第2話
「王女殿下は覚えておられないかもしれませんが、皆義務はすでに果たしております。それに護衛騎士などももちろんつくでしょうに、何を仰っているのか」
王弟が私の記憶喪失と見てくれだけの王女だったことを当てこすってくる。
見てくれだけの王女が急に聖女の力に目覚めてしまったので、王家はずっと隠してきたのではないかと疑いをかけられた。そこで、私の記憶喪失の公表がちょうど良く働いたわけである。
高熱で倒れ、記憶喪失になって聖女の力が覚醒したということにしたわけだ。私と神殿関係者でさえも聖女の力が覚醒した原因などは全く分かっていないけれど、そういうことにしたわけだ。なにせ、この国では建国以来の聖女だ。面倒なことになっている。
「あら、ではあなた様は何を義務として出したのかしら」
「魔物が出る地への援助は惜しんでおりません」
「王弟殿下なのですから、王家に次ぐほどの援助をされていらっしゃるのよね? 王家からは今度は王女である私が出るのですから、追加で何を出すのかしら」
「王弟殿下は他の伯爵家と同等の援助額でございます」
宰相が口を挟んできて、王弟は苦虫を嚙み潰したような顔をした。
この二人って仲が悪いのかしら。それとも手を握っていると悟られないように演技しているのかしら。ダメだ、あまり考えすぎると頭が痛くなってくる。
「公爵家が伯爵家並みにしか金を出していないとは知らなかった」
「アシュクロフト公爵家は騎士も出していないではないか」
「たったあれだけのことで聖女様に盾突いたのか?」
ザワザワと他の貴族たちが追随し始めた。
大口叩く割りに王弟は大して金出してないじゃないのよ。第二王子だったときから見栄っ張りは変わってないわね。
私はね、嫌だけど。すっごい嫌だけど二万歩譲って行ってもいいわよ。でもね、王女として楽して贅沢して生きていられるはずだった間に、他の人間が安全な場所でのうのうと過ごしているのは嫌なわけ。
そんな奴にギャーギャー文句だけ言われるのも嫌なわけ。じゃあ、あんたらも行きなさいよ。行かないなら文句つけられないくらい金と人員出しなさいよ。
「聖女様が危険な地域に行ってくださるのでしたら、フリント伯爵家も追加で騎士を派遣しましょう。婚約者なのですからマティアスも聖女様の護衛として帯同させます。復興のための金銭援助も惜しみません」
げ、マティアスついてくるの? いらないんだけど。最近神殿関係者とばかり会っていて、マティアスとは顔を合わせてないし何考えてるのかよく分からない。母親大事ってことしか知らないわよ。でも、宰相の話は私には都合がいい。マティアス以外ね。宰相は聖女の婚約者の座を死守したいだけかもしれない。
「まぁ、ありがとうございます。もちろん、フリント伯爵家がこれだけのことをしてくださるのですから他の方々もしてくださいますよね? さっきまであれほど聖女の力でも意味がないのでは、と仰っておられたのですもの。皆さま見てくれだけではないのですから、私よりもよほど役に立ちます」
「聖女様、それは一体どういう意味でしょうか」
貴族たちがどよめいて、代表して太った大臣が疑問を口にした。
「あぁ、別にお金だけを出せというわけではないのです。国民が危険な目にあっているのに、貴族がのうのうと安全な場所にいるわけにはいかないでしょう? 貴族の義務ってものがあるのですから。武芸をかじっている方や体力に自信がある方は魔物に破壊された街の復興ができるし、女性でも炊事や洗濯・私の手が回らない負傷者の手当てなんかで役に立てますね?」
ご令嬢は治安の問題もあるからそのあたりはすべて宰相に任せるけれど、と最後は宰相に丸投げした。
か弱い私が行くんだから。大して今何もしてない男どもは行きなさいよ。
聖女に認定されて、面倒なことばかりだ。兄も母も魔物の出る地域に行くことになったアデルを心配そうにチラチラ見てくる。
でも、王弟の悔しそうな顔が見れてスッとした。
シェリルだった頃から私はあいつのことが大嫌いだったのよ。年食って変わったのかと思ったら全然変わってないのね。
王弟は分かりやすいけれど、宰相は謎だわ。
しかも、宰相ってどこかで見たことあるのよね。シェリルだった頃に。どこだったかしら、初対面じゃないはずよ。
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