第5話
魔物が現れた翌日からは私につく護衛騎士が増えた。さらに私は建物の外には出られなくなった。
魔物に追いかけられるのはこりごりなので外出禁止に文句はない。
ただ、あのよく分からない鎖を出す力について何も説明されることなく、訓練もなく、癒しの水や札を作り続けて数日。私はこれまでよりも疲れていた。当事者なのに何の説明もないってどういうことよ。それに、何人もの騎士と神殿騎士に見られながら癒しの水やお札作るのは神経を使うのだ。
護衛騎士が増えたせいで、声を掛けられることが増えた。いい意味ではない。もちろん王女で聖女に敬意を払ってくれる騎士もいるが、どうもどこかの派閥から私の婚約者の座目当てで寄ってきている者もいる。
私がシスターや神官と喋っているからって、一応王女なんだけれど。それはこういう現場だから王女だの不敬だの言っていられない場合も多いけど。
露骨にマティアスよりも自分の方がいいのではないかと声をかけて来た騎士もいた。
「私の方があの地味な男よりも聖女様を満足させられます」
私は疲れて退屈していた。うんざりもしていた。
魔物が現れた原因だってまだ分かっていないのだ。
「ちょっと左向いて」
その騎士に命令して左や右を向かせる。騎士はまぁまぁ容姿に自信があるのだろう、私の命令に従った。金髪碧眼の騎士だ。金髪ならアデルの髪の方がずっと綺麗だ。この男の顔を見るよりも自分の髪を見ていた方がいい。なんなら兄ノワールだって見事な黄金のような髪色だ。そんなくすんだ金髪で何を威張っているのか。
「あなた、鏡見たことある?」
「毎朝見ております」
「じゃあ、その目は節穴なの? 私の周りには美しい者が多いの。お前如き、前菜の葉にも劣るわ。さっさと消えて」
交代の合間をぬって行われたその会話。交代でやってきた他の騎士たちにその騎士は追い払われた。能力や頭の出来で差別されるのだ。私が見てくれで差別して何がいけないというのだ。
神官たちから何日経っても何も言われないので、気になってある神官を問い詰めた。
「聖女様はあの封印のお力を使うのではなく、今は癒しの水や札を作る方に注力していただければと」
「でも、あると便利じゃない? 聖女の力で文献にも載ってるんでしょ? 制御の方法を学ぶことはできないの? 癒しの力の時は文献に載っていることを全部試したじゃない」
恥ずかしい祈りのポーズを取らされたことは根に持っているんだから。
神官はなぜか焦って汗を拭く。
「あの封印の力は体力といいますか、聖女様の力を多く使うので……それですと負傷兵の癒しが滞るので封印の力は今のところ必要ないかと」
「でも魔物の被害は多いじゃない。魔物自体全部封印できれば早いんじゃない?」
私は王都に早く帰りたいんだけど。
「いえ……それは……理論上はそうですが」
神官はなぜか口ごもる。態度が怪しい。
「当事者なのに情報共有もされないなんて酷くないかしら。それが神殿の私に対する態度なの? それならこちらも協力はもうしないけど」
シェリルみたいな男爵令嬢が聖女だったらここまで強気に出れなかっただろう。王女で聖女は神殿からしたら厄介よね。
神官はさらに位が上の神官に指示を仰ぎに行き、そして私にはやっと情報が共有された。
「建国の聖女様は邪竜に対して封印の力を使いすぎて亡くなった、と勇者様の書に記されています。ですから、聖女様にはそんなことになってほしくないと思って敢えて何もお伝えしませんでした。魔物に追われるような危機に陥った場合にしか今のところ発動しないようですので」
もう一回使っちゃったんだけど。
癒しの力は使いすぎて命が削られるなんてことはないのよね? 宰相と王弟以外も考えなくてはいけないから嫌になる。
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