第38話 第8部 発覚編 14
ここまでのあらすじ
彩斗達は施設のカフェテリアで昼食を食べた。
人間と悪鬼用に量も選べて、しかもとても美味しかった。
食事の最中にリリーがこの施設には月を細かく観察調査出来る天文台があり、さらに地下にはもっと凄い施設があり、ちょっとした秘密基地になっているとの事だった。
彩斗は蔵前と凛が職員用のスペースで仲良く話しながら食事をしているのを見て、やはり蔵前と凛は出来ていると確信し、加奈達が気付かないか心配したが、おしゃべりに夢中の加奈達が気が付いていないようなので安心した。
そして、真鈴とジンコは月観測の天文所を見学する事になり、彩斗達は帰ろうとするが、ベンチで読書をしている凛を見つけた加奈が彩斗に帰りはRX-7の鍵を渡し、運転して帰って良いよ!と言い残して凛の所に走って行った。
彩斗は悲しいピエロになっている加奈を悲しく思いながらもRXー7の運転を堪能するのであった。
死霊屋敷に帰ってきた彩斗は蔵前に会って写真を渡した事でテンションマックスの加奈、月観測所やその他の施設を見学して興奮気味の真鈴とジンコ達で非常の話が盛り上がった。
その後のナイフトレーニングでもハイテンションの加奈の前には、彩斗、真鈴、ジンコ、圭子が束になって掛かっても敵わなかった。
以下本文
「終了!
加奈の完勝だな!」
四郎が叫んだ。
やれやれ、クラ効果でテンションが上がった加奈には俺達が束になっても敵わなかった。
「今日のトレーニングはここまで!
各自風呂に入って汗を流して寛げ!
晩飯を食うぞ!」
加奈が鼻歌交じりで屋根裏を出て行った。
俺と真鈴とジンコは残って屋根裏のモップ掛けをした。
「やれやれ、加奈はクラのおかげで元気になっちゃったよね。
でもな~俺は知ってるけど、加奈が知ったら…。」
真鈴とジンコのモップ掛けの手が止まった。
「え?」
不思議そうに見る俺に真鈴とジンコが歩いてきた。
不機嫌そうな顔をしていた。
「どうしたの2人とも…。」
真鈴が俺に顔を寄せた。
「彩斗、加奈がおちゃらけた単純な女子だと思ったら大違いなんだよ。」
「え?」
ジンコも俺に顔を寄せた。
「加奈はね、私達より年下だけど、私達が足元にも及ばない優しい、深い愛情を持った女の子なんだよ。
彩斗はおこちゃまだから加奈がクラに会ってあんなテンションになっているとしか思えないようだけどね。」
「そうだよ、加奈は全部知って…いや、ここで言うのは止めるよ。
とにかく私達じゃ足元にも及ばないほど優しい女の子なんだよ。」
「彩斗は人を見る目がまだまだだね~。
私達は加奈の味方だからね。」
真鈴はジンコの言葉に力強く頷いた。
俺は何の事だか良く判らなかったが、真鈴もジンコもその後口を閉ざしてモップ掛けを再開した。
その後、皆で風呂上がりに夕食を済ました後で暖炉の間で寛いだ後、真鈴とジンコと加奈は酒とつまみを持って部屋に戻って女子会をした。
朝方まで飲んだようだ。
あの晩の加奈のテンションの異様な高さを数日後に判った時、俺はやっぱり…まだまだおこちゃまだと思った。
翌朝、やはり、たらいとすりこぎで叩き起こされた。
玄関ホールに降りて行くと真鈴、ジンコ、加奈の3人は二日酔いなのかげっそりした感じで立っていた。
昨日の女子会で二日酔いなんだろう。
今日の3人は少し動作が鈍く、おかげであのクロスカントリーでは初めて俺が最初に死霊屋敷に帰りついた。
朝食後、講義が休みの真鈴は講義があるジンコとはなちゃんを乗せてボルボで出かけた。
ジンコを大学に送り届けた後で東京拘置所に収監されたあの子供殺しの外道を遠くからでも監視に行くと言う事だ。
練馬区にいる質の悪い悪鬼については時折四郎か明石が監視しながらしばらく泳がせることになりそうだが、これは仕方ないだろう。
その3匹の悪鬼は幸いな事にやたらに人殺しを続ける奴らでもなさそうだった。
やはり人口密集地に住む悪鬼は用意周到にターゲットを選んで計画を立てて人殺しをするようだ。
今の所直ぐに人殺しをする兆候はなく、もしも緊急の時は見張りの四郎か明石から連絡が来て俺達が緊急出動する予定だった。
喜朗おじは新しい『ひだまり』の開店準備に出かけた。
二日酔いの加奈はあきれ顔の喜朗おじに昼までしばらく休んでから来いと言われた。
圭子さんは司と忍をレガシーに乗せて学校に行った。
今日は今までの学校の最終日、明日からは近くの小学校に通う事になる。
俺と明石と四郎は明石一家の家と喜朗おじと加奈の家、プールの工事を監督した。
プールの工事を見ていた俺の視界に加奈がぶらぶらと草原の方に歩いて行く姿が見えた。
暫く見ているとやはり二日酔いだからなのか元気がない様子だった。
やれやれと思いながら俺は加奈の方に歩いて行った。
加奈は草原の真ん中あたりで足を止めて隣接した敷地の山を眺めていた。
「加奈~!
まだ二日酔いか~?」
俺が声を掛けて初めて加奈が気が付いたようで俺に振り返った。
俺は違和感を感じた。
普段の加奈はまるでレーダーを張り巡らせているようで人が近づいて来ると直ぐに気が付いて確かめるのに…。
振り向いた加奈の目にはうっすらと涙が浮いていた。
「ああ、彩斗…。」
「どうしたの?
二日酔いが治らない?」
「いや…そうじゃないよ…。
加奈は昨日のクラの事とか思い出しただけ…。」
「そうか…。」
やはり一日合わないと寂しいのか、それとも自分の写真をクラが見ていてくれているのかなどで感傷に浸っているのだろうか?
「加奈はそろそろ『ひだまり』に行かなくちゃ…。」
「そうだね、ところで加奈は凛とお話したようだけどどうだったの?」
「…凛とは仲良くなったよ。
殺し損ねた相手だったけど…仲良くなれたよ。
彼女の今の事も聞いたしね…。」
「それは良かったね~!
凛もああいう格好して保養所で何か月かいたからか、結構可愛い人だったね。」
「彩斗、そうだね。
凛は可愛いよ…私もう行くね~。」
心持視線を逸らして加奈は死霊屋敷に走って行った。
俺は加奈の後ろ姿を見て何か昨日のハイテンションと大違いの加奈に違和感を感じた。
恋する乙女は心が不安定になると誰かが言ったのを聞いたような気はした。
しかし、加奈はそれだけじゃないような…。
まぁ、乙女心は俺には判るはず無いと思い、俺は頭を振りながらプール工事の現場に戻った。
速乾性コンクリートなどの先端素材を使った工事は順調に進んでいて、クリスマスどころか11月の上旬には水の循環施設や温室タイプの外装もすべて完成するとの事だ。
明石一家の家や喜朗おじと加奈の家も順調に工事が進んでいる。
突貫工事と言う訳でも無いがそれでも11月中に入居が出来るめどがついている。
喜朗おじと加奈は新しい『ひだまり』の2階に家財道具などを運び込んでいて、近づく開店前にもう住める状態になっていた。
加奈が新しい『ひだまり』の開店準備に出かけ、俺と四郎と明石で工事をしている人達の賄を作って皆で賑やか昼食をとった。
工事をしている人が、ここは昼めしが旨いからすっかっり太ったと笑っていた。
人間離れした味覚を持つ悪鬼が作った料理は旨いに決まっているし、いつも量を多めに作るが料理が残った事は一度も無かった。
午後に俺は一人で重い装備を身につけてクロスカントリーに出かけた。
敷地内を一回りして岩井テレサの土地の巨石に挨拶に行った。
あそこの番人をしている巨大な熊にも巨大な鹿にも今日は出会わなかった。
工事が終わって彼らが帰らないと射撃練習が出来ないので、俺は屋根裏に行って天井からつるしたピンポン玉を槍で突く練習をした。
われながらかなり上達したと思う。
9割以上の確率で揺れ動くピンポン玉を貫く事が出来るようになっていた。
午後遅くになってトラックがやって来た。
岩井テレサからの荷物で樹海の地下や射撃練習で消費した弾薬などの補充の品だった。
リリーが気を利かせたのだろうか、加奈の『加奈・アゼネトレシュ』の弾丸も更に500発入っていた。
これは非常に助かった。
弾の残りを気にせず、心置きなく射撃練習が出来る。
今までの小学校の友達とお別れをして少ししょぼんとした司と忍をレガシーに乗せて圭子さんが戻って来た。
圭子さんは新しい学校の教科書や司と忍の持ち物に名前を書き込んだりなどの作業に明石も狩り出して忙しそうだった。
夕方近くに真鈴とはなちゃんが大学で講義終わりのジンコをボルボで拾って来て帰って来た。
屋敷にいる俺達は真鈴とはなちゃんの報告を聞きに暖炉の間に集まった。
真鈴がコーヒーを飲みながらため息をついた。
「結論から言うとね、あの外道の事は良く判らなかったわ~。
ただ、はなちゃんが言うにはあそこには結構悪鬼がいるみたいね。」
「え。やっぱりそうなの?
いそうな感じはするけどね。」
「彩斗、悪鬼は収監されている者じゃ無いと思うじゃの。
あの拘置所とか言う中でかなり動き回っていたからの。」
「そうなのよ彩斗。
収監されている者ならそうそう拘置所の中をあちこち動き回る事は無いと思うのよね。
だから…悪鬼だと言えば…看守かあの拘置所の職員か出入りの掃除とか請け負っている業者かもね。
ただ、数が多くてはなちゃんもどれがどれだか判らなかったのよ。」
「うむ、悪鬼が早々に警察に身柄を拘束されるとは考えにくいし、仮に逮捕されても脱走など容易にできるだろうからな。」
「そうだな四郎、悪鬼なら仮に逮捕されても所轄の警察署の留置場に収監される前に逃げ出す事は簡単だからな。」
「その通りね、景行が言う通り拘置所に送られるのは起訴手続きが済んで裁判待ちの者か
裁判中の者か死刑囚位だもん。
そんな手続きを黙って受ける訳無いと思うわ。」
「詳細はまだ判らずじまいと言う事ね~。
私としてはさっさと裁判をしてあの外道を死刑にして二度と世に出さないで欲しいわ。」
被害者の子供達と同じ年頃の娘を持つ圭子さんはため息とともに言った。
幾ら未成年とは言えあれだけの犯罪を犯して俺達が見たところ全く反省の色を見せなかったあの外道が裁きを受ける事は日本の大多数の人間が望んでいる事だろう。
今日の工事も終わり、工事関係者も帰って、入れ替わりに喜朗おじと加奈が死霊屋敷に帰って来た。
「ただいま~!」
午前中とは違って加奈は再び陽気な笑顔を取り戻していた。
喜朗おじと加奈は真鈴とはなちゃんが調べた結果を聞いて難しい顔になったが、ジンコや真鈴やはなちゃんに新しい『ひだまり』の2階の様子を聞かれて嬉しそうに加奈が話し始めた。
今、加奈は屋根裏の一角に作られた部屋に住んでいる。
新しい『ひだまり』の2階は12畳程度の大きな部屋が3つ、そしてキッチンと食堂兼の、やはり12畳ほどのスペースと、ユニットバスとしては一番大きなタイプの物とトイレがあり非常に快適だそうだ。
真鈴とジンコは興奮して私達も加奈の部屋にお泊りに行きたいと盛り上がっていた。
引っ越したら遊びにおいでよと加奈は笑った。
結局子供殺しの外道は裁判の傍聴券を何とかして手に入れて直接様子を見ると言う事に落ち着き、俺達は屋根裏でナイフトレーニングをした後で夕食を摂った。
そしてまた数日が過ぎ、司と忍は新しい学校に通い始め、いよいよ新しい『ひだまり』の開店が近づくある日、荷台に幌をかぶせた軽トラックがやって来た。
「あ!来た来た!
彩斗ゲートを開けてよ!」
たまたま屋敷にいた加奈がカメラモニターを見ている俺の肩越しに叫ぶと玄関に走って行った。
ゲートが開いて軽トラックが入って来た。
俺と四郎と明石、そして真鈴とジンコも、そしてはなちゃんも真鈴に抱かれて玄関に出て軽トラックを出迎えた。
軽トラックが止まり、運転席からワイバーンのジャケットを着たクラが降りて来た。
俺達は笑顔になった。
クラが玄関にやって来て俺達に挨拶をした。
「あれから色々考えました。
俺でよければ、ワイバーンに入れてください。」
「大歓迎さ!」
「クラ!よく来たな!」
「クラ!待ってたよ!」
皆が口々にクラを歓迎した。
「そしてあの…。」
クラが言いにくそうに言いかけた時、加奈がクラに声を掛けた。
「もう!水臭いよクラ!
もう1人いるんでしょ!
さっさと連れてきなさいよ!」
加奈に言われてクラは軽トラックに戻り助手席から女性が降りて来た。
それは…凛だった。
2人は手をつないで俺達の所に歩いてきた。
「やっぱり連れて来たんだね!」
「良かったよ!
これでいいんだよ!」
「当然の事じゃの!」
真鈴とジンコとはなちゃんが喜びの声を上げた。
顔を赤くしたクラと凛。
「今日から2人、よろしくお願いします!」
クラと凛が揃って頭を下げた。
こうしてワイバーンに新しいメンバーが2人加わった。
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