろ?


「それはな―――」


「グレゴリオ先生、実際に見てもらった方が早いかと」


【勇者】がゴリセンを腕で静止すると、ハッとさせてから「確かにその方が良い!」と下がった。


 それを確認した【勇者】は、腕を下ろして【大魔法使い】を横目で見る。


「ミミ、あれを」


「えぇ!」


 ハァアッ! と【大魔法使い】が杖を掲げると、オレたち全員にまで広がる魔法陣が現れた。


「何だ!? この魔法陣!?」


「一体、何を……!?」


 突然の魔法陣に、受験生どもは戸惑い叫んだ。


 そしてその戸惑いは―――


「あ、アルセ!? 何なのこの魔法陣!? アンタ、何か知ってるんでしょ!? 教えなさいよ!」


「うぅ……! アルセしゃん……! ボクたち、どうなるんですかぁ……っ!?」


 オレの右腕をバキバキッと半端ない握力で握り潰し、文句を垂れるシャル。


 オレの左腕に抱きつき、涙を流して縋るチビ女。


「あぁ、これ―――」


 転移魔法だわ、と教えた瞬間、シュンッとオレたちはどこかへ飛ばされた。





「い、一体、ここは……」


「どこだ……?」


 誰かがそう呟くと、【勇者】がふっ、と含み笑いをした。


「ここは大量のドラゴンが巣食う……『竜の森』だ。つまり、お前たちの最終試験はドラゴン討伐……それも―――」


 一人一体、倒してもらう! と言い放った瞬間、ドラゴンが羽ばたき、叫んだ。


『竜の森』の木々が揺れ、ざわめき、完全に魔の巣窟と成る。


「む、無理だ……ドラゴン討伐なんて」


「だって、ドラゴン討伐には……Sランクパーティーが五つ必要なんだろ……?」


「しかもそれ、一人で一体を? 明らかに不可能だろ……」


 最終試験でぶち倒す魔物がドラゴンかつ、一人一体を倒すと判明した。


 その途端、受験生どもは見るからに覇気を失い、戦意喪失していた。


 回りの情けないヤツらが怖気づく中、オレは疑問を抱いていた。


 ドラゴンってそんな強いのか? ただ火吹いてる図体のデカいだけだし、一人でも余裕って思うんだけど……。


 そこまでビビる? まっ、面白いことに変わりはねーか!


「【勇者】ソージ!」


 突然、キモ野郎がオレたちの前に出る。


「確かにあなた達の言うように、魔物への対抗手段は重要だ! しかし、いきなりドラゴンは無謀だ! 試験内容の変更を求める!」


「そ、そうだそうだ! 死んだらどう責任取るつもりだ!」


「いくら試験とはいえ、やりすぎよ!」


 キモ野郎に続くように、訴える声が続出。


 しかし、【黄昏のトワイライト】もゴリセンも大した動揺を見せない。


 平然と冷静に、【勇者】は語る。


「確かに今の君たちでは不可能。ドラゴンに喰われて死ぬのが運命だ」


「なら―――」


「しかし、そうならない為に俺たち【勇者パーティー】がいる。君たちを死なさず、守り切る事を約束しよう」


「大丈夫……だよ?」


「ご安心ください」


「必ず俺たちが守るからな!」


「任せてちょうだい!」


【勇者パーティー】の面々の絶対に守る宣言。それは絶大な信頼と安心を生み出した。


 ……だが、それでも受験生どもの不安は払拭できなかった。顔でわかる。


「だけど……」


 キモ野郎が拳を強く握って俯くと、【勇者】はわざとらしく「あーあ」と続ける。


「俺たちはどんな風に魔物を倒しているのかな?」


「……!」


 キモ野郎が顔をハッと上げた。まるで何かヒントを得たように。


「みんな! この最終試験、受けよう! 僕たちなら乗り越えられる!」


 キモ野郎がオレたちへと振り返りそう告げた。その顔には不安も悔しさも無い。


 ただ―――勝利へ続く道だけを見つめていた。


「受けるって、どう言う事ですか!?」


「貴方も先ほど、我らと同様に反対していたではありませんか!?」


「どのように乗り越えると考えられているのでしょうか!?」


 何かやけに丁寧な口調だなーと思いつつ、オレも気になっていた。


 一体、あのキモ野郎には何が見えたんだ?


「僕たちは勘違いをしていたんだよ! 一人でドラゴンを討伐すると……。でも、誰も一人で戦えとは言ってない! パーティーを組んでドラゴンと戦うんだ!」


「そうか、それなら……!」


「一人が倒したら、ローテンションで……私たちでも、対抗できるかもしれない!」


 キモ野郎の言葉によって、受験生どもに希望が宿る。


 オレはその様子を見て、素直に感心した。


 確かにパーティーなら、役割分担決めて効率良く戦えるし、人間の最大の強みだがらな、共闘は。


 オレもさっき知ったもん。


 でも、今オレ―――一人でやりてぇ気分だわ。


「さっき僕は気づいたんだ……【勇者】ソージの言葉を受けて。一人で乗り越えられないから、仲間と連携して強みを活かす。そしてやがて、突破口となる……。そうですよね! 【勇者】ソージ!」


 キモ野郎が【勇者】一行へ振り返ると、【勇者】は「あぁ!」と感心し頷いた。


「人と言うのは、一人では決して乗り越えられない壁というものがある……だから、俺たちこうしてパーティーを組んで困難を乗り越えた……」


 語る【勇者】の眼には、多くの死線を体感して来た独特の説得力があった。


 受験生どもから、感嘆の声が漏れる。


「まっ、いざとなったら俺たちが助けに向かう。それに、ここには破滅を呼ぶドラゴンが火山の中にいるが、封印されている。だから、安心して臨んで―――」



『グォォォォォォオオッ!!』



 瞬間、【勇者】の背後から、魔物の咆哮が鳴り響いた。


 この場にいる全員が、その方向を振り返る。


 見えたのは、山の火口から一本の火柱が天を突き刺そうとする光。


 それはやがて収まり、火柱に潜む正体が明確になった。


「まさか、あれは……!?」


『炎煌竜アルターヘイム』! と、【勇者】は告げた。


 すると、アルターヘイムはデカい翼をはためかせ、一直線に飛んできた。


 ……侵入者である、オレたちを殺す為に。


「そ、そんな……! 封印が解かれたというのですか……!」


「一体、どういうことだ……!」


【聖女】と【鉄拳の武闘家】がそう言い、【黄昏のトワイライト】に動揺が走る。それはオレたち、受験生にも届いた。


「クッ……! ミミ! みんなを転移魔法で学院に戻ってくれ!」


「わ、わかったわ!」


 一刻も早くオレたちを逃がしたいらしい【勇者】は、【大魔法使い】に命令を下し、それに従い魔法の準備をする。


「でも、それでは試験が―――」


「今は試験とか合否とか言ってる場合じゃ無いだろ!!」


「……ッ!?」


 こんな状況にもかかわらず、キモ野郎はそんなバカなことを【勇者】に聞いた。

 

 結果、お叱りを受けて、キモ野郎は気圧されビビった。初めて聞いたな、【勇者】の怒鳴り。


 けど、あのキモ野郎はまだマシだな。他のヤツらなんて、そんなの関係無しにビビりまくってるもん。


 それに、オレもバカだから―――このまま終わんのはつまらねェよな?



「必要ねーし、勝手に決めてんじゃねーよ」



 そう言って、オレは堂々と歩く。


 すると、「あ、アルセ……」とらしくねぇシャルの弱っちい呟きが耳に入った。


「ちょっと君! 今は大人しく指示に従って―――」


「喋んな」


 オレは【大魔法使い】に向かって手をかざした。


「わ、私の魔法が……消えた!?」


 バリンッと魔法陣がバラバラに割れ、目を見開く自称【大魔法使い】。


 オレがしたのは、転移魔法を発動しようとする【大魔法使い】の構築式読んで、魔法陣を消失させた。そんだけ。


 簡単だもんな、ディスペル。同じ構築式真似して、当てればいいだけだからな。


 そう思いながら、【大魔法使い】の横切って、オレは【勇者】のド真ん中に立ち止まった。


「認めるわけねーだろ、バーカ。オレが一発でブチのめして、試験続行させてやんよ」


 ヒヒッと口角を上げて、オレは笑った。


「何を言ってるんだ!? いいから早く逃げるんだ!!」


「いくらあなたが自分の腕に自信があるとしても、太刀打ちできません! お願いですから、わたくしたちの言う事を聞いて下さい!」


【鉄拳の武闘家】様と【聖女】様が、オレを止めようとする。


 それは他御一行様も同様なようで、鋭い視線が向けられた。


 まっ、オレにとっちゃ、どーでもいいことだけど。


「うるさい。黙って見とけ。丁度いい練習の機会なんだよ」


 そう言ってオレは、練習中のアレを発動し瞬間移動で向かった。


「オレの踏み台なれ―――」


 クソドラゴンッ! と、天から地を穿つようにアルターヘイムの頭上から拳を一発。


『グギャァァァァァァァアアッ!!』


 叩きつけられたソイツは、地面にデケェークレーターを作って伸びた。


 着地したオレは、炎煌竜を倒せた喜びもなく―――ただ静かに掌を見つめ、強く拳を握った。


「……やっぱまだ、修業が足りねぇな」


 そう呟くと、背後から足音が聞こえてきた。


 振り返ると、予想通りのヤツらがいたが……。


「君は、まさか……!」


「そんな、嘘でしょ……」


「たったの一撃で倒したと言うのか……」


 駆け付けてきた【勇者パーティー】たちの顔は、信じられない、と言った感じだった。


 さすが【勇者パーティー】だな。


 遅れたとは言え、あの状態のオレについてきたんだ。


 そこは認めよう。


 っつーわけで―――



「これで合格だろ?」



「ご、合格……?」


 自分で言った事を忘れ、疑問を浮かべる【勇者】に腹が立つが、思い出させることにした。


「言ってたじゃねーか。ドラゴンを一匹倒したら合格だって」


「そう言えば、そうだったわね……」


「だろ? だから―――」


 オレは背を向けて、手を横にひらひらと振った。


「オレ、帰るわ」


「おい、待つんだ!!」


【勇者】の声なんて聞き流して、オレは静かになった『竜の森』の茂みへと消えていった。






~あとがき~


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元神童、貴族狩り廃業します!~実力至上主義の魔剣学院にて無双し、神童として返り咲くようです~ 大豆あずき。 @4771098_1342

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