第四章:もふもふとすべすべの間

第40話




 お邪魔していた侯爵家の別邸にて、突然発熱したと伝えられたエレノア。

 幸いなことに翌朝には回復傾向となり、さらにその夕方には医師から帰宅の許可が出て、いつものようにエルダーウッド家の侍従が操る馬車でリースフェルト邸へと戻ってきた。体面をことさらに気にする子爵夫妻が、ほっと胸をなで下ろしたのは言うまでもない。

 その後すぐに、夫妻が愛してやまない一人息子であるセドリックが一時帰宅。明るく朗らかな性質で、使用人たちからも慕われている彼が戻ったことで、日頃は静かな邸にも活気が出たようだった。

 ……そこまではまあ、良かったのだが。





 「――なんですとぉ!? うちの姪を王都へ呼びたいぃ!?」

 「ええ。主が是非に、と」

 取り繕う余裕もないほど驚いて、言われた内容をくり返しているダドリーに使者――言うまでもなくロビンだが、こちらは普段通りにこやかにうなずいてみせた。少し離れたところで従兄と並んでいるエレノアに、ちゃんと正面から視線を向けて続ける。

 「ご令嬢は来春、王立魔導学園の中等部に入学されるご予定です。その準備として、事前に子女の皆さまが授業見学をされる習わしがございます。

 そこで、こちらで仲良くしていただいたエレノア嬢に、ぜひその付き添いをしてほしい、と仰せでして」

 見学は約一週間で、その間は王都にある令嬢の『実家』で面倒を見てもらえる。さらに、ご両親のお眼鏡に叶えば、付き添いが済んだ後も引き続き作法の勉強などしつつそこで過ごせるし、来春からは学友という立場で共に学園へ通うこととなる。

 無論、これは全てご令嬢の一存、という名のワガママなわけで。かかる費用の一切は『実家』側が負担してくれ、何であれば在学中に今後のこと――どこぞの邸に行儀見習いとして入るだとか、王族付きの侍女や女官としてお勤めするとか、もっと言えばちょうどいい家柄の御子息との縁組であるとか――も、応相談だという。

 正直扱いに困っている姪っ子の進路として、願ってもないほど良い話だろう。一応当主としての体面があるから、突然の申し出に難しい顔でうなっていたりするが、対談を眺めている当のエレノアにはよーくわかった。伯父さん、もうだいぶイエスの方に傾いてるなぁと。

 (……にしても驚いたなぁ、キャロルさんたちの『実家』……)

 万が一にも仕損じてはいけないので、今はやり取りに集中すべきなのだが、それでもやっぱり驚いたものは驚いた。そんなわけでやや遠い目になった当事者は、ほんの数日前の出来事を思い返してみるのだった。


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ちびっ子妖怪博士、世にはばかる! 古森真朝 @m-komori

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