第39話 第8部 発覚編 15

ここまでのあらすじ


クラと凛を死霊屋敷に迎え入れた彩斗達。

彩斗は真鈴とジンコから、すでに施設にいる時から加奈はクラと凛の中に気が付いていた事、そして、加奈は本気でクラの事が好きで結婚をしたいとさえ思っていた事、しかし加奈はクラと凛の幸せを思って、2人で死霊屋敷に来るようにとあの施設で加奈が凛に伝えた事を知り、加奈の底知れない深い優しさに気が付き驚いた。


そして、クラと凛は2人で『ひだまり』に働きたいと申し出て、彩斗達は喜んで受け入れた。

更に、明石と圭子、四郎とリリーの結婚式にクラと凛も加えて3組で行う事になり場はますます盛り上がった。

そんな中で圭子が喜朗おじの脇をつつき、彩斗も呼んでキッチンにいった。


圭子から凛は悪鬼で死霊が見える事を告げられ、四郎や明石もキッチンに呼んで事態を説明しこれは深刻な事態だと彩斗達は戦慄する。


結局彩斗がまた圭子に説明したように凛にも『ひだまり』に巣くうスケベヲタク死霊軍団の事を説明する事となった。


移転が間近に迫り、荷物などを矛び出すだけになった旧『ひだまり』に制服の採寸だと告げて凛を連れて言った彩斗達。


新しい制服を試着してはしゃいでいる凛に彩斗達は説明を始めるのだった。


以下本文


数日で凛の制服が出来ると言う事で業者は去り、一応着るとこんな感じだよと言う事で体形が似ているジンコの制服を凛に着せた。

凛は制服姿をガラスなどに映して顔を赤くしてはしゃいでいた。


「彩斗、準備は良いね。

 凛にあの事を説明するよ。」


笑顔ではしゃぐ凛を見つめながら圭子さんが小声で俺に言った。

悪鬼歴が長く、他の人間や悪鬼の心をある程度読む事が出来る喜朗おじも笑顔で凛を見ながら呟いた。


「今回は死霊どもが待機しているぞ。

 凛が大丈夫なのか実験をするのだ。

 もしも凛が嫌悪感を示すようなら、凛に他の制服を用意するか、凛をキッチン要員にするしか無いな。」


凛が死霊達にスカートの中を覗かれることに嫌悪感を持っているのにそれを隠していると喜朗おじには見抜かれるのだ。


「よし、準備は整ったよ。」


俺達は顔を見合わせて頷いた。


「あ、凛、ちょっと良いかな?

 とても大事な事を凛に説明しなければならないんだ。」

「はい、何でしょうか?」

「ちょっと奥の個室に来てくれる?」


俺達は奥の個室に行き、大テーブルについた。


無邪気な顔で座っている凛に、俺は圭子さんに肘で体をつつかれて『ひだまり』の秘密の説明を始めた。


「ごほん、凛には今のうちに知っておいてもらいたい事が有るんだよ。

 そして、大事な事はね、この事が受け入れられないなら凛の制服を別の物にするか、クラとキッチン要員でコックの制服を着てもらう事になるけど、今から話す事は加奈達やクラにも絶対に秘密にして欲しいんだ。」

「…はい…。」


戸惑う表情で答えた凛に俺は今まで何故ひだまりが大繁盛しているのか?

そして、ひだまりで働く加奈、真鈴、ジンコが何故美しく引き締まった脚と人間離れした敏捷性と持久力を身につけたのか、そして、『ひだまり』のある地域にスケベ犯罪が激減した原因、つまりスケベヲタク死霊軍団の事を説明した。

凛は真剣に俺の話を聞き、パソコン画面の売り上げや犯罪率のグラフや、加奈達が最近足がきれいになりヒップアップして敏捷性と持久力が上がった証言、はなちゃんが死霊が密集している空間を通り抜ける際に人体の細胞レベルまで負荷がかかる事を証言した画面を見つめた。


「…とまぁ、こういう訳なんだよ。

 この事を知っているのは、はなちゃんとワイバーンの悪鬼メンバーと死霊が見えるようになった俺しか知らないんだ。

 圭子さんも悪鬼になって見えるようになったから説明をしたし納得してくれたしあの制服でシフトに入る事も了承してくれたんだけど…。」


凛は黙って俺を見つめている。


「…あの…凛はどう思うかな?って…。」


凛は不思議そうな顔をして俺を見ている。


「…あの…スケベ死霊達がスカートを覗く事で俺達はあの制服でシフトに入る事で日当と別に大入りと言う名目で1日5000円の手当を出しているんだけど…。」

「5000円も貰えるんですか?

 嬉しいです!」


凛が笑顔で答えた。

違和感を感じた俺は隣に座っている喜朗おじの耳に口を近づけて小声で訊いた。


「喜朗おじ…凛は…。」

「うん…嘘も嫌悪感も無いな…。」

「そうなんだ…。」


凛は笑顔で言った。


「スカート覗くのは死霊さんだけですよね?

 それなら大丈夫です!

 私、新宿で客を取っていた時、よく死霊さんたちに同情されたり励まされたりしたんです。

 あの人達は良い人ばかりだったですよ!

 あの時、死霊さんたちが居なかったら…私…。

 それに死霊さん達は実体がないから…まあ、私の身体を通り抜ける事になるけど、私は気にしませんよ!

 それに地域の犯罪率が減るし、『ひだまり』が大繁盛して、足がきれいになってヒップアップしたり敏捷性や持久力が付いて1日5000円も手当てを付けてくれるなんて凄いですよ!」


凛があっけらかんとした笑顔で答えた。


俺と喜朗と圭子さんは拍子抜けしてずっこけそうになった。


「ちょちょちょ!

 凛!スカートの中を覗かれるんだよ!

 大丈夫なの?」

「ええ、だって覗くのは死霊さんでしょ?

 クラは焼餅焼くかも知れないから絶対秘密にしますよ!

 あと、加奈達もびっくりするかも知れないから絶対内緒ですね!

 判りました!

 私は大丈夫です!」


屈託が無い笑顔で答える凛を見て俺達は多少混乱した。

確かに論理的には凛が言う通りである。

俺はもう一度喜朗おじを見た。


「うん、凛は嘘を言っていないな。

 人間や悪鬼と死霊は完全に区別がついているぞ。

 それに屋根裏から家具を運び出す時の死霊達ににこにこして挨拶していたじゃないか。

 凛の言う事に嘘は一つも無いぞ。」


圭子さんが戸惑いながら凛を見つめていた。


「…え~なんか最近の若い子が判らないわ~。」


凛は肉体は17歳だが、苦労をしていたので真鈴達より少し年上に見える、そして悪鬼になって4年が過ぎているので精神年齢的には21と言う所か…。


「…ごほん、凛の言う事はもっともだね…じゃあ、ここで少し試さしてくれても良いかな?」

「ええ、どうぞ~!」


凛が笑顔で答えた。

俺は圭子さんと喜朗おじの顔を見た。

2人とも黙って頷いた。


「スケベヲタク死霊達!入って来い!

 新人に挨拶をしろ!」


暗黒の才蔵、稲妻五郎、彗星のシュタールに率いられたスケベヲタク死霊軍団がぞろぞろと個室に入って来た。


「お呼びでござるか?」

「何やら新人さんが入ると…」

「この人ですか~はじめまして~。」


死霊達は凛を見て挨拶をした。


「こんにちわ~!初めまして~!凛です!

 わ~!沢山いらっしゃるんですね~!」


凛がにっこりと挨拶を返した。

死霊達は凛の笑顔にノックアウトされたようで得も言われぬ歓声を漏らした。

喜朗おじが感嘆の声を出した。


「おお!凛は全く嫌悪感を抱いていないな~!

 それが死霊達にも伝わっている!

 凛はまるで可愛い犬の群れでも見るような気分でいるぞ。」

「喜朗おじ、マジですか?」

「凛は死霊を見て気味悪いと思わないの?」


圭子さんが尋ねると凛はまた無邪気な笑顔で答えた。


「え~!

 だって死霊さんでしょう~?

 其れに良い死霊さんばかりでしょ~?

 大丈夫ですよ~!」


彗星のシュタールが凛の左薬指の指輪を目ざとく見つけ顔を赤くした。


「…え~凛さん結婚していますよ~!

 あの…良いんですか~?」

「構いませんよ!

 私、新婚だけど旦那さんには絶対内緒にしておきます!

 だって死霊さんたちだもん。」


死霊達がまた歓声を上げた。

圭子さんがため息をついた。


「ねえ、凛、無理しないでも良いわよ~!

 平気なら立ってスケベ死霊達に足を見せてあげて。」

「はい!」


凛は元気よく立ち上がるとスケベ死霊達はおずおずと凛に近づいてきた。


「いいよ皆!遠慮しなくて良いわよ~!」


凛が笑顔でスカートの端を摘まんで少しだけ引き上げた。

スケベ死霊達がおおおおおおお~!と歓声を上げた。

凛は無邪気な笑顔を浮かべたままスケベ死霊達の中に分け入っていった。


「死霊さんたち、見るだけですよ~!」


凛が動くたびにスケベ死霊達が凛の足もとを追って動いて行く。

ある意味で子犬の群れと戯れる女性の様な、それはなんていうのだろうか…冷静に考えるとエッチでいやらしい事をしているのだが、スケベ死霊たちと戯れる凛の姿に…慈愛というか…エロさを遥かに超越した、とてもイノセンスな感じを受けて不覚にも俺は感動してしまった。

ある意味で凛は無邪気な天使のようなとても大げさに言えば聖母のような存在に見えた。


「最近の若い子って…いや…凛って凄いわぁ~。

 なんでだろ?いやらしさを全然感じない~。

 私もあの境地に達すれば良いけどね~。」

「うん、実は凛は凄い人なのかも知れないな…悪鬼だけど…空気に慈愛が満ちておる!。

 その者エロき衣(ころも)を着てスケベ死霊達の野に降り立つ…。」

「喜朗おじ!その先言わないで!」


圭子さんが呟き、喜朗おじが呟き、圭子さんがぴしゃりと喜朗おじの呟きを封じ、俺と圭子さんと喜朗おじはスケベ死霊達と笑顔で戯れる凛を見て肩の荷が下りるとともに感動していた。


そして、引っ越し業者が2トントラックに個室の大テーブルといすなど、残りの荷物を載せ…そのトラックにスケベヲタク死霊達がしがみついて新しい『ひだまり』に向かった。

その後を俺達は車でついて行きながら、時々クラクションを鳴らして急ハンドルを切ったり、急ブレーキを踏んで路肩による対向車などにあった。

恐らくトラックに隙なくしがみついているスケベヲタク死霊軍団が見える人が運転していたのだろう。

そのドライバーたちは皆、目を見開いて口をあんぐり開けていたし、中には手を合わせて念仏を唱えているような者もいた。

交通事故が起きなくて良かったと俺達は胸を撫で下ろした。


こうしてスケベ死霊など全然気にしない凛とスケベヲタク死霊軍団は新しい『ひだまり』に到着したのであった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

お試し!ダイジェスト版!『吸血鬼ですが、何か?』最終バージョン とみき ウィズ @tomiki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ