第2話
「なんで、シェリルが情報漏洩に関与していたことになってんのよ!」
何度か暗殺者や山賊のような者の襲撃を受けつつ、カリスト領から王都に戻った。賊を何名か捕らえることに成功し、神殿騎士のカルヴァンが嬉しそうに拷問、いや取り調べに引き摺って行った。聖女が絡んでいるせいか神殿騎士はああいうことまでやるのね。
王都に帰って早々、私はシェリルについて調べていた。
てっきり当時王太子だったレグルスを篭絡したから悪女なんて呼ばれたのかと思ったら、まさか死んだ後に濡れ衣を着せられていたなんて! 正確には疑惑だけれども!
シェリルの寮の部屋からは機密情報のメモが見つかったらしい。まだ公になっていないはずの、取引を新たに禁止する予定の食べ物や植物・動物の名前なんかを殴り書きしたメモがね。いやいや、寮の部屋なんて誰でも入れるでしょ! ちょっと鍵いじれば誰だって入れるわよ! 寮母を買収するとかね!
シェリルは情報漏洩の真犯人にされそうだったが、待ったをかけたのがまさかのイザベラだ。彼女はシェリルの学園での成績があまり良くなかった、むしろ底辺だったことを指摘し、上手く使われただけかもしれないとメモの筆跡鑑定まで依頼した。目視では文字の形が似ていても癖が一致しないところが多くあり、メモは証拠にならなかったらしい。
シェリルは誰かに良いように利用されたのではという見方が大半だが、悪女とも言われているらしい。
イザベラもシェリル毒殺の犯人として疑われたのに、自分の疑惑を晴らしてついでにシェリルの疑惑まで晴らして、気丈なことだ。シェリルが疑われていたということは、情報を漏洩したのは王太子だったレグルスとみなされる可能性が高いから、イザベラは婚約者を助けようとしただけかもしれないけど。
まさか成績の悪さがシェリルを救うことになるとはね。
シェリルのことを聞いた時に情報漏洩の話をしていなかったから、王妃イザベラにとってはシェリルが犯人ではないのだろう。
ただ、私がシェリルだと告げれば複雑なはずだ。自分の娘が元浮気相手かもしれなかった人。うーん、嫌だわ。心の浮気相手だった、いやむしろ浮気よりもレグルスにとってシェリルは依存先だった気もする。まぁ、イザベラとしてはどちらも嫌よね。
「というか、重要な情報をメモできるほど私は頭が良くないわよ。ケシって言われても植物の名前なんて分からないし。レグルスだって重要な情報は喋らなかったわよ。これって宰相の罪を被せられたんじゃない?」
当時第二王子だった王弟って線もあると思うけど、マティアスがはっきり宰相が関与したと言っていた。
宰相が情報漏洩してバレそうになったから、シェリルを毒殺して罪をかぶせて逃げおおせたとか? まだ学生だったシェリルに? あぁ、それか第二王子が下手をしたからシェリルに罪を被せたとか? なんだか考えすぎて頭が痛いわね。
あ、第二王子が下手をして悪事がバレそうになって宰相に泣きついて宰相がシェリルを毒殺したとか? これが一番あり得るかも。
疑惑だったからシェリルの実家であるバーンズ男爵家に公の罰は与えられなかったけれど、バーンズ男爵家なんてもう存在しない。養女だったシェリルの毒殺と情報漏洩疑惑、そして王太子の側に侍っていたことで、他家から一斉に商売で手を引かれて没落して爵位返上をしたようだ。バーンズ男爵家に愛着などなかったからどうでもいいが。
「姫様、パーティーの準備を始めますよ。まずはお風呂からです」
「そういえば、パーティーで着るドレスってどうなってるの? ずっとカリスト領にいたけど、どれを着るのかしら」
「王太子殿下ならびに王妃殿下が準備してくださいました。王女として、そして聖女様としても参加するパーティーなのですから姫様は誰よりも美しくあらねばなりません」
「私は元々綺麗じゃない?」
「それはもちろんですが、より美しく磨かなくてはなりませんよ。皆、姫様に会いにやって来るのですから」
建国記念日当日、マーサは他の侍女たちと朝から張り切っている。
そういえば、シェリルだった頃は全くパーティーに縁がなかった。学園の卒業パーティーにも参加できずに死んだのよ。あれには未練がある。
私がカリスト領に向かう前に追い出した侍女は配置換えになったようでもういなかった。宰相が手を回したのか、それとも兄たちか。
シェリルのことや宰相のことを考えている間に、マーサたちが体を洗い、髪を整え、化粧を施して準備をしていく。
聖女だからとイメージで白でも着せられるのかと思ったら、用意されていたのはアデルの目のような赤のドレスだった。
デコルテが大きく開いており、金糸でいたるところに刺繍が施され、エメラルドらしき宝石が胸には散りばめられている。長い袖はゆったりとしていて、動くたびにヒラヒラ揺れるので見栄えがするだろう。でもこれ、一歩間違えたら悪女に見えるわよ? いや、もちろん白を着る気はなかったけど。
「さすがは王妃殿下と王太子殿下のお見立ててです。姫様は絶対に会場で最も美しい姫君です」
マーサが泣きながらそんなことを口にする。侍女たちも準備をやり切り、アデルを見て恍惚とした表情だ。
「会場の控室でマティアス様がお待ちです」
そうだった、マティアスとは婚約者なんだった。シェリルの時にこんな経験がないし、アデルになってからは聖女云々で怒涛の日々だったからパーティーは初めてだ。ダンスは……アデルの体がきっと覚えているでしょう。
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