2月25日 疾走快走大迷走
傷のない子は夜道で
足をふみだすリズムがわからない
暗いあぜ道おどり場
怪我を恐れてお家へ戻れない
(♪white 井上陽水)
午前中、ユニオン・ステーション、チャイナタウンなどを見に行った後、午後にはレンタカーでトゥイさんの家へと向かいました。
トゥイさんの家はサンタアナという街にありました。もう少し詳しく言うと、カリフォルニア州オレンジ・カウンティ(郡)・サンタアナ。
ロサンゼルスの南東の位置にあり、ディズニーランドやメジャーリーグ・エンジェルスのホームスタジアムがあるアナハイムの更に先です。
太平洋岸に近い長閑な小都市で、僕たちのホテルからは車で1時間半ほどかかりました。
街の名前は聖母マリア様の母、聖アンナに由来したスペイン語。
“ロサンゼルス”もそうであるように、カリフォルニアは元々スペインにより植民地化された地であるので、スペイン語に由来する地名が多いようです。
ちなみに“ロサンゼルス”の名前の意味は“天使たち”。ウィキペディアによると、1700年代にこの地に入植したスペイン人たちが、「我らが貴婦人、ポルツィウンコラの天使たちの女王の町」と名付けたものが短くなったものらしい。
トゥイさん家へ行くため、レンタカーを借りたわけですが、翌日の日記に「安いレンタカーに借り換えた」と書いてあるので、多分ハーツかエイビスなどのメジャー会社で1日だけ借りたのだと思います。
翌日借り換えたのは格安の小さなレンタカー会社のもので、安いには訳がありました。
古いアメ車でしたが贅沢は言いません。ただトランクを開けてびっくりしました。
前の借り主が何をしたかは知りませんが、トランクに水が溜まっていて、萎びたオレンジがひとつプカプカと浮かんでいました。
日本じゃ考えられない。しかしこれもアメリカか。
僕たちはトランクを閉め、見なかったことにしました。まあ清掃状態とかはそんな感じでしたが、何よりも安さ優先です。
さて車は手配できたとして、自分たちで運転して目的地にたどり着けるのか。
今ならナビゲーションシステムが車に搭載されていたり、スマホでもマップ機能が簡単に使用できるわけですが、この時代にそんなものはありません。
レンタカー屋でもらった紙の地図と道路標識だけが頼りです。
ホテルから市内を抜けてフリーウェイに入る時、さすがにドキドキしたことを記憶しています。
フリーウェイ、アメリカの高速道路は極一部を除いて無料。ロサンゼルスのような大都市では片側6車線7車線なんて当たり前。
想像してみてください。朝夕ラッシュ時の、その広い両車線いっぱいの車の流れの大迫力。
広大な土地を贅沢に使っているその事実に、圧倒的国土面積の違いを見せつけられた思いでした。と同時に、この広い道は一体どこまで続いているのかと、アメリカ大陸全土への興味が湧き起こりました。
フリーウェイの制限速度は55マイル(約88km)ですが、皆100キロ以上でビュンビュン飛ばしてます。
最初は右ハンドル、右側通行への戸惑いもあり、右左折や特に合流地点では緊張しました。
ロサンゼルス中心地からサンタアナまではルート5をよく走りました。
ルート番号は南北が奇数、東西が偶数。
今も映画や音楽の題材に使われるルート66は、シカゴからロサンゼルスまでを東西に結んだ道です。
またそのルート標識には、それぞれに東西南北どっちに向かっているかがEWSNで表示されています。
サンタアナに向かう時は「Route5 S」、ロサンゼルスに帰る時は「Route5 N」という具合。慣れれば便利な表示ルールでした。
また実際に車で走ってみて気づいたのが、アメリカでは様々な車が走っているということ。
日本の自家用車はステイタス的意味合いもあるからでしょうが、きれいに洗車され、ピカピカに磨きあげられているのが普通だったりします。
ところがこの国では、車は生活の為の移動手段。まさしく足代わり。走ればいい、動けばいいといったとんでもない車が、大手を振って走っていました。
全身錆び錆びだったり、ドアが一枚なくてビニールシートを張って走っていたり。ガソリンタンクのキャップを失くしたのか、給油口にボロ布で蓋をして走っていた車には驚きました。
一方で譲り合い走行に関しては、日本よりアメリカの方がマナーが良かった印象です。
時間にギスギスしていないというか、慣れない我々の車線変更や割り込みにも寛大で、優しかったように思います。アオリ運転など一度もされた記憶がありません。
ガソリンスタンドでの給油でも、親切に助けてもらったことがありました。
初めてのセルフ給油に戸惑っているジャパニーズを見かねたおじさんが、操作方法、支払い方法を手取り足取り教えてくれました。
なんとか住所だけを頼りに探し当てたトゥイさん宅。約束の時間には少々遅れましたが、初対面の僕たちを笑顔で迎え入れてくれました。
初めて会うトゥイさんは20代後半、同い年ぐらいの奥様と平屋のアパート暮らし。物腰が柔らかく、温厚そうな人でした。
「これだけじゃ食べていけなくってね」
そう言って照れ笑いを浮かべたトゥイさんが見せてくれたのは、何点かの油彩風景画でした。画家を目指していて、生活の為にフリーマーケットで収入を得ているとのこと。
ティーンエイジャー向けのカジュアル衣料やアクセサリーなどを取り扱かっていました。
今思うと低所得者向けのアパートだったように思いますが、広いリビングがあり、部屋数が幾つもあるお宅は、狭小住居環境の日本からすると、羨ましいアメリカンライフに映りました。
トゥイさんが話してくれたフリーマーケットに関する説明はこんな内容。
・場所はサンタアナ周辺に何ヵ所もある
・郊外の大型駐車場で週末(土日)に開催
・誰でも出店できて、場所取りは申し込み順
・出店料は1日10ドルぐらい
またこちらではフリーマーケットとは言わず、「スワップミート」と呼ぶ。元々は物々交換から始まったことに由来しているらしい。
なるほど、swap、meet。会って交換するという意味か。
3月22日の日本帰国前に、ハワイに2泊、ソウルに1泊立ち寄る予定なので、本土滞在は17日まで。となると、この間の土日3回、6日間が勝負となります。
明日が最初の土曜日。華々しい僕たちのデビュー戦に心躍りました。
トゥイさん宅をお暇し、夕方まで時間があったので、海でも見に行こうと車を走らせました。
ところが住宅街を走るうちに、迷路のような場所に入り込んでしまいます。
「あれ?ここさっき通らへんかった?」
「そやな」
「ほんまや」
「どないなってんねん」
「あ、またここに出てきた」
「嘘やろ」
「こわっ」
「こっちは行き止まりや」
「どないすんねん」
「抜け出されへん」
「ミステリーワールドや!」
似たような家並みが続いていて、同じところを何度もグルグルしているようです。
山で遭難する原因のひとつを確かリングワンダリングというとか。方向感覚をなくし円形に彷徨い歩く現象。
「帰られへん」
「八甲田山や」
「天は我々を見放した」
道は必ずどこかにつながっている。道はそうやって、何度も迷いながら覚えた時代。
子供も転んで膝を擦りむいたりしながら、歩き方や走り方を身につけていくのです。
その経験のない子は、いつまで経っても自分の足で歩けないし、走れないのです。
失敗は成功に近づいている途中なんだ。
そう自分たちに言い聞かせ……
明日への期待に胸膨らませた3人は、小パニックに陥り多少時間はかかりましたが、無事迷路から脱出し、ちゃんとホテルまで帰り着きました。
ちゃん、ちゃん。
さあ、いよいよ明日。
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